尖閣諸島諸々〜国際社会に警察はいない

◆尖閣諸島の諸々
尖閣諸島がどこの国の領土なのか、日本にも中国にも言い分はあるだろう。日本で報道されていることの多くは日本に有利な情報であろうし、中国で報道される100%の情報は、中国に有利なものだろう。

私自身、それがどちらの国に所属すべきなのか、歴史学者ではないので分からない。

しかし、ひとつだけはっきりといえることがある。

日本の海上保安庁の巡視船と中国漁船がぶつかり、中国漁船の船長が逮捕、拘留された。

しかし、その後、レアアースの輸出禁止(公に認めていなくとも、政治的な力が働いているのは当然である)や、河北省での日本人4人の逮捕など、日に日に強まる圧力に屈する形で、中国人船長を釈放したことは、政治的敗北を意味する。

そもそも、同様の事件を起こせば日本人ならば逮捕・起訴されることが、中国人ならば無罪放免、釈放されるということ自体、治外法権を認めたといわざるを得ない。

中国政府が、「この問題の解決には無条件な釈放しかない」と再三口にし、その度に日本政府は「冷静な対応を」などという弱気な発言を繰り返していたが、結果的に日本は無条件降伏をしたに等しい対応に終結した。これを無能と言わずなんというだろう。

圧力をかければ、何でも言うとおりに操作できる国だと思われても仕方がないのではないか。中国政府の高圧的な態度にも反感を抱かずにはいられないが、不甲斐なさ過ぎる日本政府にこそ、元凶があるように思えてならない。

◆交渉ごとは、先に弱気を見せた方が負け
さて、政府は、沖縄地検に責任をなすりつけて容疑者を放免したが、一度弱気を見せたら足元を見てくるのが外交の世界である。それは相手が中国でなくとも同様のことが言える(とはいえ、中国にだけは、安易な妥協は決してしてはいけないと思うが...)。

釈放まもなく、中国政府は、日本政府に対して、謝罪と賠償を求めてきた。これは日本政府からすれば決して飲めない要求である。これを飲めば、尖閣諸島の領有権が中国にあることを認めることになるからだ。しかし、中国はこれを行わなければ、引き続きレアアースの輸出を制限し、更には中国に進出している日本企業を人質に様々な圧力を加えてくるだろう。

ようは、船主の開放を見て、日本を言うとおりに操舵できるカードだと、中国政府は確信したのである。自分の持っているカードの強さを知った以上、それを使わない手はないだろう。

多くの日本人は、最強のカードを持っていたとしても、必ずしも使い尽くしたいとは考えない。お人好しなのである。しかし、多くの国の文化は、それとは異なる。使えるカードは、惜しみなく使う。

だから、交渉ごとは弱気を先に見せた方が負けなのだ。


[情報元]産経新聞

◆中国政府は狡猾だが予測しやすい
アメリカに飛んだ中国首相は、日本を孤立させるために、停止していた米中の軍事協力を再開したいと申し出た。その際、「日本は我々のいうことを全く聞こうとしない」と言い放ち、その一方でアメリカは違うとおだて上げた。詭弁としかいいようがない。閣僚級の交渉を一切断ったのは、他ならぬ中国側なのだから

しかし、この動きはとても予想しやすかった。日本を追いつめるにはアメリカと切り離すのが最良の策であることは理解できるからだ。それはアメリカもよく理解している。だからこそ、日米の会談では、あえて「尖閣諸島は日本の施政下にあり、日米安保の適用範囲内である」と明言することで、普天間でゴタゴタしている米軍基地の重要性を日本政府に認識させたのである。

それでも中国が狡猾だと感じるのは、日本やアメリカの思考をより理解し、利用しているからだ。日本に対しては圧力を加えれば、一切の妥協なしに目的を果たすことができる。大手企業の政治に対する影響力の強いアメリカに対しては、利益をぶらさげてあげれば、容易く交渉に応じてくる。その使い分けは、露骨だが天才的だと言わねばなるまい。

だが、アメリカがそのような立場でいられるのも、それはアメリカのほうがまだ軍事的・経済的に強者だからに他ならない。その立場が入れ替わるまでは、中国は低姿勢でアメリカに臨むだろう。それが有名な孫子の兵法であるからだ。

