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どん底

1957年東宝作品。
黒澤明監督が製作も兼ねた、ゴーリキー原作の低予算映画。
江戸時代の貧しい棟割長家を舞台に、そこに住んでいる個性豊かな人々のたくましい生きざまを、視点を据えてじっくり描いている。
ほとんど、舞台芝居のような作り方なのだが、それが逆に、個性豊かな役者陣の緊張感溢れる演技合戦を際立たせており、一見暗く退屈しそうな内容ながら、最後まで見せられてしまう。
この時代の、黒澤の技量を改めて認識させられる思いだ。
いわゆる万人向けの「娯楽映画」ではないが、決して「難解なアート作品」というものでもなく、じっくり腰を据えて観れば、今でもその深い魅力は素直に伝わってくる内容だと思う。
とにかく、役者たちが全員素晴らしく、東野英次郎、中村雁次郎、千秋実、伊藤雄之助、左卜全、三船敏郎、山田五十鈴、藤原鎌足、渡辺篤、上田吉二郎…など、黒澤作品ではお馴染みの名優、怪優たちが、画面の隅々まで計算しつくされた演出の中で、各々の存在感を競い合っている様には、まさに圧倒される。
特に、物語の中でキーパーソン的存在になる、左卜全の長セリフと演技は、彼のキャリアの中でも特筆すべきものではないだろうか。
やや長めの映画なので、気分や時間に余裕がある時、一度チャレンジしてみて欲しい作品。