まず先に言っておきたい。筆者は実に真剣に、そして冷静に怒りを感じている。
◆バイオテクノロジー先駆者の野望
農業とはどこの国でも困難を極める職業の一つだ。特に天候・害虫によって収穫は左右され、しかも
豊作だからといって必ずしも喜べない(価格が下落するため)など、不安定要素が多い。
そんな農家の生産効率アップと安定した農業経営を可能にするために現われたのが、遺伝子組み換え穀物である。
遺伝子を組み換えることによって天候不良に強く、害虫も殺してしまうような穀物の生産が可能になったのだ。
さて、世界の大豆の半分、トウモロコシの40%を生産する農業大国であり、同時にバイオテクノロジーの先進国であり
かつ農作物輸出国であるアメリカは、この遺伝子組み換え(GM)食品の生産に並々ならぬ執念を燃やしている。
米国が先進諸国の中でも進んでいるバイオテクノロジーをもってより安価なコストで穀物を大量生産したならば、
おそらくどこの国も太刀打ちできないだろう。
まだGM食品について十分に安全性は確認されていないが、国内の競争力のある産業分野で自由貿易を謳わない手はない。
安全性を疑うEUや日本に対して、アメリカはGM食品の売込みを、かなり強圧的に開始している。
◆日本政府の対応
EUではすでにGM食品の表示を義務付けている。これは消費者に正しい情報と与え選択の自由を確保するためである。
その一方で、日本政府・農水省の対応は終始及び腰であった。
日本ではGM食品を「組み換えによって組成などが変化したもの」「組成などは変わっていないが、組み換えられた遺伝子が残っているもの」
「組成は変わらず。遺伝子なども分解してしまったもの」の3タイプに分別する。
また農水省ではGM食品の表示について「使用」「未使用」「不分別」に分けるということになっている。
しかし大豆などの輸入ものはそもそもGM穀物と一般穀物が混ざり合ってくるため、殆どが不分別に該当してしまう。
つまりこの方法では、分別するとは言っても一部の食品を除いて「不分別」表示になることで、現実的には消費者は商品を選択できないことになる。
そして飼料の30%、穀物の5%程度しか自給できない日本は、仮にアメリカに厳格なGM食品の分別を求めても応じてもらえなければ、
最終的にはアメリカの提案(つまり厳格な分別はしない)を受け入れるしかないのだ。
◆資本主義の理念にも反する
そもそも資本主義は、消費者が商品を選べることで発展してきた。よりニーズに合ったものを作るよう、
努力することが今日の繁栄を生んでいるのである。
にも関わらず、GM食品に関するアメリカの態度は、明らかにGM食品と一般の食品を区別せず、よって選択させない方向
に動いている。もちろん、その理由は国内の農業従事者保護のためだ。
まず消費者が商品を選別する。それによって一般の食品(非GM食品)に魅力があればたとえ価格が高くても消費者がそちらを
選ぶことで非GM食品生産者が利益を得るわけだし、選ばれなかった方はよりニーズのある商品を開発するのである。
需要と供給の関係こそが価格を決め、競争を生む。
しかし正しい情報公開もなく、異色のものを分別することなく店頭に並べることは明らかに消費者のニーズを無視したやり方
であり、本来は需要のない(競争力のない)製品を市場に大量に供給することになる。
これは資本主義の理念から言えば明らかに失敗である。
◆次なる方策はあるか
では、日本国民はアメリカの圧力に屈し、安全性の確認されていない食品をこれから永久に食べつづけなくてはならないのだろうか?
そんなはずはない。農作物に関して日本は「お客」であり、「メーカー」に服従する必要はないのだ。
本来、お客がクレームをつければメーカーは改善を約束するものである。ましてや日本はアメリカにとって最大のお客様だ。
しかしアメリカ株式会社はその独占的な地位を利用して、お客のニーズに合わない商品を開発、強制的に送りつけてきた。
さあ、次なる対応は?
まず取引先の変更が考えられる。多少コストはかかっても非GM商品を謳うことによって高値で売れるならば商売として成立する。
あなたはまずそういったメーカーを他に探すことから始めるだろう。
またそうすることで、傲慢なアメリカ株式会社内部に揺さぶりをかける事にもなる。分別することで高い値がつくならば、頼まな
くても非GM食品は作られ、そして分別されて日本まで届くだろう。
もう一方で、自社開発(つまり日本国内で生産する)ということにもなる。これまで価格的に合わない理由で大豆などの輸入が増え
国内の生産者を圧迫していたが、非GMを表示することで高値をつけられるならば、国内の生産者にとって朗報だ。
またオーストラリアや東南アジアなど、第三国に生産を依頼する方法もある。これらの人件費の安い国で非GMの穀物を作っても
らうのだ。外貨が欲しい各国は、日本という巨大市場に垂涎を垂らすだろう。日本は出資とノウハウを教えればよいのだ。
何もアメリカに頼ることはないのだ。
食品は人間の口に直接入るものである。これは国家の「安全保障」に関わる重大問題だ。安易な妥協は許されないのである。
◆追伸
日本・EUがGM食品の安全性を疑問視していたために、米国内でもGM食品の不買運動が拡大している。
GM食品の価格は下落し、農家は大打撃を受けているらしい。これはある意味、天候不良や害虫被害よりも深刻な問題といえるだ
ろう。生産者は食品にとって最も大切な要素である信用を失ったのだから。
いずれにしてもアメリカの政策を変えさせる力を持っている。つまり超大国の傲慢さに立ち向かうには、超大国の世論を動かす
しかないということなのだろう。
ちなみに価格が下落したGM食品は、家畜の飼料として利用されるようである。つまり、回りまわって人間の口まで届くことに
変わりはないらしい。