sengoku38の衝撃

◆情
沖縄・尖閣諸島沖の漁船衝突映像をyoutubeにアップしたとして、11月10日、神戸海上保安部の43歳の海上保安官(以後A氏)が事情聴取を受けているらしい。

彼の罪状は、「国家公務員法の守秘義務違反の疑い」らしい。

A氏はNNNの取材に対して、「誰にも相談せず一人でやった」「映像は元々、国民が知るべきものであり、国民全体の倫理に反するものであれば甘んじて罰を受ける」と話しているという。

ここで問題になるのが、彼の処遇だ。既にネット上では彼を支持するコメントが多数書き込まれている。少なくとも、低迷する内閣の支持率(30%代後半)より高いはずだ。

かたや、今回の事件を起こした張本人(以後、酒乱船長)は中国に引き渡され、 英雄扱いされている。なんともやるせないことではないか。

中国で英雄視されたとしても何の意味もないという方もいるだろうが、酒乱船長は今もおそらく好きな酒を呑んでいる反面、A氏はこれからしばらく、マズイ飯を食べなくてはならなくなるというのは、歴然とした差があると言わねばなるまい。

犯罪者は外圧に屈し事実上の放免をしておきながら、この酒乱船長の傍若無人な振る舞いと、中国の顔色ばかり伺いそれを裁けない不甲斐ない政府に対して志をもって抵抗した者は、法の下、裁かれるのである。これこそ、ダブルスタンダードと呼ぶにふさわしい。

A氏を裁くのであれば、国外に逃げた酒乱船長を今更捕まえることはできなくとも、せめて中国に船の損害賠償請求を行うべきである。それすらできない腰抜け政治家に、A氏を非難する権利があるのか、甚だ疑問だ。

おそらく、日本国民も、もちろん私も、そしてA氏本人ですら、情報流出の手法については、決して正しいとは言えないと考えている。しかし、それでいてA氏を養護したい気持ちに駆られるのは、彼の意識が外国政府ではなく、日本国民に向けられているからではないだろうか。

◆法
さて、そんなことを書いた上で、私なりの考えを述べさせてもらうと、A氏は日本の法に則り、裁かれるべきである。さっきまでと言っていることが違うではないかと思うのはもう少し待ってもらいたい。

中国にこんな実話がある。

あるとき、孔子のいる国に隣国が軍隊を率いて攻めてきた。孔子はもちろんそれを迎え撃ったが、毎回戦場に出ては戦わずに逃げ帰る兵士がいた。そこで孔子がその兵士に理由を尋ねると、兵士はこう答えた。「私には体の不自由な親が1人います。自分が死んでしまったら、見てやれる者がいなくなるのです」

すると孔子は、兵士を「なんと親孝行な者だろうか」と褒め称えた。するとどうだろうか?

孔子の率いる兵士にその話が伝わると、他の兵士たちまで戦場から我先へと逃げ出すようになった。これは敵前逃亡という戦場での犯罪行為を情によって裁いたための結果である。

法があるのは、その国なり組織なりが、正しく機能するためである。故にそれを破る者には制裁が加えられなければならない。

今回の情報漏洩にしても、彼を情によって裁くことは許されないであろう。というのも、もしA氏を無罪放免にしてしまったならば、今後、情報漏洩が次々と起こる危険があるからだ。それでは組織は成り立たない。統制が取れない。個人の判断で、独善的に、国家のルールを破ることは許されないのである。

一海上保安官が、国家が決めるべきことを独善的に判断し実行するのは、単なる越権行為であるだけでなく、ひとつ間違えれば国家に多大な損害を与えうる行為なのである。それは、残念ながら「軽率過ぎる!!」と言わねばならない。

故に、A氏は必ず裁かれなければならない。

◆正しさを決めるのは国民
それでは、日本国民のためと考えて行動したA氏を見殺しにしてしまうのではないか? と思う方もいるだろうが、そこは法治国家の日本である。「国家公務員法の守秘義務違反」で死刑になることはない。首謀者は死刑もあり得る、国家の秩序を転覆せしめる重大な罪「内乱罪」ではないところがミソだ。

A氏にどれだけの志があるのか、今の私には分からない。ただし、もし彼が本当に志をもって実行したならば、その思いは必ず国民に届くはずだ。

罪を償った後、彼がもし政治家になるべく立候補したならば、その時こそ、彼の行為の是非が法ではなく情、つまりルールではなく国民によって判断されることになる。その結果、日本の政治に新しい風が吹くかも知れない。

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