大人としての責任に関して懇々と諭したのがよほど怖かったのか、件の二人は涙目になっていた。
 いや、涙は精神的要因だけでなく肉体的要因もあるだろう。道の真ん中では邪魔になるとわき道の
端により、わざわざ小石の多い所を指差し素晴らしい笑顔で「正座」を支持された二人は、うなだれ
つつも時折「はい」「申し訳ありません」「反省します」と何度も繰り返していた。

「分かっていたはずなのにやるのよねぇ、あいつ」
「…大事の前だというのに、秋良に負担をかけるとは…」
「……きっちり、締め上げるから」

 わき道を塞ぐ形で当の二名に対し辛らつな言を放つのは、薄茶色の長い髪を一括りにした美丈夫
と、黒髪の凛とした女性だ。

 ふと、女性の方が河野達に気づき、融和そうな笑顔で近づき声をかけた。
「あら、お二方は秋良さまのご学友でいらっしゃる?」
「はぁ、まぁ」
「まあ!それは失礼を。わたくし、九城祥子と申します。まことに不本意ながら、あそこで正座してい
るほうの女の部下です。ええ、とてつもなく不本意ですが」
 前半は見事な笑顔で、後半は口元だけの笑顔で言い切った、九城はついと視線で美丈夫に紹介
を促す。男はその視線に一つため息をおとし、愛想のない顔で河野達に向き合った。

「御鷹統威…本来の仕事は他にあるが、いまは『それ』の『運搬』が仕事といえば仕事だ」



 …それとはどちらのことだろう…ではなくて。

「「おんなぁ!?」」
「ええ、あちらの茶色い髪の方。あれでも女です」
「いまでも、なぜ性別を逆に生まれなかったのかと疑問視されているが。あれでも女だな」

 世の中、不思議な事はそこかしこに潜んでいたらしい。




 おおよその話が終わったのか、正座していた二人を伴って秋良が戻ると簡易な自己紹介が始まっ
た。
「坂本春海、秋良の兄で長男。…友達募集中だ」
「坂本夏流だよ、よろしくね」
 春海と名乗った男性は、かねて話しに聞いたように傾国と歌われても遜色ない美貌の主であり、夏
流と名乗った女性も、凛としたたたずまいもあり一見して女とは言えぬものの、美姫と誇称しても納
得できる美貌である。
 秋良と対面させることにより、若干のへたれが垣間見れるが概ね「美しい」と万人がたたえるであ
ろう容姿の二人は、秋良の血を分けた兄弟だという。

「河野亨です」
「四方谷裕史郎です」
「いやー。見苦しいところを見せてしまって申し訳ない。何分、麗明から秋良会いたさにすっとんでき
たから」

 軽やかに笑いながら実に素直な、言い訳にもならない言い分を春海はもらす。

 横では秋良の友人と聞き、目の色を変えた夏流が河野と四方谷につめよっている。
「河野くんに、四方谷くんね。ちなみに、出身は?」
「オレは鳴砂です。四方谷はたしか翠紗だったよな?」
「ああ!あの面白双子王の所か。しかし、翠紗からなら山越えが大変だっただろう?」
「はぁ、ええ。でも、山道が思っていたより道になっていたので、大変と言うほど大変ではなかったで
すよ」
「あの山道、開通したんだ!」
「ええ、オレがこちらに来る直前に繋がったと聞いてます」
 ふと河野の脳裏につい先日行われた授業の内容が甦る。

「面白双子王って。たしかに双子で王になられたのは初めての事だと、ならいましたけど…」
「いや、だってあの山道。宰相が決定だしたらしいじゃない?王が立たれた時も、ほら、有名な台詞
があるし」

 以下当時の双子と周りの状況は、
「「任せろ、僕たちには学も信頼もないが宰相(よていの人物)にはある!!」」
「なら大丈夫ですね」

 …大臣たちはそれで双子が同時に王になる事に心底、胸をなでおろしたらしい。
 当時の国民もそれでよかったらしく、現在執務は主に宰相と宰相補佐が行い。双子王は主に調印
作業にいそしんでいるらしい。万事それで国が回っているのが翠紗の妙な所である。

 概ね会話が終了した頃、秋良は一度息を大きく吐き出し。
「さっ。挨拶したんだから、かえって仕事しようね」
 と、素晴らしい笑顔と共に送り出した。


 容赦のかけらもない。




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