本日の御題:株価下落のシナリオ
◆底値ナシ東証
 東証の株価が下落している。ほんの一時期ではあったが20000円台まで回復していた株価は2001年1月13日現在で13000円台にまで 暴落し、さらに底値が見えないでいる。都市銀行のほぼすべてが株の含み損を抱える事態に陥り、今年三月からの時価会計導入とも 重なって投売りの様相を呈してきた。
 半値以下に値を下げて回復の見込みのない有価証券によって企業・金融機関の収益は悪化の一途を辿るだろう。
 これによる税収の低減の影響をある程度緩和できるのは、外形標準課税を金融機関に課す東京都だけかもしれない・・・。

 今回の株価暴落はアメリカ経済の減速が大きく影響している。
 世界経済の牽引役を自他共に認めていたアメリカ経済の混乱は、日本だけでなく東南アジアの株価、通貨も昨年から 暴落を促した。皮肉なことに経済のグローバル化が叫ばれてからというもの、世界は金融大恐慌に何度となく巻き込まれている。
 そして東証もまた、その荒波の中で乱高下を繰り返していると言えるだろう。

◆無益な提案・議論を表に出してはいけない!
 このような事態を重く見た政財界では、まことしやかにある魔法じみた規制緩和が囁かれている。公式には発表されていないが、 自社株保有の解禁である。
 まず簡単に説明しておこう。自社株(自己株とも言う)とはまさに自分が発行した株のことである。商法では長らくその取得を禁止し ていたが、昨今の規制緩和によって制限つきながら一部認められるようになった。
 その制限とはストックオプション制度の導入によって社員が自社の株を購入する権利を行使したとき、もしくは 市場から自社株を買い上げて償却する場合などである。後者は株価を向上させる働きがある。
 さて話を元に戻そう。ではなぜ商法では自社株の取得をそこまで制限してきたのだろうか?
 賢明な読者からおおよそ想像がつくだろう。そう、自社株の買支えによる株価操作ができてしまうからだ。

 たとえば発行企業が自らの発行する株の価格が下落していることに懸念を感じ、自ら大量に自社株を購入したらどうだろう?
 見かけ上は株価が上昇するが、それは企業収益や将来性を反映したものとは程遠い。むしろ市場から買い上げる資金を浪費する分だけ キャッシュフロー(平たく言えば現金の出入り)はマイナスに働く。
 しかし一般投資家からはそういった内情が見えづらいため、その企業の株の値上がりを期待して購入するかもしれない。
 企業は自分で株価を上げておいてから売りさばけば、利益が得られるというわけだ。
 もちろん、この企業がその後長く続くとは思えず、投資家は損をする可能性が大きいだろう。

 さてこういった理由から商法で禁止・制限していた自社株の取得であるが、実はここに来て「規制緩和」という美名の下に 解禁しようという意見が一部ではあるが囁かれ始めている。
 今回の一連の株価暴落を受けての発言ではあるが、これは果たして許されるのだろうか?
 元々今回の株価下落の一因が3月の決算期に向けて企業間の持ち合い株売却によることを考えれば、各企業が自社の株価下落を食い止める ために自社株を買い支えるというのはナンセンス極まりない。
 こういったことが囁かれること自体、私は驚きを感じずに入られない。

◆国の財政は自分の足を喰らうタコのような状態
 しかしもう少し奥まで覗いて見ると、自社株の取得という考え方が実は一部のグループにとっては常識として考えられていることが見えてくる。  資金を不特定多数から集める手段として、株と似た性格の金融商品に債券がある。そして国が発行している債券を「国債」と 呼ぶが、実は国の財政は自分で調達した資金で自分が発行している債券を買いつづけているのだ。この構図はまさに自社株の取得と 同じといえるだろう。
 よって官僚や一部の政治家にとってはすでに慣れ親しんだ手法であり、それほど抵抗も感じられないのだろう。
 国の財政を歪めた彼らは次に企業の財政も歪めることで、自分が任期の間は爆弾が爆発しないように、と必死なのではないだろうか。

◆頼みのアメリカ経済は・・・
 これまで世界の株価は、アメリカ経済の強さに比例して乱高下を繰り返してきた。
 その傾向は今後もしばらくは続くだろう。
 ではアメリカ経済はどうなるのか?
 筆者は、たとえグリーンスパン氏が金利をさらに0.5〜0.75%下げたとしても、期待されるほどの効果は得られないだろうと予測する。
 それはIT関連企業が本業ではなかなか利益をあげられていないからだ。
 これまでは「将来性」という言葉の魔力によって、収益をあげていなくても株価は上昇した。
 しかしネットに参入した多くの企業が今悩んでいることは、ネットは儲からない、ということに他ならないのだ。
 これまで価値のあったサービスやソフトが、ネット上では無料で配布されることが当然となってしまっている。 これでは収益を上げるビジネスモデルを確立することは難しい。少なくとも後発企業では。
 結果として、インターネットを使ってのサービスは広告収入に頼る面が多々あるわけだが、不況になって一番初めに削られる 予算が宣伝広告費と交際費であることを我々は忘れてはいけないだろう。
 無料プロバイダの相次ぐ撤退や有料化への流れは日本でも起こっているが(ちなみにポータルサイト最大手のYもごく最近業績を下方修正した)、 これらネットでのビジネスモデルを確立できなかった企業の相次ぐ倒産などが今後アメリカ始め世界を襲うだろう。

補足)有価証券の時価会計
 有価証券はその目的によって「投資目的有価証券」「満期保有目的有価証券」「子会社および関連会社株式」などに分類されます。
 企業間で株価保持と経営の安定化を図る目的で互いの株式を持ち合う(その他有価証券という)商習慣が日本にはありましたが、 2001年4月よりこれら持ち合い株にも時価評価が適用されることになりました。
 会計の話になりますと専門的になりますので割愛しますが、有価証券に限らず資産を時価評価することで、投資家が企業を 正しく評価することが可能になります。そしてこの動きは現在、世界的な規模で進んでいるのです。

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