本日の御題:第二次世界戦前と酷似する世界情勢

◆留まるどころを知らない中国の野心
フィリピンが訴えた南シナ海における中国の人工島。ランダ・ハーグの仲裁裁判所は同海域の主権を完全に否定する判決を出した。中国が伝統的・歴史的中国領という現在の国際常識では考えられない荒唐無稽な考え方も、岩礁を埋め立てて造成した人工島周辺の排他的経済水域(EEZ)も、恐ろしく拡大解釈された大陸棚も認めなかった。

これは当然のことであろう。中国指導部とて分かり切っていたことだ。しかし、それでも同海域への主権を一方的に宣言し、近隣諸国を高圧的に慟哭するのは、国際法の順守など「紙屑」ほどの価値しかないと本気で考えているからであろう。少なくとも、自分たちにとって都合の悪い結果が出たときに限定して考えれば。

中国は国際的に否定されたことで、人工島の実効支配をさらに強化していくことになるだろう。

この姿は我々日本人が学んでいる歴史の教科書に登場するどこかの国に似ていないだろうか? そう、戦前の日本だ。軍部のイケイケドンドンの強気一辺倒な政策で、満州事変を起こした常任理事国の日本は、その後国際連盟から派遣された現地調査委員会(リットン調査団)の報告が、自国に不利であったことを理由に、1933年9月、国際連盟を脱退した。そして欧米諸国と戦うために、大東亜共栄圏なるスローガンを掲げ、東南アジアの空、海、陸に繰り出していった訳である。欧米への攻撃という意味だけではなく、自国付近まで敵部隊が来れないようにするためという意味でも、東南アジアの制空権、制海権を握ることは重要であった。それは今も過去も変わらない。中国にしてみれば、南シナ海を勢力下にすることで中国本土へのアメリカ軍の攻撃を緩衝させるという目的も当然あるはずだ。

今回の決定を受けても、中国が国際連合を脱退することはないであろう。なぜならば拒否権という絶大な権限を持つことは、中国にとってプラスであるからだ。しかし同時に、中国は今回の件で、「大戦後の国際秩序の守護者」という(少なくとも名目上は)常任理事国としての立場を失ったことを意味する。

尖閣諸島において「戦後秩序を変えようとする行為」として避難してきた中国だが、まさに今、同国は「戦後秩序への挑戦」を自らの手で始めようとしていることを世界中に喧伝したのだから。

◆酷似し過ぎている国際情勢
一方で、国際情勢は第二次世界大戦前を彷彿させる。国際連盟の旗印だったアメリカが国際連盟に加盟せず、孤立主義(アメリカ一国平和主義)に入ったため、第一次世界大戦で甚大な被害を受けた多くのヨーロッパ諸国は、ドイツ・ナチスの侵攻にあらがうすべを持たなかった。しかも、戦わずしてナチスを手懐けたいと考えていたイギリス・チェンバレン首相は、ドイツがオーストリア、チェコスロバキアに侵攻しても、それを認めてしまった。その結果、ナチスドイツの野望は更に高まり、後の第二次世界大戦に突入していくわけである。

そして現在の東アジア・東南アジアで起こっていることがまさにこれである。アメリカがかつてのイギリスのように、中国の拡大主義に見て見ぬふりを続ければ、かつてのナチスドイツがそうであったように中国共産党はどこまでもどん欲に版図を拡げようとするだろう。そして版図が広くなればなるほど、その抑止にはより強大な力と甚大な犠牲を必要とするのである。

もしアメリカが、自国の経済を優先するあまり中国の暴挙をこのまま座視するようなことがあれば、世界は群雄割拠の時代に戻り、軍拡と戦争の悲惨な歴史が繰り返されることになるはずだ。そして国際連盟に続き、国際連合もまた、戦争を止めることができなければその信頼を失うことになる。少なくとも、「ファシスト」から世界を救ったことにより与えられた「常任理事国」という地位をもつ国が、自らファシストの行いを手本とするような行為をしたならば、国際連合になんの存在理由があるだろうか?

現在、覇権国家アメリカは、再び一国平和主義へ舵を切ろうとしている。少なくとも、次の大統領選でトランプ氏が勝利すれば、アメリカは世界の警察官としての役割を放棄し、同盟諸国を狼の前に晒したうえで、守ってほしければ高額なボディーガード代を出せと要求してくるはずだ。

覇権国家が覇権国家でいられる理由は、諸国の平和に貢献しているからである。例えば日本の歴史においても、幕府に臣従していたのはそうすることで平和が保たれていたからだ。もし幕府が孤立主義を宣言していたら、諸国の間で再び陣取り合戦が始まり、幕府の権威は失墜しただろう。つまりアメリカにおいても、単に力があるだけではなく、まがりなりにも国際法を順守させる警察官としてふるまっていたからこそ覇権国家となりえたのだ。その役目を放棄すれば、世界もまたアメリカから目を背けることになる。

各国が自衛の手段を自ら持たなければならない時代がくれば、アメリカが推進してきた核の非拡散も遠い理想となる。その矛先は、いずれアメリカに向く可能性があることをアメリカはもっと知るべきであろう。なぜならミサイルの性能の向上によって、様々なテロ攻撃によって、世界は確実に狭くなっているのだから。

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