本日の御題:警察のいない世界、それは群雄割拠ということ

◆ウクライナに対するロシアの侵略、南沙諸島に対する中国の侵略
政治家の言葉などもとより額面通りに受け取ってはいけないが、国連の常任理事国にしてアメリカと唯一対等に渡り合える大国が、厚顔無恥な行為に及んでいる。

そもそも、ロシアとウクライナの国境はソビエト崩壊時に、「平和的に」解決されたことであった。元々ソビエト時代にロシアからウクライナに編入されたのがクリミア半島であり、ウクライナが独立国家になる際もロシアはそれを認め、さらにウクライナへ武力行使をしないと約束まで交わされていた事実がある。

にも関わらず、ウクライナ内で親欧寄りの反政府デモ→暫定政権が発足するやいなや、ロシアは軍事介入をしてクリミア半島を併合してしまった。その地域がまず独立し、さらに選挙という手筈をとってのことであり、ロシアは合法的であると訴えているが、多少の違いこそあれ、まるで日本が満州国を建国したときのようである。直接のロシア編入ではなく、国をひとつ建国したところで、それが露骨な侵略であることには変わりない。

一方の南沙諸島は、東南アジアの各国が領有権を主張し争っているところに、中国がベトナムと戦争をして、実効支配に至っている。そして最近になって、中国の海洋進出の野望は国際社会にも明確に認識されるようになった。一方的に国の境界を宣言し、力によってそれを実行していく。ベトナム船に執拗に体当たりをして沈めさせるというのも用意周到な作戦に思える。見せしめならば、沈める船は一隻で十分であるし、海に落ちたベトナム人を救うことはしなくても彼らが仲間を救助することを妨げる必要もない。中国が行動で示したのはただひとつ。「この海域は我らの者で、力を持っているのは我らだ。よってまた同じようにやってくれば同じような目にあうぞ」ということだ。

ロシアも中国も言葉だけではなく、態度で明確に自分の主張を表現している。これは強力な力を背景にしていなければできない行為であるが、一方の超大国はどうだろうか?

◆世界の警察という立場を捨てたアメリカ
ロシア、中国どちらの軍事力を背景にした侵略に対し、アメリカ、およびその強力な同盟組織のEUは、言葉での非難を強めている。ロシアに対しては経済制裁も発動した。

しかし、それでロシアの、あるいは中国の行動は抑制されただろうか? されるはずがない。G7で非難声明を出そうが、どこ吹く風である。彼ら侵略者は分かっているのだ。アメリカが軍事行動に出ないことを、言葉だけだということを知っているからだ。

事実、アメリカのオバマ大統領は「アメリカは世界の警察ではない」と公言した。つまり、アメリカはアメリカのためにしか戦わない、あるいは同盟国に深刻な攻撃をくわえられたときにしか戦わない(小規模な局地的・限定的な戦闘だけであればどうだろうか?)ということだろう。

ウクライナは残念ながらアメリカの同盟国ではないし、ベトナムはかつての仇敵であった。確かにアメリカが手を差し伸べる必要はないかもしれない。しかし、国連という世界の安全と安定を担う組織で常任理事国に付き、拒否権という強大な権限を持つ超大国が、世界の平和を乱す国に対して何も行動を起こさないというならば、そもそも第二次世界大戦後の秩序を守ることなどできない

まして、アメリカは世界各国に兵器を売りながら同時に地域が過度に軍拡に進まないよう、警戒をしてきた。核の傘然り、自国で強力な兵器を持たない選択をした国は、それとバーターで自国の安全を保証してくれる存在が必要だろう。一方で軍拡を警戒しながら、一方でその国が軍事的に窮地に陥った時助けに向かわないのならば、世界中の国で軍拡がブームになるはずだ。もちろん、アメリカにもそれを批判する権利はない。警察がいないならば、自衛するしかないのだから。

警察・あるいは盟主のいない国際社会とは、つまり群雄割拠ということだ。野心をもった国が、この機に乗じて少しでも自国の版図を広げ、他国を影響下に収めたいと思うのは当然だろう。彼らにとって、時の盟主の求心力が弱まるということは、その時代の覇権を握る絶好のチャンスに写るからだ。

◆21世紀、世界は暗黒へと向かうのか?
世界には3つの軍事大国と、1つの組織がある。3つの軍事大国とは、アメリカ・ロシア・中国であり、組織とはEU(NATO)である。ヨーロッパではアメリカとEU対ロシアという冷戦が再び始まるかもしれない。ロシアは原油をヨーロッパ以外の新興国に振り分けることで経済的損失を最小限にするであろうし、EUもロシアへの依存度を減らす努力をすることになる。お互いに経済的結びつきがなくなることで、冷戦構造が再構築される。

一方、東アジアはどうだろうか? 中国・ロシアという軍事大国に対して、それに対抗できる勢力はアメリカしかいない。韓国の米軍は数が少ないし、日本は軍事的な防波堤にはなるだろうがEUのように核を自前で持っているわけではないので、政治的・軍事的プレゼンスはそれほど大きくない。地理的にアメリカから離れていることも考慮に入れると、日本人が想像しているよりもはるかに劣勢と言うべきだろう。

NATOが参加国のどこか一国が攻撃を受けたら自動的にもう一方が軍事行動を取るのに対し、日米同盟はアメリカ大統領は議会の承認を受けなければ日本を支援できないため、中国ロビイストの影響を受けやすいうえ、尖閣諸島に限って言えば施政権が日本から離れた時点で援軍がどこまで望めるか不透明だ。少なくとも、中国・ロシア 対 日本・アメリカ(どこまで本腰か不透明)というのは若干歩が悪いのは認めなくてはならない。

ロシアと違い、中国はどの国にとっても有望な貿易相手国であり、アメリカ・EUの社会に中国製品が溢れている現在、そう簡単に関係を断ち切ることも、軍事的衝突をすることもできない。その弱腰外交を見据えて中国が暴挙に出る可能性は少なくない。その時、不利益を最も被るのは日本なのだ。

ちなみに、日本への軍事的脅威に対しては当然だが、西側諸国の一員でありながら韓国は全く当てにならない。韓国軍は元より、相手が中国であるならば、韓国に駐留する米軍すら行動を制約される可能性が高いからだ。 韓国経済はすでに中国に相当依存しており(貿易額でトップであり、その比率はアメリカ・EUを足した額より多く、日本を加えてようやく若干上回る程)、中国とは争えないのだ。

いずれにしても、中国の覇権主義はかつての軍国主義だった頃の日本を髣髴させる。つまりこれは、非常に危険だということだ。

21世紀の安全保障の形を、我々はもう一度真摯に考える必要がある。自衛隊の存在、活動しかり、在日米軍の問題然り、それを単独で扱うのではなく、この国際情勢にどう対応していくか、明確なビジョンを持ったうえで考えるべき案件なのだ。

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