本日の御題:多極化へと向かう21世紀の世界と日本

◆主導権を狙う新興国家たち
20世紀前半は帝国主義時代であった。欧米諸国が世界を席巻し、非欧米では日本がまず工業化を実現したが、結果として帝国主義を真似て敗れたのが1945年。その後は超大国アメリカとソ連の冷戦、あるいは代理戦争が続き、終盤になってソ連が崩壊、冷戦構造がなくなりアメリカおよび西側諸国の勝利となった。

そして21世紀を迎える。超大国アメリカは傲慢になり、他国を巻き込んでイラクのフセイン政権を崩壊させるが、この戦争がきっかけでイスラム過激主義組織からテロという報復を受けることになる。冷静さを失ったアメリカは国連も他国の意見も聞かずにまたもや軍事行動を起こし、核を持たなければ言いがかりをつけられて攻められることを知った北朝鮮やイランは、欧米主導の国際社会の批判にも負けず、核開発を続けることになる。

そして現在。

天然資源の輸出によって力を取り戻したロシアはクリミアを占領し、ウクライナ東部の武装勢力に武器を提供している。経済力をつけた中国は軍備増強に奔る一方で、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカと組みBRICS開発銀行の設立することを決定。本部は上海に置かれる。新基金は急激な資金流出などで加盟国が危機に陥った場合に緊急支援を行う枠組みで規模1000億ドルのうち中国が410億ドルを出資するという。出資比率を微調整した議決権は中国が39.95%、ブラジル、ロシア、インドが各18.10%、南アフリカが5.75%。これによって、成長市場のBRICS内での中国の発言権が強まったことになる。

一方で、中国は国際支援の金融機関「アジアインフラ投資銀行」設立を目指しており日本にも出資を求めているらしいが、日本には、同様の国際組織としてすでにアジア開発銀行があり、役割分担が明確ではないため応じない方針だ。同組織は1966年末に設立されて以来、歴代の総裁はすべて日本人であり、もしアジアインフラ投資銀行の規模が大きくなりすぎれば、この分野で中国に主導権を奪われてしまうと危惧しているのである。

アジアには、ASEANですらインフラが行き届いていない国が多く、今後もこのような銀行は必要になるだろうが、問題は銀行を使って露骨に政治的圧力を中国がかけてくる可能性が高いことだ。中国主導の銀行から多額の資金を借り入れることは、政治的にコントロールを受けやすくなるということである。IMFを欧米諸国がそのように使ってきたように、だ。

これまでアメリカが行ってきた覇権国家としての振る舞いを中国がするための布石と言える今回の動きだが、それは日本にとっては望ましいものでないのは自明の理だろう。しかし、それを分かっていない政治家や国民は多い。

◆大親分アメリカ率いるEU、日本 VS 非民主国家中国・ロシア率いる新興国インド、ブラジル、南アフリカ?
冷戦の終結後、一人勝ち状態であったアメリカの時代は、西側諸国の一員であった日本にとってもメリットはあった。しかし、今後世界は間違いなく多極化していき、21世紀の大国は経済規模からいえば欧米からBRICSその他新興国へと次第に比重が移っていくことは避けられない。

特に、欧米主導の国際社会においては、彼らが作った仕組みや文化、たとえば銀行・基金や人権のようなものは、独裁国家や非民主国家の為政者にとっては厄介な存在でしかなく、イスラム諸国然り、欧米諸国から内政干渉とも取れる文化の強要をされることに抵抗する人々、国は多い。

そこへいくと、BRICSは他国の内政に干渉する機運は少ない。中国が日本に対して未だ敗戦国としての地位を押し付けるような特例を除けばであるが。

つまり、発展途上の世界の多くの国々の為政者にとっては、欧米よりも組みやすいといえる。もし経済規模が逆転するようなことがあれば、援助を申し出る国々はBRICSの国々を頼るようになるかもしれない。これは、第二次世界大戦後、欧米が築き上げてきた国際社会の仕組みの崩壊である。

それでも、アメリカは一等国として生き延びることができるだろう。そして地理的にも文化的にも近いヨーロッパも、生き残ることができる。アメリカはイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドには特別な地位を与えている(高度な情報を提供している)し、ヨーロッパ諸国とはNATOという組織を通して結びつきがあるからだ。ヨーロッパはアメリカにとって庭であり、ロシアを警戒する以上、決して手放しはしない。

しかし、太平洋をはさんだ日本となるとどうだろうか? 民族的にも歴史的にも、日本とアメリカは決して強い絆で結ばれてきたとは言えない。たとえば、アメリカは今でも白人が社会を牛耳っているといえるし、彼らはヨーロッパの血を引いている。しかし、日本はアジア人であり、そもそも先祖を一つにしていない。アメリカが日本を重視するのは、19世紀も21世紀も同じで太平洋の西側に進出するためには、地政学的に日本を影響下に収めたいと思っているからに他ならない。アメリカにとってヨーロッパが血縁ならば日本は遠い場所に住む友人であり、遠くに出掛けるときに立ち寄れる場所を確保したい、という程度の存在ともいえる。

