本日のお題:被災をネタにした政争に明け暮れる者ども

◆どこまで続く鳩山劇場
自民・公明・たちあがれ日本の野党3党が6月1日に提出した菅内閣不信任案は、2日の衆院本会議で賛成152票、反対293票、欠席・棄権は33と、圧倒的な票差で否決された。与党の分裂は回避され、菅内閣は首の皮一枚繋がったわけだ。

とはいえ、採択直後には、既に泥試合が始まっている。つなぎ法案を含む予算が通る6月末をもって菅首相は辞任すると約束したと述べる鳩山元首相に対し、そんなことを言った覚えはないと否定する菅陣営。確かに、映像を見る限り、「災害対策に一定のメドが付いた時に、若い世代に責任を負ってもらう」と菅はスピーチしている。

まずはそれを真に受ける鳩山にスポットを当てよう。野党による菅降ろしの動きが始まったとき、まず小沢がそれに同調した。鳩山はこのままでは分裂を招くと、菅に退陣を促したが受け入れられず、やむを得ず小沢と共に不信任案可決側に回ることを宣言した。

ここまでしておきながら、採決当日の朝、菅との接触で態度を反転させるのは、果たして誠実な行動だろうか? 彼は菅が福島原発と復興のメドが付く来年までは続投すると述べると激怒し、「嘘つき、ペテン師」と非難しているが、自分は嘘つきではないと言えるだろうか? いや、そもそも政治の世界は嘘も方便である。まんまとはめられて、相手をペテン師と罵るならば、その前に自分の浅知恵を憎むべきである。この程度の駆け引きを見抜けないようであれば、到底諸外国との外交もままならないだろう。

事実、菅・鳩山両者によって交わされた確認書なるものは、素人目に見てもあまりにお粗末、曖昧であり、しかも署名すらない。それを紳士的と捉えるのは鳩山の勝手であるが、詰めが甘いのは政治家として致命的だ。

第一、鳩山は正論を述べ、自分のスピーチを自画自賛し、常に自分を聖人のように考えているようだが、彼もまた多くの嘘をついている。ひとつは米軍基地の移転問題。首相在任中は、必ず解決出来る秘策があるようなことを言っていたが、辞めた後にあっさり「実は何も案がなかった」ことを認めている。政治家を辞めると語ったかと思えば、その後続投を宣言する。これらは嘘ではないのだろうか? しかもかなり稚拙な。

一方、菅がもし嘘をついたとしても、それがペテン師まがいのものであったとしても、政治家としてその程度のことはやってのけて当然のことだ。むしろ、この程度ではまだまだ一流のペテン師とは言えない。

◆得をしたのは野党三党
今回の政争で得をしたのは、自民・公明・立ち上がれの野党三党だろう。退陣こそならなかったものの、ひとつは自民・公明に加えて立ち上がれも共闘できたこと(当初は距離を置いていた)、そして民主党に決定的な亀裂を生じさせたことである。

尤も、否決されたとしても小沢、鳩山勢力がこれで民主党から飛び出してくれること自民党の策士たちは期待していただろうが、そこは小沢も乗らなかった。負け戦と分かれば、歯ぎしりしながらも撤退し、次の時期を待つ姿勢は正しい。

◆菅も甘い
鋭い牙や爪は、どうしても隠しておくことができないらしい。6月には復興基本法案の成立、今年度第2次補正予算案の成立が待っているが、これらは合わせると50兆円にも達する膨大な額になる。これらの法案を通すためには、参議院を通さねばならず、民主党だけでは廃案になってしまう代物だ。

自民党は民主党がマニュフェストに掲げた「子供手当」「高校無償化」「高速道路無料化」等4案を廃止しないことには通さないことを明言している。しかし、これらはどれも民主党にとっては譲れないもの(民主党にとって自己の存在意義そのもの)であり、身動きが取れなくなる状況にある。

それを承知していながら、否決採択後、その日の内に鳩山と対決姿勢を見せた菅もまた、甘い。「政治空白をなくすため」「被災された方々のため」という大義を持ってこれら予算を通すまでは、牙も爪も隠しておくべきところを、早々と掌を返したのだから。これで、同法案を巡る抗争は、与野党間だけではなく、民主党内でも引き続き起こることになる。ようは、短期的にしか物事を見れていないのだ。

今回は辛うじてすり抜けることができたが、今月末には再び内閣にとっては最大の試練が待ち受けている。予算を通せないことが、人心を集めることができない首相の指導力不足として国民には映るからだ。

したたかという点では、今回の論争で全くといっていい程名前も顔も出ていない枝野官房長官だ。非難合戦に加わらないことで、次の総理を狙っているのが見て取れる。

◆結局は権力抗争
自民党の谷垣にしろ、民主党の小沢にしろ、今日のような事態を引き起こした原因は菅にあると言う。菅がyesマンしか近寄らせず、側近だけで物事を決めていることが復興を遅らせているという訳だ。それも一理あるが、そもそも菅からの復興内閣への入閣を拒否したのは谷垣のほうである。党内で干されている小沢はともかく、谷垣にそんなことを言う資格はない。

確かに、菅の官僚嫌いは異常だ。それは、薬害エイズの頃に培われたものかもしれない。官僚に対しては常に高圧的で、信用していないから意見は求めない、ただ決まったことをやれと命令するだけ。組織上の上下からすれば、それは正しいことかも知れないが、このやり方は志のある官僚をも遠ざけることになる。等しく悪と決めつけるのは、偏狭な先入観というものだ。今必要なのは英知であり、そのためには少しでも多くの情報を吸い上げる流れと、それを分別する仕組みが必要なのである。

同じ民主党内においても、派閥が違うと言うだけで意見も聞かず遠ざけてしまったならば、リーダーとして失格だ。なぜなら、部下はリーダーから見放されたと感じたら、まずは失望し、次に自分をもっと買ってくれるリーダーを捜し、そして最終的には自分を認めなかった現在のリーダーを追い払うことに燃えるからである。

だから、たとえ内心警戒していても、よく思っていなくても、志ある有能なリーダーはそれを心の中に隠し、あたかも期待しているかのように声をかけて仕事を命じるのだ。それは人使いの妙である。残念ながら、菅にそれだけの度量はない。

◆政局は国家の恥
最後に今回の政争劇について、諸外国がどう見ているかをご紹介しよう。

アメリカ、韓国は、歴史的被災への対策を速やかにしなければならない時期の権力抗争にあきれ顔である。当然だろう。日本国民としても全く同意見だ。国民有志がボランティアで被災地に行き、復興のために汗を流しているこのときに、政治家達は何をやっているのだろうか?

中国は一番に速報で否決のニュースを伝えるなど関心は高いようだが、表だった動きは見せていない。そう、彼らにとって今は日本に圧力をかける時期ではないのだ。今日本に圧力をかければ与野党は外敵のために一致団結してしまう。ならば中国の国益に関わらない限り静観しておき、日本の政治が乱れて国力が弱まるのを待つのが得策、と考えているに違いない。彼らの歴史をひもとけば、それが文化であることが理解出来る。

いずれにしても、このご時世に未だ目が覚めず、政争に明け暮れる国会議員達の姿は、世界に対して国家の恥である。

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