本日の御題:天才が去った二大企業の行く末

◆マイクロソフトの迷走
ここ、1年ほど、マイクロソフトが迷走している。PCのOS市場で独占的な地位を占めているWindowsシリーズだが、最新版8の評価はすこぶる低い。ビジネスシーンには全く役に立たない機能満載であるだけではなく、パーソナルユースからも総スカンを食らっているのだ。

その一番の理由は、「Metro」と呼ばれたユーザーインターフェイスだろう。タブレットを意識しているため、指で押すエリアは面積が必要であるため、従来のアイコンではなく四角いタイルを並べた画面になっているが、とにかくこれがダサイ。見た目にあまり重きを置かない私ですら、初めて見たときは古くさいと感じたものだ。「メトロ」ならぬ「レトロ」である

マイクロソフトがタブレットUIをPCに使ったのは、もちろん理由がある。タブレットでは、アップルのiPadと、グーグルのアンドロイドOSの載った製品が市場を占有しており、遅れを取ったマイクロソフトは、自社の製品が既に普及しているPCに自社のタブレットのUIを採用することで、ユーザーに使い慣れてもらい、自社のタブレットへの移行をスムーズにさせようという魂胆である。

しかし、このユーザー無視のメーカー都合の仕様がうまくいくはずがない。タブレットとPCでは使い方が全く異なるのだ。PCはとにかく多様な処理をしたいがために持っているのであり、そこには効率が求められる。複数のソフトを立ち上げ、そのソフトは互いに連動し、指先では不可能な細かい作業もマウスでこなす。端的に言えば、何かを作るための環境が整備されていなければならない。

一方、タブレットはどうか? 液晶は小さく、しかもキーボードを画面に出すと使えるエリアは更に狭くなる。同時に複数のソフトを立ち上げ、しかもそれらを連動させることは難しく、ファイルの移動ひとつとってみても、自由度は限られている。

タブレットは持ち歩き用として適しているのであり、それは作るものではなく、使うものである。つまりPCで作った創作物を外で見たいときにタブレットが役に立つのだ。この両者の使い分けを理解していないはずはないが、とにかくマイクロソフトは自社のUIを普及させるというメーカー都合で製品を作ってしまった。それがWindow8の失敗である。

また、今春発売されたOffice2013については、更に酷い。タッチパネル対応のオフィスという触れ込みだが、殆どのユーザーはそれを必要としていない。また、延長サポート中のWIndows Vistaを使用環境外にしたことも、ユーザーにとってはよくないニュースだ。Vistaの使用者は少ないだろうが、これは他のメーカーのソフトウェアに普及する可能性がある。Vistaは2007年1月に発売されたOSだが、発売すぐに購入した人ばかりではない。WIndows7の発売が2009年10月22日なので、2009年の10月に購入したユーザーにとっては、まだ3年半しか経っていないのだ。

今回のOffice2013はアップグレードする価値のない製品なのでよかったが、皮肉にも、もし革新的な機能面のメリットがあれば、VistaユーザーはPCの買い換えを迫られることになっていたわけだ。

ちなみに、遙か昔から続いていたOfficeの優待バージョンアップも、2013にして初めてなくなったのは大きな変化だ。ソフトウェア会社は自社の製品にユーザーを釘付けにするために、これまでライセンスを持っているユーザーであれば新規に購入するよりも安く新しいバージョンを買うことができたが、それを今回廃止したのだ(一部、より高い製品へのバージョンアップを期間限定で認めていたが)。

これは、Office市場ではマイクロソフトが占有し、他社が追随できないため、ユーザーをしばらなくとも売上に影響しないからであろう。それによって、マイクロソフトは製品単価を上げようとしたわけだ。しかし、肝心のWindows8が魅力的なものではなく、またOffice2013も決して革新的な製品ではなかったために、両商品とも売上が伸び悩んでいる。

昨年は、ドローソフト、フォトレタッチソフトの分野で独占的地位を占めているアドビが、ライセンスのルールを変更してユーザーの怒りをかったことは記憶に新しい。パソコンはハードウェアが値下がりをしている中で、ソフトウェアの価格比率は上昇を続けており、将来的には再び一部のマニア+業務用だけの製品に戻るかも知れない。「作る」ことをしないユーザーにとって、パソコンはコストがかかりすぎるからだ。

アップルの迷走
ごくごく最近発表されたアップルの決算結果が思わしくなかった。利益が減少したのだ。理由は、スマートフォン、タブレット市場での苦戦である。iPhone、iPadを世に送り出し、復活を果たしたアップルだったが、特に新興市場でサムスンのギャラクシーに価格戦争で敗れ、シェアを大きく落としたのが響いた。

サムスンは、そこで得た利益をもって、アップルの本拠地、アメリカへもだいざい的に広告に打って出ている。

アップルの成長が止まった理由は、新しい使い方を打ち出せなかったことに限る。iOSが新しいバージョンになっても、今までと何か変わった使い方ができるわけではなかった。いや、新機能はあるのだが、それはユーザーにとって決して優先順位の高いものてはなかった。

ハードウェアが新しくなる際は、iPadからiPad2になるときはカメラが付いたが、それ以降はCPUが早くなる程度の差で、最新型では重さが若干ましたぐらいである。新しいタブレットの使い方を提案できているとは言えない。それができないから、とりあえずスペックを高めた、という程度である。

事実、iPad2の後に発売されたiPadをアップルは「新しいiPad」と呼び、「iPad3」とは決して言わなかった。当然である。新しい使い方を提案できないのだから、それはバージョンアップではなく、単に新しく発売された製品にすぎないのだ

そうこうしているうちに、従来タブレットでスタンダードだった9.7インチ型より一回り小さい7インチ型のタブレットをサムスンが発売した。慌ててアップルもiPad miniを出した訳だが、ここに至り、遂に先駆者としてのアップルは失われたのである。

また、携帯端末についても同じで、サムスンが従来の4インチ型から5インチ型に変えた後追いで、アップルも5インチ版を発売している。

アップルが既に先駆者でなくなっている理由は、他にもある。グーグルがカメラのついたメガネや、タブレット機能のある腕時計を次々開発しているのに対し、アップルは後追いを始めている。彼らは先行者利益をによって、高い利益率を保ってきたのだから、後追いメーカーに成り下がれば、当然利益が下がるのは当然である。

二社の共通点
実は、マイクロソフトとアップルには、共通点がある。アップルのCEOであったスティーブ・ジョブ氏は癌で亡くなり、マイクロソフトのCEOであったビル・ゲイツはマイクロソフトの経営からは退いている。両者が社内にいたときであっても、すべて順調であったわけではなく、特にマイクロソフトはWIndowsCEやWindows Phone等で敗北を喫してはいるが、しかしこと基幹製品に関しては成功を収めていたといえる。

例えば、Windowsアップデートが初めて開始されたころ、アップデートの際に利用者が自分にあった環境を選ぶ必要があった。それは初心者には大変難しいことであったのだが、ゲイツ氏が開発部門を一括、現在のように、使用OSに合ったアップデートプログラムが自動でインストールできるようになった。

アップルであれば、音楽プレーヤーのiPodを発売し、それまでSONYの牙城だった同市場を切り崩した。また、電話など作ったことのなかったアップルがiPhoneという電話を発売するようになったのも、ジョブスの功績である。

しかし、二人が去ったのを境に、じわじわと二大企業の業績にも陰がおちてきている。

それはつまり、企業とは生ものであり、成功するも失敗するも、経営者次第である、ということだろう。もちろん、運もあるであろうが。

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