種の壁と自然界への適応力

 まず伝統的品種改良について簡単に説明しよう。
 伝統的品種改良とは、近縁種のしかし異なる特性をもった植物の花粉を受粉させることなどにより、 その有効な特性を獲得した新種を開発しようというものである。
 この方法は人間が生まれる前の太古の昔から世界中で行われてきたことであり、そのリスクは 極めて低いと考えられる。

 一方、遺伝子組み換えという手法は、多くの場合「植物と細菌」または「動物と細菌」などのように、 種の壁どころか動物・植物といった最も基本的な(太古に遡る)枝分かれさえ簡単に越えてしまう技術だ。
 元より一般に動物は植物を食べ、その排泄物がまた植物を育てるというシステムが出来上がっている。
 また動植物が死ねば細菌がそれを分解し、地上を、海中を清掃してくれる合理的なシステムがあるのだ。

 ここに細菌の遺伝子を組み込まれた動物、植物の潜在的リスクを見ることができる。遺伝子組み換えによって 新たに生まれた生物は、生物学的には動物でもなければ植物でもない、ましてや細菌でもウイルスでもない、 全く地上に存在しなかった狼男なのである。普段は平凡な装いをしていても、いつ豹変するか分からない、危険 な輩なのである。

 また、これまでの品種改良された作物の多くは自然界への適応力が低い傾向にあった。
 たとえば春、どの苗よりも早く種から芽を出す作物を作り出したとしよう。この作物は灌漑設備の整った農場 では早く育ち、収穫できるというメリットがある。
 しかし一度自然界に放り出されてしまったらそれらの多くは死滅する運命にある。なぜなら、たまたま降った 第一回の雨を梅雨と勘違いし種から芽を出したとしても、実際にはまだ早春だとしたらその後のまとまった雨は 当分期待できないからだ。
 これは一例に過ぎないが、伝統的な品種改良作物の多くは人間の手の中でのみ効率的に繁殖できる能力を持っているのだ。

 では遺伝子組み換え作物ではどうだろうか?
 遺伝子組み換え作物は天敵となる害虫を寄せ付ない。または特定の除草剤に対してではあるが耐性を持っている。
 害虫を寄せ付けないという有利な形質によって、作物が生態的制約を超えて繁茂し、既存の植物を駆逐していく ことは十分考えられる。
 また違う除草剤の耐性を持った遺伝子組み換え作物と自然界で出会ってしまったら、病原菌と同じように 複数の除草剤に耐性を持つ作物が現われるかもしれない。
 つまり遺伝子組み換え作物は既存の植物以上に自然界への適応能力を持っているのだ。そのため一度広がってしまうと、 それを防ぐことには莫大な資金がかかるし、また全てを取り除くことは事実上不可能なのである。

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