食糧危機を救うという嘘

 21世紀は人口爆発による食糧危機がより深刻になると言われている。
 科学者たちは遺伝子組み換え作物が農業の省力化に繋がることを指摘し、食糧危機から人類を守る救世主 のように宣伝している。
 しかしこれはまやかしである可能性が濃厚である。

 かつて、発展途上国の食糧危機を救うべく「緑の革命」という壮大な プロジェクトを計画・実行したことがあった。
 アメリカのロックフェラー財団などが中心となり、収穫量の期待できる新品種を開発し、第三世界に普及さ せて、それらの国々の食糧の収穫量を増やそうとしたのだ。

 この計画は成功したかに見えたが、実際は第三世界の諸国の貧富の拡大を招いた。効率的にこの新品種の 農作物を栽培するためには広大な土地と機械設備を持たなければならなかったからである。資本の小さい 農民は次々と大地主の小作人にならざるを得ず、貧富の差が拡大してしまったわけだ。
 また大規模な機械化などによって効率的栽培が可能になった新品種のために、従来の品種は危機に瀕してしまった。

 遺伝子組み換え作物では、緑の革命以上にこのような現象が起こるのではないかと懸念される。
 まず、農民はアメリカが特許権をほぼ手中に収めている組み換え作物の種苗を同国から買わなければならない。 一般に品種改良された農作物は繁殖力が弱く、収穫した作物から種を取って植えても商業的に成り立つほど育てることは 難しい。つまり毎年、農家はアメリカの科学会社から種苗を買わなくてはならないのだ。
 それは同時に同じ企業から農薬を購入することを意味する。遺伝子組み換えによって農薬に枯れない作物とは言っても、 それは特定の農薬に耐性をもっているだけであって全ての農薬に枯れないわけではない。つまり遺伝子組み換え食品を製造 している化学会社から農薬も一緒に買う必要があるのだ。
 さらに農家はある一定の農地面積に対して課せられる「使用料」を支払わねばならない。

 こうして作られた農作物の行く先はどこであろうか? 農家は全て(種苗から農薬、果ては土地の使用料に至るまで)を外国に 頼っており、その代金を支払わねばならない。しかし買いつづけるだけで国内で消費していては当然外国に支払うお金がなく なってしまう。
 つまり、来年の種苗や農薬を買うために、発展途上国はせっかく収穫した栽培した農作物を海外に輸出するはめになるのだ。
 これでは発展途上国は労働を課せられているだけで何のメリットもない。

 仮に発展途上国が遺伝子組み換え食品を自分で作ろうとしても、遺伝子を組み換える技術そのものにもかなり細かい特許が かけられているために、農作物を作り出す際に海外に資金が流失してしまう。これは先進諸国も同じで、日本や欧州が新種を 開発する場合も、アメリカの企業にロイヤリティを払わねばならない

 結局のところ、全ての資金は一部の企業・国家に流れ、貧しい国を救うことにはならないのだ。

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