「月夜の呟き」――ver.博雅――






「いい月夜だなぁ――」
 うっとりとした声が、月の光に照らし出された虚空の彼方へ溶け
てゆく。
 博雅は、月を見あげながら、
(ここに晴明がおれば、もっと良いのに――)
 そう、思っていた。
 そうして、酒を酌み交わして、他愛ない話をする。
 その瞬間が、博雅にとって、愛しいのだ。
 晴明の表情(かお)を見つめ、晴明の声を聞き、そして、何より
晴明の傍にいること。
 それが、それこそが、博雅の幸せ――
 今、もし晴明が傍にいれば、きっとこう言うだろう。
「博雅、葉二は持っているか。」
「うむ。」
 吹き始めると、晴明が目を瞑って、世界は二人だけの空間へと変
わる。
 温かく、柔らかな―――空間。
 そこに、晴明と博雅がいる。
 晴明と博雅だけが存在する。
 想像しながら、溢れる涙もそのままに、博雅は、己の想いを理解
する。
 思わず漏れた呟きは、月夜の中へと、紛れていった。


「俺は、晴明のことが、好きなんだ―――」






【END】






今回は当時の[後書き]を省きます(苦笑)。ちなみにこのSSを書
いたのは、2002年の3月でした・・・。
実はこれは、期間限定で開いていた陰陽師サイトからの焼き増し
なのでした(こんなんばっかですみません)。お互いが同じ月を
見つめながら、お互いのことを想い合っている。そんな姿を書こ
うとして、微妙に外してますか?(笑)
陰陽師では、ひそかに『晴明×博雅←朱呑童子』な関係がツボな
紅月でした。






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