注意 |
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スープの香り |
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赤壁の戦い後、劉備の勢力拡大を恐れた孫権と周瑜は、孫権の妹との婚姻を持ちかけて誘い出し、劉備を人質として荊州の
地を得ようとした。しかしこの企みは諸葛亮によって見抜かれ失敗していまう。
そこで周瑜は劉備に美女と美酒を与えて骨抜きとし、天下の豪傑、関羽・張飛との間を裂こうと計画した。 「将軍、この地に来てよりだいぶ日もたちました。そろそろ本拠地へ帰ろうではありませんか」 「趙雲か……。まあそう急ぐな。私は今までどこへ行っても苦労続きであった。ここいらでしばしの休憩をしたいと思う」 「ならば将軍、荊州が曹操の手に落ちてもよいというのですか!?」 劉備はハッとした。あれだけ苦労して取った荊州が……まさか。 「それはまことか、趙雲」 趙雲は静かに答えた。
「つい先ほど、諸葛亮殿より使者が参りました。すでに曹操が荊州に攻めかかっていると! もはや一刻の猶予もなりません。
劉備は部屋の外に目を移した。彼はおもむろに立ち上がると扉の所までゆっくりと歩き、廊下、庭先を見回してから振り返った。 「それは諸葛亮の計であろう」
劉備は小声で呟いた。 「荊州からの使者ならば、まず私の所に来るはずだ。仮に使者が趙雲、お前に何かを話そうとしても、律儀なお前の ことだ、必ず辞退して私に使者が来た事を伝えるだろう。おそらくは、諸葛亮から策を授かってのことだろう、趙雲よ」
趙雲は何も言い返すことができなかった。 「お前にもだいぶ心配をさせてしまったな……すまぬ。こうするしかなかったのだ」 「そ、それでは今まで遊び呆けていたのは……」 「うむ。周瑜の目を欺くためだ。私が女に現を抜かしていると思えば、奴らの警戒も少しは弱まろう」 趙雲は顔を上げた。確かに、目の前で見る劉備の瞳から輝きは失われていなかった。
「美女も美酒も、できたてのスープの香りのようなものだ。人の欲望を掻き立てはするが、どんなに吸い込んでも
腹を満たしてはくれない。 趙雲は嬉しさのあまり涙が止まらなかった。
「時は満ちた。それは諸葛亮の策が証明している。私は帰るぞ! 我が仲間のいる故郷へ!!」 |