ざわりと人のざわめきが上がる。
 一人は絶世とは言わぬが、整った容姿と艶やかな黒髪が印象的な青年。
 一人は美しいという代名詞は使えぬが、花の香りを纏う優しい面持ちの青年。つまりは河野と
秋良である。
 姫制度と今後の簡易的な説明を終えた秋良が、学舎を案内しているだけである。

「ここからだと全部見えるね」
「なにが?」
「まず、右手にある緑の屋根は医舎。医師を目指している人たちが主に使っているんだ。それ
から左手側の青い屋根、正門の正面だね。あれは修舎、半分は模擬戦に使う武器庫になって
る修練所だよ。手前に見えている二階建ての師舎。あれは一階が教鞭をとってくださる先生方
の控え室。二回は書庫。それから、師舎の奥に見えている黒の屋根がオレ達が通う官舎だよ」

 総ての舎が屋根付きの通路で繋がってる。
 なんとも贅沢なものだ。通路に屋根が付いているのは王宮や貴族、富豪の家と相場が決まっ
ている。
 河野も始に通路を見た瞬間、思わず呆けてしまったほどである。

 そしてもう一つ、不思議なことに。すれ違う同年、もしくは年上にしか見えない人々が秋良を見
ると会釈していくのだ。
 苦笑しつつ挨拶を返す姿をみると、これが常日頃おこなわれていることが見て取れる。
 秋良自身はあまり気にしないでとは言っていたが、気にしないほうが無理という物である。
 聞くべきか迷っていると、 程なくして官舎に着いた。
 秋良はあたりを軽く見渡すと、一人の少年に声を掛ける。

「四方谷」
「あれ、坂本様?」






 坂本『様』?




 多大なる疑惑を残しつつ、秋良と四方谷の話は続く。
「河野、こっちは四方谷。河野と同じく『姫』制度の適用者だよ」
「おぉ!お前もか、宜しくな」
「あっああ。よろしく」
 四方谷と呼ばれた人物は、一般的にまとめて布で包む髪を軽く上半分のみ紐で括り残りはそ
のまま肩に下ろしている状態である。だが、それが可笑しく見えないほどの美貌。
 否、この場合愛らしさとでも言えばいいのか。艶のある茶色の髪が揺れるたびに輝く。
 『姫』という役職を意識しているのか、着物の袖口が若干長いきがするが、それ以外は同年の
少年である。

「河野は鳴砂から来ているから、四方谷と同じ寄宿舎に入る事になってるんだ。寄宿舎での事
は四方谷に任せてもいいかな?」
「勿論。坂本様の頼みですしね。良いですよ。河野も良いよね?」
「あっ。うん。宜しく頼むよ。何しろ何も解らなくてさ」



「って坂本『様』!!」
「あはははは」
「?」



 姫以外にも何か制度があるのか心配になった河野であった。




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