ちなみに、民主党政権発足時、あれだけ親中政策ととり、米軍基地問題ではアメリカに冷淡であった日本政府が、いざとなるとアメリカ頼みにならなければならないとは、なんとも情けない光景だ。

◆日本はどこと組むべきなのか
鳩山政権になって、日本は中国重視と、相対的なアメリカ軽視の外交政策をとってきた。それは日本はアジアの国であるという自負と、中国のめざましい発展に目移りしたのだろう。

私自身、基本的には中国という国が好きである。そうでなければ、中国の歴史を勉強したり、中国の書物を読んだりはしない。尊敬に値する部分も多くある。

同じ文化圏を先祖代々生きてきたこともあり、うまく付き合っていきたいと思う気持ちもある。

しかし、現代の日本が警察のいない世界で誰よりも大切に友好を結ばなくてはならない国は、アメリカである。それは今後も変わらないだろう。理由を箇条書きにすると下記の通りだ。

  1. 中国とは領土問題があるが、アメリカとはない
  2. 中国は反日教育を今も実施しているが、アメリカは真珠湾攻撃を忘れてはいなくとも反日教育は実施していない
  3. 中国は軍事的圧力を見せるが、アメリカからは軍事的圧力は受けない
  4. 中国は一党独裁の国であり情報統制もされているが、アメリカ(および多くの旧西側諸国)は情報が開放されている。それは、政府の意図的な情報操作によって事実がゆがめられることを最小限に抑える効果を持つが、中国国民は容易く中国政府のプロパガンダに扇動されるため、冷静な対応ができない
  5. 中国はかつて日本が攻め込んだ国だが、アメリカはかつて日本に攻め込んみ、核まで落とした国である。被害者よりも加害者とのほうが組みやすい

◆ペンは剣より強いとは限らない
最後に、タイトルの「国際社会に警察はいない」について語らなければならない。アメリカが日本の尖閣諸島が日米安保の適用範囲内だと明言したのは、決して彼らの善意によるものではない。それが彼らにとって、利益になるからだ。日本を守ることは東アジアでのアメリカのプレゼンスを維持することであり、引き続きアメリカが世界の覇者であるために必要だからである。

同盟国である日本をもし見捨てるようなことがあれば、アメリカは覇者としての地位を失うことになるだろう。

そして、中国が日本に対して、自らの正しさだけを振りかざし、高圧的態度で臨んできたことも、当然といえば当然である。中国にはそれだけの経済的・軍事的力があるからだ。

日本の輸出額はアメリカを超えて現在中国がトップであり、中国によって日本経済は下支えされているといっても過言ではない(とはいえ、中国によって日本経済がデフレを起こし、不況が長引いているとも言えるが)。それは、中国側からすれば十分脅迫のカードになる。

また、レアアースに代表される多くの資源でも、日本のハイテク企業は中国に依存しているのだ。観光産業にしても中国人旅行者は日本経済にある程度ではあるが貢献している。要は、経済的にかなりの部分依存しているのが実情なのだ。

この状態では、日本人が信奉する「正しさ」なんてものは、一切通用しない。依存している側がどんなに正しさを説いても、依存されている側が聞く耳を持たなければ、その正義は言葉だけのものとなる。つまりこれが、国際社会において警察はいない、ということだ。

国内の法律が守られるのは警察がいるからだが、警察のいない国際社会では「力の伴わない正しさ」は、ないに等しい。どこかの国の元首が国際的に非難されるようなことをしでかしても、その国に力があれば、誰もその元首を捕まえることはできない、といえば分かりやすいだろうか。

故に、国内の問題のように外交を捉え、「正しいことは話せば分かる」と考えるならば、政治家としての素養がない。よって政治家ではなく教師になるべきだ。

「軍事的な力だけがすべてではない」という人は、時々インドのガンジーの無抵抗運動を例にあげる。イギリスに軍事的に抵抗するのではなく、イギリス製品を買わないことでイギリスからの独立を勝ち取ったと。

しかし、果たして現在の日本とインドがイコールな環境にあると考えているのだろうか? 根本的な時代背景も相手も環境も違うのだから、そのまま単純に受け入れることなどできないのである。日本は中国に対して多くを輸出しているのだ。不買運動をすることで同じことをされた場合、困るのは日本である。

まして、相手はペンが届かない国(情報操作された国)である。

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