その日――― 鉄生はいつも以上に『犬』にかまっていた・・・。 その優しい眼差しと温かな腕で。 そう、今日は――――― 特別な日 「おーい、犬〜。」 鉄生が呼ぶと、 「ワウゥー♪」 嬉しそうに『犬』がかけて来る。 どんなに遠くにいても、すぐに、必ず。 そのまま鉄生の胸に飛びついて、鼻をすり寄せる。 鉄生も犬を抱きしめ、優しく優しく頭を撫でてやる。 すると犬は、幸せそうに目を細めて笑うのだ。 鉄生と犬の周りだけ、他とは全く空気が違っていて。 温かくて、柔らかくて、妬けちゃいそうなくらいに幸せで。 時間の流れまでもが、そこだけゆっくりと穏やかに流れているような気さえ する。 2人(?)の絆の深さが伺える瞬間である。 「先生、今日はなんか犬ちゃん、いつも以上に嬉しそうですね?」 瀬能がふとそう言うと、鉄生は『おっ、わかるぅ?』というように眉を軽く上げ てみせ、 「実は今日は特別な日なんだ。」 と言った。 その表情がとても幸せそうで、 (なーんだ。嬉しいのは犬ちゃんだけじゃないんだ・・・。) と瀬能は思う。 続けて瀬能が、「特別って・・・」と問いかけようとしたとき、おんぶお化け ―――もとい、二科の主任こと陵刀が現れた。 ぬっと鉄生の背後から、鉄生の両肩に手をかけ、おぶさるような形で・・・。 「おわっ!」 鉄生が驚いて奇声を上げるのと、 「クゥゥーン。」 犬が怯えたように鳴いたのは、ほぼ同時だった。 「おやー、大歓迎だねぇ♪」 本気で言ってるのか、冗談なのか・・・陵刀の飄々とした態度からは到底読 み取ることはできない。 「で、何が特別なんだって?」 一体いつから聞いていたのか・・・瀬能の疑問は陵刀の口から発せられる こととなった。 「地獄耳・・・」 ボソリと言った鉄生に、 「なんか言ったかな?鉄生クンvv」 にーっこりと恐ろしい笑みを浮かべながら陵刀が言う。 「な、なんでもないです・・・。」 鉄生があっさりと敗北宣言したのは、陵刀がまだ鉄生におぶさったまま、耳 に息を吹きかけたから。 息とともに恐ろしいまでの殺気が一緒に入り込んできたような気がしたのは、 気のせいだろうか・・・? ようやく鉄生を解放した陵刀は、 「で、さっきの質問の続きだけど・・・。」 何事もなかったかのようにさらりと言う。 「へ?さっき??」 もうすっかり忘れてしまっている鉄生に苦笑を1つ返して、 「特別なんでしょ?今日。」 少し複雑そうな表情で再度問う。 「ああっ、そのことか。」 ようやく思い出した鉄生であった・・・。 「えぇっ!?今日は犬ちゃんのお誕生日なんですか?」 瀬能の驚きに満ちた声が二科にこだまする。 「うーん、まあ正確に言うと、犬が俺と一緒に生きることを決意してくれた日 ・・・みたいなかんじなんだけど・・・////。」 照れ照れと頬をだらしなく緩ませながら言う鉄生を見て、陵刀はちょっと・・・ というかかなり面白くなかった。 犬にまで嫉妬する男――それが陵刀司である。 「ふーん。ようするに犬君を飼い始めた日ってことなんだね?今日が。」 刺々しい口調の陵刀に、鉄生はやんわりと否定の言葉を口にする。 「いや、飼うとかそういう単純な話じゃねーんだ。今日は犬が大手術に耐えて 俺の腕に帰って来てくれた――そう、いうなれば奇跡の日なんだよ・・・。」 遠くを見つめる鉄生。 その目には、きっとその日そのときの光景がありありと浮かんでいることだ ろう。 「そう・・・だったのかい。」 さすがに陵刀も感じ入るところがあったようで、これ以上言葉を発すること はなかった。 瀬能は先程から目にうっすら涙を浮かべながら、鉄生の話に聞き入ってい る。 少しの静寂――― それを破ったのは、『犬』だった。 「ワゥッ!」 その声は、どこか慈愛に満ちていて――― 鉄生にだけわかる『何か』を伝えているかのようだった。 「犬、あのとき生きてくれてありがとうなvv」 鉄生が言うと、 「ワゥワゥッ!」 犬は元気よく一声鳴いた。 「師匠にも会いたいよなー、犬vv」 「キュウンvv」 「えっ!?し、師匠って誰?」 慌てた陵刀の声に、返事はなく。 「あっ、そうだ。今日は最高級のドッグフードだぞ!」 「ワゥッ!」 2人(?)は自分たちだけの世界に浸りながら、ゆっくりと部屋を出て行くの であった・・・。 そうして部屋には――― 「ちょっと、鉄生クン!?」 うろたえる陵刀と、 「先生と犬ちゃんにはそんな過去が・・・・・。」 いまだ感動で遠くにいっちゃってる瀬能の2人が残されたのであった・・・。 〈終幕〉 [後書き] ま、また微妙なモノを書いてしまいマシタ・・・(遠い目)。 とりあえずこれだけは言っておかなければなりません。「陵刀先生ファンの 皆様、本当に申し訳ございませんっっ!!」(土下座) 陵刀先生の扱いヒドすぎる・・・(滝汗)。今回はほんっと脇役さんってかん じで、マジすみませんでしたー!! 今回のテーマは、ずばり『犬ちゃんと鉄生の絆』(寒)でした・・・。やはり 鉄生君スキーであるとともに、犬ちゃんスキーでもある私としましては、一 度は犬ちゃん主役で書きたい!と思っておりましたので、念願が叶ってか なり幸せです(でも力量が足らず書きたいことの10分の1も書けてない気 が/汗)。ほんとただの自己満足SSで失礼しました。おまけに・・・どーして も一度は師匠の名前を出さずにいられないらしい(苦笑)。おっかしーなー? 私ってば実は師匠スキーでもあるのだろうか・・・?(自問) そんなこんなでさよーならー(爆)。ああっ、犬ちゃんをもっと可愛く書きたか った・・・(ボソ)。 |