2005年5月〜

2005年5月17日 静かな湖水の下に

このダムは一つの村を沈めてできた
どうしてダムが作られたのか
どうしてダムが必要だったのか
連綿と続いてきた村の歴史を
断ち切ってまで必要だったのか
新緑の中に静かに横たわる湖水は
何も言わない
村に息づいていたすべての暮らし
全ての命は
断ち切られたまま二度と帰らないのに
初めからなかったかのように
湖はそこにただ黙っている

2005年7月26日 この空に

朝珍しいものを見た
コンテナのサルビアにトンボが止まっていると思ったら
ちょうど羽化したばかりだったのだ
近づいて目を凝らしても、じっとして動かない
こんな所でどうして?
側溝の中にでもいたのだろうか

何年も何年も水底の泥の中で暗い世界を生きてきた
今ようやく大気の中に生まれでて
これから自由に飛べるのだ
美しい羽をぴんと張り、
背筋を伸ばしてはるか高みに昇るのだ

でも今しばらくじっとしていよう
長い間眠るように過ごしていた場所と
あまりに違いすぎるから
少しずつ 少しずつ踏み出さなければ
きっと眩暈を起こしてしまいそうだから