元々柿沢氏を候補者の1人に挙げたのは自民党だった。兜町での知名度が高かったためだが、同氏は自民党に所 属している身であるから、公明党の支持を得にくいと言うマイナスがある。ましてライバルの民主党が鳩山氏を 候補者として推薦(現状では推薦するかどうかは微妙だが、事実上の推薦と見ていいだろう)を決めたことで、いよ いよ票の取りこぼしがないよう、公明との協力が必要になったわけだ。

　そこで白羽の矢が立ったのが明石氏だ。同氏は確かに知名度も高く、鳩山氏とも対等に戦えるだろう。さらに、 自民党の息のかかった人間ではないから公明党も相乗りしやすい。
　早速、柿沢氏はお払い箱となり、立候補の取り消しを要求されるに至る。

　面白くないのは柿沢氏だ。自分では勝てないと踏まれたことが露骨に表に出てしまっては面目もなにもない。 自分から志願した結果ならまだしも、本の数日前までは自分にせっせと候補の要請をしてきたのは他ならぬ党本 部である。
　ある程度のポストに就いたことのある人間ならば、プライドも意地もあるだろう。党籍を剥奪されても無所属で 出ると宣言する同氏の言動には、悲壮感が漂う。

　ちなみに、自民党はこの前にも、手当たり次第めぼしい人に声を掛けている。しかし、結果は惨敗で田中真紀子 議員を始め殆どの人からは断られ続けた。
　党の要請に受けた柿沢氏が外れクジを引いたのは明らかであり、党本部に対する不信感は今後の運営に多少の影 響を及ぼすだろう。

　そうそう、もう1人、自民党に躍らされ、引くに引けなくなった人がいる。舛添氏である。同氏も自民党の乱雑 でいい加減な態度の犠牲者と言えるだろう。

◆柿沢氏が狙っているもの
　最後に、党籍を剥奪される危険までおかしてなぜ柿沢氏が(一度取りやめた)立候補を再度したのかに触れたい。

　これはあくまでも筆者の推測ではあるが、かつて自民党が推す磯村氏と鈴木氏の対決が頭にあるのではないだろうか？
　現在の政治不信は相当なものであり、強引に自民党などが推薦すると都民の反感を受けることになる。
　そこで、もしどうしても明石氏を自民党が推すならば、自分は当時の鈴木氏のように、ある程度の同情を集めつつ、 街頭に立ち、真剣に都政の問題を訴えるという姿勢に出ようとしているとは考えられないだろうか。

　［政府・権力＝悪・ダーティ］　［非政府的・非権力＝善・クリーン］というイメージが強い昨今の空気を考えれば、 この企ては一定の成果を見るだろう。