本日の御題:ヒトは知恵ある悪魔か?

◆テロリズムとの闘い
ISとの戦いは、いつまで、どこまで続くのか?

20世紀が国家同士の戦争の時代ならば、後世、21世紀はテロの時代と呼ばれるかもしれない。

イラクがクェートに侵攻し、アメリカ軍がサウジアラビアに駐留したことがきっかけで生まれたアルカイダ。派生して生まれるテロリスト集団の数々。今はISが勢いが強いが、仮にISの中央組織が壊滅しても、名前を変えて新しいテロ組織が生まれる。思えば大国が関わった紛争地では、名前こそ違うものの、様々なテロ集団が生まれているのではないだろうか。大国が自らの兵士の犠牲を減らすべく、現地に武器を提供し、戦闘を訓練した結果、民兵たちは時に先兵として戦い、時に大国に牙を剥く。なんとも皮肉なものである。

更にインターネットの普及によって、テロリストたちは簡単に全世界に呼びかける方法を手に入れてしまった。一地域の戦いは、即日他の地域の伝播するリスクを現代は負っている。

対立の構図はひとつではないが、キリスト教文明との対立、イスラム教シーア派とスンニ派との対立という歴史的な怨恨は、更に事態を定常化させる。憎しみの連鎖は悲劇しか生まないということに人類が気づくのはいったいいつなのだろうか。

 

前置きが長くなってしまったので本題に入る。

EUからの離脱交渉を進めるイギリスが今揺れている。最近になって、コンサートが終わった直後、観客が会場の外に出てくるところを狙った爆破テロがあった。会場は警戒することができても、その警戒の範囲を無制限に広げることはできない。残念だが、警戒の薄い地域で最大の戦果をあげるための無差別テロであったと言える。

そして、まだテロとは断定できていないが、ロンドンタワーマンション火災。下層の半面は火の手から免れたものの、それ以外の部屋はほぼ全焼。その映像は目をそむけたくなるものであった。4階の一室の冷蔵庫が爆発したという情報があるが、食材しか入っていない冷蔵庫が果たしてあそこまでの破壊力を持つだろうか疑問が残る。

もしこれがテロリズムによるものだとしたら、我々は防ぎようがない。飛行機の搭乗荷物をどんなに精密に検査することはできても、住民の冷蔵庫の中身をすべて監視することなどできないからだ。タワーマンションのセキュリティは善良な住民が住んでいることを前提に作られており、もしその住民の中にヒトの皮をかぶった悪魔がいるとしたら、エントランスに金属探知機を設置して、毎日の出入り時に厳重な荷物チェックを受けさせなければならなくなるだろう。これは現実的だろうか?

もしこれが幸いにもテロリズムでなかったとしても、テロリストに新たなアイディアを与えてしまうことになりかねない。

中東でISの拠点が次々と奪還されている反面、テロの脅威はむしろ拡大している。東南アジアではフィリピンが戒厳令を引き、強権的な大統領の下、アメリカの特殊部隊の協力を得ながら殲滅作戦を実施しているが、戦いは膠着状態だ。そもそも、テロリストは必ずしも組織的に動いておらず、インターネットを通じた呼びかけに応じた一般市民が突然豹変してしまうことからして、武力による地域の制圧はあまり意味をなさない。

昨日イギリスで起こったことが、今日フィリピンで起こり、明日には全く地域の異なる日本で起こることだってあり得る。

テロリストを人種差別的に排除しようとする考え方もあるが(トランプ大統領のようにイスラム教徒の入国を制限しようとするとか)、それはあまり賢いやり方ではない。温床になっている側面は否定しないがイスラム教徒がすべてテロリストではないし、それまでイスラム教徒ではなかった者がある日を境に過激なイスラム教徒になってしまうこともあるからだ。人種も同じだ。白人であっても過激な思想を持つことはある。結局のところ、人類のすべての人の脳にチップを埋め込んで、テロリズムを実行しようとした瞬間に体が動かなくなる仕組みを作らない限り、無差別なテロを完全に予防することはできないだろう。

最後に表題の意味について。都内の某大学の初代学長が残した言葉にこんなのがある。

神なき知育は、知恵ある悪魔を育てるが如し

彼はキャンパス内に教会を作り、学生たちに讃美歌を歌わせる教育を行った。神ある知育であっても、悪魔のごとき所業をなくすことはできないのだろうが、少なくとも罪なき者を犠牲にすることはヒトの信条からして悪であり、それは如何なる状況でも不変であるという知育がなされなければ、ヒトは知恵ある悪魔に成り下がるであろう。

国は核兵器という巨悪に奔り、テロリストは無差別な極地戦に奔る。二極化したこの悪魔的所業を、叡智によっていかに解決するかが人類の未来を握っている。

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