本日の御題:札束外交と安全保障

◆札束で国家元首の頬をたたく習近平外交
9月後半に、アメリカを訪問した中国国家主席・習近平氏は、ワシントンでオバマ大統領と会う前に、ボーイング社と旅客機300機の大型注文を行った。政治的影響力のある同社の大口顧客になることで、その後のオバマ大統領との交渉を優位に進めようとしたのかもしれない。

しかし、習主席の狙いは残念ながら完全な空振りに終わった。この契約はアメリカ国民には不評を買っているのだ。最大の理由は、中国国内にボーイング社の工場を建設するという約束があるからである。これはアメリカの雇用が奪われる可能性があるとともに、日増しに高まる軍事的脅威である中国に機密を盗まれるリスクが高いことから、アメリカ国民からはボーイングCEOは売国奴呼ばわりされているほどだ。

一方、10日中旬には、習主席はイギリスに飛んで、キャメロン首相と会談をしている。その中でイギリスの原子力発電や高速鉄道に対する投資として約400億ポンド、日本円で7兆4000億円の商談を企業間で進めることに合意したという。イギリスは設備の老朽化に苦しんでおり、資金を必要としていた。そこに手を差し伸べたのが中国という構図だろう。

両首脳は会談の中で「中英関係は新しい段階に入った」という認識を示したが、これもイギリス国民からは不評を買っている。原発への出資となると、安全保障にも絡んでくるからだ。これまで、イギリスの原発はフランスと日本のメーカーによって事業展開されることが多かったが、今後は国家ぐるみで中国企業がぐいぐいと入り込んでくるかもしれない。

イギリスはさらに、今回、大きなお土産をプレゼントしている。人民元建ての国債を中国・香港以外で初めて発行することが決定し、さらに両国の中央銀行間でスワップ協定を結び、現取引の拡大にも同意した。これは、中国政府がIMFに対して人民元を5番目の国際通貨として認めるよう要求している流れにも繋がる。かつて冷戦の一方の雄であったソビエトでもなしえなかったことだ。IMFも基本的にはこの流れに反対姿勢は示しておらず、中国経済が減速しているという現状であっても、早かれ遅かれ、特別引き出し権(SDR)に組み込まれることは間違いないだろう。

中国は、経済力を背景に、アジア諸国だけではなくヨーロッパの首脳までも黙らせることに成功しつつある。その国の国民の反発を招きつつ、ではあるが。

◆経済オンリーか、経済・軍事両面か
韓国が中国にすり寄っていると言われて久しい。朴大統領は習主席と会談するたびに「両国の相互発展の成果」だのと言うが、笑顔はいつもひきつっている。他の国にしてみても、中国首脳と会う各国の首脳の顔色は最近さえない。それは自国の経済に占める中国の影響が非常に大きく、その顔色をうかがわなければならないからだ。ちなみに韓国では日米足した貿易量よりも中国一国のほうが多い。ここまで中国一辺倒にした為政者は、まさに無能であろう。反日をすることでその瞬間の支持率を上げることはできても、長期的には中国依存がさらに強まり、経済を牛耳られれば政治的にもいいなりにならざるを得ないのは目に見ているからだ。

ヨーロッパ諸国も同様である。ギリシャに始まった金融危機や難民流入問題などヨーロッパが抱えている問題は大きい。また、ロシアとの軍事的緊張もあるため、距離のある中国の軍事的勃興に鈍感であるのも仕方がないかもしれない。しかし、NATOという軍事同盟を結び戦後体制を維持してきたアメリカと今後軍事的緊張をさらに深める可能性の高い中国との付き合いは、深すぎればいずれ韓国の二の舞になる。中国からの投資がもし一斉に引き上げられれば経済が混乱するほど中国に経済を依存したならば、米中が南沙諸島や東シナ海で対立をした際の身の振り方を困難にするだろう。

ロシアという仮想敵国が身近にいるヨーロッパにとって、軍事的にアメリカから離れることはできないが、しかし中国を経済的なパートナーとして選ぶことはアメリカの逆鱗に触れるからだ。

もちろん、アメリカも中国マネーがほしくない訳ではない。しかしアメリカとヨーロッパ諸国の認識の大きく異なるところは、アメリカは戦後、経済・軍事共に世界のリーダーであり、覇権国家であったということだ。その地位を脅かしかねない存在である中国を警戒するのは当然であり、その影響力をそぎたいと考えている。一方、ヨーロッパは第一次世界大戦までは世界の中心であったが既に覇権国家としては凋落しており、軍事的規模にしても経済的規模にしても影響力は低下し続けている。少なくとも中国と軍事的緊張が高まることが地理的に殆どないため、中国の経済力増大が軍事的増強につながっていたとしても、それを危惧する声はアメリカに比べればはるかに小さい。

一方の日本はというと、かつては中国に親しみを持っていた人が多かったが、尖閣諸島問題や反日暴動、反日プロパガンダ、度重なる領海侵犯やレアアースの輸出禁止、南沙諸島の強硬姿勢などによって、親しみを感じる国民は少数派になった。中国製のPCや家電製品にはスパイウェアが埋め込まれているのではと疑う人も少なくないほど、不信感が高い。中国が平和的に台頭していたならば、おそらく日本人の多くは中国の勃興を心から祝福したであろううが、独裁国家の仮面が剥がれた現在、日本にとって中国はリスクと考えるべきところまで来ている。

日本人のもつ優れた個性の一つは、危機意識の強さだろう。中国への投資はピークを越え、経済的にも依存しては危険であると自らアラームを鳴らすことができる。これは欧州各国や韓国にはない素養だ。また、経済を最優先する多くの国と違い、たとえ経済的な打撃を受けようとも中国との関わり方を変えるべきだと考えられるのも特筆すべきだ。おそらく、財界の政治力が相対的に低いためであろうが。

また、韓流ブームが沸き起こった時代が嘘のように、今では韓国からの輸入が減少している。特に、政府が指導することもなく、反日国家が浮き彫りになると、普段は政治にたいして興味がないと言われる国民であっても、購買志向に大きな影響が出るのだ。これは反日を叫びながら日本性を購入する韓国人の気質とは大きく異なる。ただし、マスコミに誘導されやすいという欠点という側面も否定はしない。

話を戻すが、日米が今、同盟関係を強化しているのは、日本人のこの気質によるところが大きい。経済に強く縛られない政治、そして危機意識の強さから軍事に敏感である点。これこそが日本が中国に飲み込まれない所以である。札束で頬をたたかれても、安全保障の意識が強ければ、その誘いに乗らない国民性を日本人はもっている。

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