注意: このページに書かれている内容は基本的にフィクションです。 |
背景 |
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劉表に恨みを持つ孫堅は袁術の誘いにのって劉表の本拠地、荊州へ攻め上ってきた。 劉表は黄祖、蔡瑁を派遣したが尽く破れ、襄陽城は孫堅の兵によって完全に包囲された。 もはやその命運も尽きたかに見えたが……。 |
秘策 |
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蔡瑁敗北の知らせは、荊州全土の豪族を失望させた。孫権軍によって幾重にも囲まれた襄陽城はもはや陸の孤島と化し、
州牧劉表の命運は尽きと、誰の目にも映った。 劉表は眠れぬ夜を過ごしていた。なぜこのようなことに……。後悔の念が夢の中でも彼を苦しめる。 彼は漢王朝の衰退と共に色あせてしまった文化を荊州で再興しようと考えていた。そのために文化人を呼び寄せ、厚くもてなし、 天下が乱れても平和をどの君主よりも望んだ。そしてその結果がこれだ。
もし過ちがあったとすれば、あの一度きりだろう。そう、袁紹の命令で玉璽を持った孫堅を攻撃したことだ。
城を囲まれてからというもの夜風に当たることを控えていた彼だったが、今夜は久しぶりに星の下に身を置いた。
ふとその時、劉表の頭上を星が流れ、西の彼方に落ちた。
とその時、 「殿下……」
皆の視線は荊州で未だ無敗の男、
「城の備えは 無言の劉表に続けた。 「昨日昼、狂風が吹いて孫堅軍の大将旗を倒しました。また夜になり天を見上げていたところ、今度はケイ星が西の地に落ちました。 いずれも将星が落ちることを暗示しております」 「それは私も見たが……不吉なことを言うな」
そう言ったのは蔡瑁ではなく劉表だった。蔡瑁は床に視線を向けたまま、 「確かに。しかしあの狂風や星を見たのは我らだけではありません。いや、共に陣を張っている彼らのほうがより多く大将旗が倒れた ことを目撃し、野に陣を張る彼らのほうがよく多く星が落ちるのを見たでしょう。 破竹の勢いだったころならいざ知らず、遠く敵国に侵入し城を落とせずにいるとなれば、必ず彼らは不安に刈られましょう。 ましてや敵の援軍が背後から迫っているとなれば……」 劉表は目を見開いた。 「それはまことか……!?」 「いえ。袁紹殿への使者は尽く届いておりません。しかし彼らはそれを知らない。城から抜け出たものが袁紹殿へ救援を求めよう としていたことのみ知るのです。よって時間が立てばたつほど焦り始めましょう。まして大将旗が倒れたとなれば」
「うむ。確かに間者からの連絡では孫堅の取り巻きたちはそのことを不吉に思い、退却を進言したとか。しかし 「それこそまさに将星落ちる原因であります!」
「兵士は不安がり、大将のみが意気を上げている。これは明らかに敗北の前兆です」 「なぜだ?」
劉表の質問に、 「兵が戦意を失いつつあることを知らずにどうして策を立てられましょう。兵がついて来ぬ事を知らずにどうして 大軍を指揮できましょう。兵が故郷に帰りたがっていることを知らずにどうして突撃して敵を討ち破れましょう!?」
「古の名将は兵が戦意を失えば鼓舞し、ついて来ぬことに気付けは引き下がり、故郷に帰りたがればあえて死地に陣を敷 きました。ところが孫堅は兵が疲労し退屈していながらなお悠長に構え、士気が下がっていながら実力を過信し、故郷に帰 りたいと自らも思いながら意地を張って退却いたしません。これこそ孫堅の命運が尽きたことを示すものであります」 「……何かよい案はあるのか?」
力ない劉表の言葉に、
「孫堅は進むことを知りながら退くことを知りません。『進む勇気はわが身を殺し、退く勇気はわが身を生かす』と申します。
ここは一つ、強い馬と弓の名手を揃え、油断している敵の囲みを破ってケン山に上るべきかと。あそこはすでに蔡瑁殿と一度
戦っておりますから敵も地理について多少の知識を持っております。警戒を怠り、必ず勇んで追ってきます。
「誰か、この劉表の為に大役を担ってくれる者はおらぬか!?」 その言葉に進み出たのは、呂公だった。蔡瑁・黄祖はすでに孫堅の強さを身にしみて感じていたので志願できない様子だ。 「呂公ならば適任かもしれん」
「呂公。お前に精鋭500騎を授ける。城内から好きな兵士と軍馬を連れていくがよい」
呂公は謝辞を述べると早速退室した。 呂公によって孫堅の死が告げられたのは、それから数日後のことだった。 |