本日のお題:年金制度は受給開始年齢ではなく受給額で

◆受給開始年齢の変更は、男女間の不平等を生む
前コラムで、私は野田氏の政策を支持すると書いたが、こと年金制度に関しては全くもって支持しない。

元々60歳から受給だった年金の満額受給年齢が65歳になったのは久しいが、これを更に68歳から70歳まで引き上げるという案が出ている。人生80年の時代に、たかが3年、5年と思う方もいるかもしれないが、それほど甘い話ではないのは、すぐにご理解いただけるだろう。

たとえば、寿命79歳の男性(2010年の男性の平均寿命)を例に考えてみよう。60歳からの受給であれば19年間もらえることになるが、これが5年遅れただけでもらえる期間は14年になり、約26%も減少する。これが70歳受給となれば、もらえる期間は僅か9年間であり、60歳から受給された場合に比べて半額以下の47%しかもらえないことになる。

わかり易くするために表にまとめてみよう。

受給開始年齢と受給年の関係
 
平均寿命
79歳
86歳
60歳
19年
100%
26年
100%
65歳
14年
73.7%
21年
80.8%
68歳
11年
57.9%
18年
69.2%
70歳
9年
47.4%
16年
61.5%


この表を見れば一目瞭然だが、受給年度を遅らせることの問題は、男女の期待受給額(ここでは平均寿命まで生きた時の受給額と定義)の格差にある。平均年齢が高い女性の方が多いのは受給額が同じならば当然の結果だが、問題は男女間でその格差が激しくなることである。分かりやすい表をもうひとつ見ていただきたい。

男女間の期待受給額の格差
  女/男 比率
平均寿命 79歳 86歳  
60歳 19歳 26歳 136.8%
65歳 14歳 21歳 150.0%
68歳 11歳 18歳 163.6%
70歳 9歳 16歳 177.8%

同じ保険料を払っていても、男性は女性に比べて約56%(男/女=0.5625)(しか期待受給額がないということだ。国のやることだからと考える方もいるだろうが、国がやることだからこそ平等でなければならない。もちろん、ある程度の許容範囲というものはあって然りだが、倍近い格差は、さすがに座視できないだろう。

もとより、企業の定年が60歳であるところが多い中、65歳、あるいは70歳まで支給しないというのは横暴でしかない。その年まで年金なしで生活できるのは富裕層であり、一般の国民は生活そのものが成り立たなくなる。

国は企業に定年の年齢を上げるよう指導しているようだが、正直なところ、多くの65歳、あるいは70歳は確実に働き盛りを過ぎており、職人のような一部の職種を除けば、むしろ企業にとってマイナスにならないとも限らない。

なぜなら、どうしても年齢的には時代の流れについていけない面もあるうえ、性格的には保守的になりやすく、チャレンジよりも安定を求めてしまうからだ。これらは度々企業の成長を妨げる要因になる。

もちろん、国の財政を考えるならば、保険料を圧縮しなければならないのは十分承知している。そこで私が提案したいのは、受給年度の引き上げではなく、受給額のコントロールだ。男女一律に受給額を下げることによって、少なくとも男女間の格差は拡大しない。

若者の国民年金加入率の低下の理由は、今払っても将来もらえるかどうか分からないからである。受給年齢の引き上げは、まさにもらえないリスクを高めることであり、更なる年金制度の破綻を生む結果をはらんでいる。

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