僕の夢
 僕は酔いつぶれた女を背負って、人気のない線路沿いを歩いていた。
 都心にあって寂れたアパートの立ち並ぶ一角。そこが彼女と初めて出会った場所だった。

「むにゃ……」

 酒臭い吐息に混じって猫の声を背中に感じた。一度足を止め、ずり落ちかけた彼女を背負いなおすと、子供のような寝顔が見えた。

「ちゃんと捕まってないとおっこちまうぞ。俺だって酔ってるんだから」

 聞いてか聞かずか、僕の首に回る彼女の腕に俄かに力が入った。

「こら、苦しいって!」

 僕は笑いながら怒ると、また誰もいないJRの側道を歩き始めた。
 薄汚い電灯は月の光の力を借りなくては、そこにあるすべてを照らすことはできない。今日は満月だ。僕は運がいいと思った。

「むにゃにゃにゃ……にゃは……にゃは」
 猫の声は、いつしか寝言と区別がつかなくなっていた。周りの人が見れば、きっとなんて女だろうと思うに違いない。
 でも、それを可愛いと感じてしまう以上、僕は彼女を嫌いにはなれないだろう。

 今夜はこの季節には珍しく、少し風が冷たい。今朝まで降っていた雨がまだ残っているんだ。
 ああ……、しまった。飲屋に傘を置き忘れてしまった。でもまあいいか。珍しいことじゃない……。

 僕はたまに揺り篭のように背中を揺らす。すると彼女は決まって顔を僕の背中に押し付け、幼子のような寝息を漏らすのだ。
 酒の匂いも、二人で飲めばさほど感じない。
 僕は名前も知らない古い歌を子守唄代わりに、名前も知らない町の光をたよりに歩きつづける。

 君は僕より年上で、普段は人前で突っ張ってばかりいる。誰にも弱みを見せない。ただ笑顔を見せるときだけ、君は少し 弱気になる。そんな時はいつも、嫌われることを恐れているから。
 最後の上り坂に膝を笑わせながら、僕はたまに背中に注意を向ける。少しだけ歳をとった子猫を見ては、また坂を上る。
 こんなとき、賊が現れたらどうしようかとよく思う。でもこの時の僕は強い。負ける気がしない。きっと酒に酔っているせいだろう……。

 無事に部屋までたどり着くと、僕は君の上着から鍵を取り出す。
 明かりを探す手も迷わなくなった。とりあえずリビングに座らせると、僕は台所の蛇口を捻る。ぬる水がやがて冷たくなるのを 感じた。

 僕が水を汲んでリビングに戻ると、眠っていたはずの君は決まって目を開けているんだよね。

「おかえり」

「ただいま」

 僕は今夜もしてやられたと思いながら、美雪の部屋を後にした。


 つい最近これに近い夢を見たので、小説風に書いて見ました〜。かなり恥かしい(〜。〜;
 ちなみに中島さんの本名は「美雪」と書きます。

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