本日のお題:援軍なき籠城

◆籠城の条件
戦には、城を出て戦う野戦と、城に籠もって戦う籠城線がある。一般的に敵が強ければ城に籠もって戦うと思われがちだが、実は籠城戦を選ぶにはひとつ条件がある。

それは、援軍が期待出来るかどうか。

城に籠もると言うことは、敵に囲まれると言うことである。囲まれた状態で脱出することは非常に難しく、もし援軍の見込みがないならば敵が現れる前に城を捨ててさっさと逃げてしまうのが得策なのである。援軍が期待出来るからこそ、時間稼ぎとしての籠城に意味を持つ。

さて、今日の菅政権は如何だろうか?

彼は官邸に籠城しているように見える。では援軍は現れるだろうか? 否。その期待は薄い。彼が首相に居座ることで、際限なき時間稼ぎに国会議員も国民も付き合わされているのである。

◆失望する行動・発言の数々
私は小さな言葉遣いの揚げ足をとって失言を責め、引責辞任に追い込むのが嫌いだ。そんなことで繰り返し国の責任者が替わっていては、国家としての道が定まらないからだ。

しかし、佐賀県玄海町にある原発の再稼働の問題を見て、私は心底、菅氏に失望してしまった。

まず私が違和感を覚えたのは海江田万里経済産業相が安全宣言をしたときだ。海江田氏が6月29日に佐賀県を訪れ、地元自治体に「国が責任を持つ」と再稼働の受け入れを要請した。地元・玄海町の岸本英雄町長は、海江田氏の言葉を信じ、九州電力に再稼働を了承したわけだが、このとき、菅首相自ら説明にきて欲しいと言う佐賀県知事、玄海町町長に対して、後日菅氏が難色を示したという。

なぜ?

今、全国で原発の再稼働が暗礁に乗り上げている。定期検査に入るべき時期にきているのにも関わらず入れずに稼働し続けている原発もある。一度停止してしまうと、再稼働の見込みが立たないからだ。

脱・原発という選択肢は長い目で考えるべきことであり、今年・来年に実現出来るものではない。国家としてのエネルギー政策の大幅な見直し抜きには、達成出来ないことである。であるならば、当面は原発と共存していかなければならず、玄海町の玄海2・3号機はその先鞭を付けるという意味で、菅首相自らが乗り込み、地元に説明し、そして再稼働の実績を作るべきではなかったのか?

菅氏は、相手を責めるときは東電本社に乗り込んだときのように、あるいは彼が名を上げた薬害エイズ問題で官僚を叱責したように威勢がいいが、相手に頭を下げに行くことはできないらしい。いや、うがった見方をすれば、自らが行くことで、将来問題が発生したときに責任を問われることを恐れているとすら思えてくる。

というのも、この直後、政府はストレステスト実施を発表することになるわけだが、野党自民党が閣僚2人の意見の不一致(ひとりは既に安全宣言をしている。もうひとりはストレステストを実施しなければならない)に対して首相の意見を求めたところ、首相は「意見が異なるそれぞれの大臣に聞いてくれ」と完全な責任放棄をしたからだ。

昨年の尖閣諸島問題でもそうだが、肝心な時に菅首相は責任を下に押しつける気質があるらしい。閣僚がそれぞれ勝手に別のことをやっていれば自ら動いて方向性を一致させるのが首相の役目ではないのか? それでどうしても従わない閣僚がいれば、人事権を使って辞めさせる権限も彼にはあるのだ。
しかし、今の菅首相には、閣僚をまとめる力量がない。

今回のストレステストが急に声高に言われるようになったのは、海江田氏が九州に行った後だったが、このタイミングが何を意味しているか、私はこう推測する。

海江田氏から、「地元の知事・町長が首相にきてもらい、説明をしてもらいたいと要望があった。政府の責任者の言葉を聞きたがっているので、是非訪問してください」と言われた菅氏が、自ら行けば責任問題になる(行かなくても本来責任問題になるのだが…)ために、行くのを躊躇った。

「ストレステストはEUでも行っており、以前から国際的な場では度々名前が挙がっていたので、このテストを実施して安全性を再確認すれば、自らが出向いて説明する必要はないのではないか? あるいは、テストの結果をもって訪問すればよいのではないか?」 と考えたのではないだろうか。そう受け止めたくなるようなジャストなタイミングだったからである。

いずれにしても、先に出した安全宣言は意味がなくなり、九州電力のやらせメール(副社長の指示らしい)の問題もあり、地元の国、電力会社に対する信頼は完全に揺らいでしまった。電力不足の心配は今後も続き、海外への工場移転(技術流出と雇用の消失)という流れを止めることができそうにない。残念ながら、菅氏の如何に頑張ろうが権力にしがみつこうが、彼には政治家としての素養がないのである。

◆国会議員はポスト菅をもっと明確に示せ
これだけ不手際を続けていても、なお菅氏が首相でいられる理由のひとつは、国民にも迷いがあるからであろう。政権後退をすればすべてうまく行くと考えていた前回の衆議院選挙、民主党が大勝し自民党は大敗を喫した。

しかし、沖縄米軍基地移設問題に端を発した外交上の失策、災害対策の失敗、財政再建の失敗(バラマキ政策と安易な埋蔵金頼み)等を経て、民主党政権に対する期待は完全に裏切られたといってよい。

首相も鳩山氏は一年持つこともなく、小沢氏との内ゲバ派閥闘争も明らかになり、民主党は自民党以上に醜態を晒してきた。

結果、国民は今、誰に政権を与えればよいのか、完全に分からなくなっている。仮に菅氏が首相を辞めて他の誰かが首相になったとしても、過去1年ももたなかったように、結局は長続きせず、コロコロと変わっていくだけではないのか?

菅氏が辞めた後、自民党と民主党が大連立を組んでオールジャパンで災害対策、今後の日本の青写真を作っていくと言われても、俄には信じられないのである。元々、自民党と民主党は、基地問題にしても子供手当にしても、高速道路にしても、税制改革にしても、大きな隔たりがある。まとまるはずがないのだ。

それならば解散総選挙をして国民の信を問えばいいと言いたいところだが、正直選挙どころではない地域があるのである!

私は、自民党議員にも民主党議員にも、もちろん他の全ての国会議員にも言いたい。安定・長期政権となるべく内閣を作りなさい。でなければ、この国難を乗り切ることはできない。

大連立をするのであれば、衆議院で未だ議員数が多いのは民主党だとか、国民の支持は失っているのだから自民党から首相を出すべきだとか、そんなくだらないことを言っている場合ではないのである。あなた方は、全て日本国籍を持つ日本人ではないのか? この国のために政治家になったのではないのか?

この国を良くしたい、この国の未来をよくしたい、という志があれば、政党の垣根など、容易く越えられるはずである。大義があるのに実行出来ないのは、志がないからだ。

時には敵に塩を送ることすらある。それが日本人の美徳、精神ではなかっただろうか?

本当に菅首相が政治のネックになっているというならば、まずは国会議員一人一人がポスト菅を迷える国民に示すべきである。

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