つまり、中国主導の国際秩序が形成されるようなことがあれば、日本は非常に厳しい立場に立たされるということだ。多くの国が欧米の意見に耳を傾けているのは欧米が好きだからでも尊敬しているからでもなく、単に力があるからである。もし欧米の力が相対的に低下すれば、そして欧米に変わる力を別の国々が持つようになれば、今は親米・親日的国家でさえ、いつ敵対するか分からないのである。たとえば、伝統的に親日的だったイラン政府の影響下にある新聞社が、最近になって日本を批判するような論評を載せた。このようなことは、いくらでも今後起こりうる。

◆日本は真実の姿を晒せ
中国がアメリカに届く新型の弾道ミサイルを開発していることが明らかになった。情報源は誤ってウェブサイトに新型ミサイルの情報を載せてしまったからと報道されていたが、おそらく違うだろう。「我々はいつでもアメリカ本土を狙える」という中国からアメリカへの警告と受け止めるべきだ。同時期にロシアが核廃絶のプログラムを正しく履行していなかったことも明らかになり、世界は新冷戦へ突入することも時間の問題と思える。

このような時、日本はどうかじ取りをすべきだろうか?

決してやってはいけないことは、中国市場が魅力的に映るあまり、中国に媚を売り、中国市場で利益を上げようと多大な投資をすることだと私は思う。中国での経済活動は短期的に利益を上げることはできても、長い目で見れば経済的な支配を招く。韓国のように経済的に中国に依存すぎれば、政治的にも支配されることになる。経済と政治は別という詭弁を使うことが多いが、経済こそ政治である。なぜなら経済は国民の生活に直結するからだ。

韓国と中国が領有を争っている海域で中国漁船が跋扈し、フィリピンに廃船を譲渡しようとすれば両国の友好に深刻な影響を及ぼすと脅迫される韓国の姿を見れば、中国に一度頭を垂れたなら彼らの意向にすべて従うことを強要されることも想像に難しくない。

それは欧米であっても同じと言われるかもしれないが、独裁国家と民主国家とでは大きく異なる。民主国家には言論の自由が保障されており、政府の独断で仮になにかが行われても、必ずそれを批判する者が現れる。政府は法の下でしか動けないという制約もある。アメリカの大統領よりも中国の主席やロシアの大統領が強大な権力を行使できるのは、かの国には言論の自由がなく、為政者が法を越えた場所で判断を下すことができるからだ。

では日本はどうふるまうべきか。私は敗戦国日本が言うのも面白いものだと思うが、世界大戦を回避するために、あるいは冷戦をエスカレートさせないために、第二次世界大戦後の秩序を守る姿勢を明確にすべきだと思う。つまり、拡張主義を取り、版図を広げようとする挑戦に対して、世界が一丸となって対応するよう、舵を切るということだ。拡大主義こそ戦争の種であり、人類を滅亡させるリスクである。領土の境界線を仮に広げたところで、焼け野原になってしまえばなんの意味もない。

そのうえで、逆説的に感じられるかもしれないが、国家の対立を超えて民間では交流を続けるべきである。中国人、韓国人が日本の右翼化を恐れているというなら、そういう時代こそたくさんの中国人、韓国人に日本に来てもらい、日本が今どれだけ平和を望んでいるか、戦争に対してアレルギーを持っているか知ってもらうべきである。彼らは中国政府が垂れ流している日本の右翼化というプロパガンダに気づくだろう。真実の姿を見てもらうことでしか、政府のマインドコントロールから逃れるすべはない。

反日の人が悪いのではなく、彼らを反日にさせた偏った教育に問題があるのである。戦中、国から欧米人は鬼だと教え込まれた日本人は、本当に欧米人を鬼だと信じていたというが、子供のころから刷り込まれた教育というのもは、現実をその目で確認しない限り変えることはできない。インターネット上で罵り合っている間は、決してお互いへの不信感は解消されない。

反中嫌韓の方にも旅行でかの国にぜひ足を運んでほしいと思う。日本人を悪く思う人ももちろんいるが、人と人で繋がることで人の温かみを感じることもある。たとえば中国に日本軍が侵略し、そして取り残された日本人孤児たち。中国人からすれば同胞を殺した仇敵の子供であり、煮ても焼いてもその恨みが晴れることはなかっただろう。しかし実際は、多くの日本人孤児を、それと気づかれないように匿い、実の子供として育ててくれた中国人もたくさんいる。

この行為は、決してたやすいものではない。敵国の子供を匿うというのはひとつ間違えれば売国奴として処分されかねない時代だったからだ。現在、日本人の中国人のイメージは嘘をつき騙してくる狡猾な人たちと思われがちだが、日本人が思っている以上に中国人には情に厚い側面がある。当然だが同じ人間同士、共通の価値観を持っているのだから、直に会えば分かり合えないはずがない。

一番よくないのは、プロパガンダに脅された両国国民が、互いの真の姿も分からずに、両眼で憎しみを深め、対立することである。

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