本日の御題:Adobe またしてもアップグレードポリシー改悪。悪魔に魂を売ったのか!?

◆市場独占がもたらす結果
昨年は、政治のコラムばかりであったため、今年2回目の更新は指向を変えてみたいと思う。

アドビ(Adobe)という会社名をご存じだろうか?

写真のレタッチソフトで有名なフォトショップ(PhotoShop)や、ドロー系ソフトとしてはほぼ独占状態にあるイラストレーター(Illustrator)、ホームページでよく見かけるフラッシュ(Flash)などを開発、販売しているソフトウェアメーカーだ。

ただし、ここのソフトはとにかく高いことで有名で、フォトショップであれば10万円程度、イラストレーターやフラッシュも新規に購入すれば7万以上の出費は覚悟しなければならない。これらのソフト複数がセットになった製品になると、製品版は20万円以上するのだから、もはや個人レベルでは使えないだろう。

さて、実は私はweb Premium CS3というパッケージを持っている。2007年末に購入したものだから、既に4年以上使っている計算になる。その間、バージョンは、CS4、CS5、CS5.5(一部ソフトのみ)とバージョンアップしており、今年はCS6の発売が予定されているのだが……。

バージョンアップだけでも10万円以上かかるこのソフトのバージョンアップに関する規定が、昨年11月、突然変わったことでネットでは騒然となった。

元々、過去いくつ前でも製品版を購入していればバージョンアップ版を購入できたのが、3世代前までに変更されたことがあった。その際もネットでは騒然となったが、私からすればメーカーとしてそれで喰っているわけだし、3つ前からバージョンアップできるならよいのではないかと考えていた。

事実、私の持っているのはCS3であり、CS6が今年出たタイミングで、10万円以上の大金をはたこうと考えていたのである。しかし、昨年の11月で、まず1つ前のバージョンまでしかバージョンアップの対象にならないというメールが、「ぽーん」と送られてくる。しかも文面は、複雑なライセンス体系を分かりやすくしましたという、ユーザー思いのようなことが書かれている。意味が分からない。

これによって、CS3、CS4ユーザーはCS6へのバージョンアップへの道がたたれることになり、もしCSを使いたければまずCS5.5へ10万円近く出してバージョンアップをしてから、更にその半年後、CS6へ6万円程度出してバージョンアップをしなさいと強要されることとなった(複数ソフトをセットで購入している場合)。単体ソフトの場合は、12000円〜25000円程度×2回のバージョンアップ費用がかかる。

しかも、1つ前のバージョンまでしかアップグレードに対応しないということは、常に最新版を購入しなさいという「上からアドビ」目線の態度だ。

アップグレードのポリシーを変えるのは確かにソフトウェアメーカーの裁量の範囲内だが、これだけ露骨にやられると、正直引いてしまう。

しかし、アドビの悪知恵はまだ続く。私はこの時点で、今のソフトのアップグレードは取りやめたので被害は被らなかったが、泣く泣く昨年末にCS5.5へアップグレードしたユーザー(費用は10万円前後)には、昨日届いたメールに凍り付いたことだろう。

昨年末、キャッシュバックキャンペーンを行い、CS3、CS4ユーザーのCS5.5へのアップグレードを強力に促したアドビは、正月も明けて早々の1/13に、「CS3、CS4からCS6」へのアップグレードを2012年内であれば認めるというお達しを出してきたのだ。昨年、アドビに高圧的に催促されて、やむやむバージョンアップした費用は、僅か1〜2ヶ月で無駄になったのである。

信じられない暴挙だ。裏切り行為に等しい。

更に言えば、アドビがアップグレードに関するポリシーを改悪したのは、今回が初めてではない。CS版が発売された当初は、3つ前のバージョンからでも、1つ前のバージョンからでも、バージョンアップの費用は同じだった。それをCS5ができたときに、CS2やCS3からとCS4からで費用に差を付けるような変更が行われて、まず怒りがこみ上げた。

そう考えると、CS3を私が購入してからの4年間で、アドビは3回もアップグレードポリシーを改悪したことになる。これは他社では類をみない早さだ。

もちろん、アドビがここまで強気に出られるのには理由がある。アドビの主力製品であるFlashやホームページ制作ソフトのDreamWeaverは、元々はマクロメディアというメーカーが制作していた。アドビにも競合製品のPageMill等のソフトはあったがぱっとせず、規模に任せて吸収合併したのである。

当初、私はこの合併を歓迎した。イラストレーターとFlash、そしてDreamWeaverはWebページを作る上で密接に関わっているし、それらがひとつのメーカーから販売されるようになれば、ソフト間の親和性が高まると期待したからだ。

しかし、その期待は無残にも打ち砕かれることになる。これらのソフトがセットになったパッケージWeb Premium CS3を購入して私が最初に感じたことは失望であり、怒りであった。各ソフト間の連携と宣伝されていた機能は、平たく言えば各ソフトの中に他のソフトを立ち上げるボタンがついた程度のものである。斬新なものはなにもない。ただセット販売することで単価を上げようとしたメーカーの意図だけが、非常によく伝わってくる内容だった。

そして一度、このセット販売に手を出してしまうと、仮に使わないソフトが入っていたとしても、使い続けなければならない。これだけの金額を出してバージョンアップをしなければ、いつか使用するWindowsのバージョンに対応しなくなり、使えなくなるからだ。

しかし、セットされている全てのソフトを使わないのであれば、単体で購入した方が安く上がると言うことが後々分かった。単体ソフトも今後は1つ前のバージョンまでしかアップグレードできなくなることからそのメリットは消えるが、少なくとも今までは1つ前でも3つ前でも同じ価格でアップグレードができたからである。

結論を言うと、アドビがユーザーをただの金づるとしか扱わなくなった分岐点は、競合会社のマクロメディア買収により市場独占した時期だろう。これは、他の業界にも当然言えることだが、市場の独占が如何に恐ろしい結果を招くか、私にとって思い知るできごとだった。

アドビのソフトを使い始めた当初(今から10年以上前、イラストレーターVer.8)、私はアドビ信者の人だったが、昨年11月のメール以降、最も嫌う企業のひとつになっている。

そして、この企業にとって最も恐ろしいことは、非ユーザーではなく、ユーザーを敵に回したことである。世間からバッシングされようが、製品に満足し、その企業を信奉している者は、必ず次も購入する。

しかし、今回のバージョンアップポリシーの改悪が世間的には殆どフォーカスされていなくとも、製品を購入しているユーザーの怒りを買ってしまったことは、明らかに経営判断のミスである。

ユーザーの支持を失えば、収入のパイは次第に小さくなり、利益を上げることは更に難しくなる。それは残ったユーザーに対して更なる課金を促すことになり、マイナスのスパイラルに突入していくのが目に見えている。

もっとも、特にビジネスで使っている方々がアドビから本当に離れるためには、優秀な代替製品が他社からリリースされることを待たなくてはならないのも事実だが。

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