君の笑顔が輝く瞬間(とき)






「涼介。今年の慰安旅行は、どこにする?」
 史浩の問いかけに、涼介は、
「そうだな・・・」
と言いながら、隣に座る弟―啓介―に目を向けた。
「啓介。おまえはどこに行きたい?」
 途端に啓介の顔がぱぁっと輝く。
「どこでもいいのか?」
「ああ。おまえの好きなところで構わない。」
『えっとー』と一生懸命に考える啓介を、涼介は優しい眼差しで見つ
めている。
 史浩は内心、『頼むからこんなとこで発情しないでくれよぉ?』と祈
るような気持ちでいた。
 ちなみに『こんなとこ』というのは、赤城山近くの喫茶店である。
 3人は、啓介が窓際、その隣りに涼介、そしてその涼介の向かい
に史浩が、それぞれ座っている。
 今は毎年恒例のレッドサンズメンバー(ただし一軍のみ)で行く、慰
安旅行についての相談(?)をしているところなのである。
 涼介と史浩が見つめる中、ようやく啓介が口を開いた。
「俺、京都がいいなっ!」
「京都か・・・。」
「うんっ。俺京都って、1回行ってみたいと思ってたんだ。」
「そうか。よしっ!今年は京都に決定だ。」
・・・早っ。
 あっさり断言する涼介に脱力しつつも、史浩は冷静に『まった』をか
ける。
「だがな、涼介。京都までというのは、いくらなんでも旅費がかかりす
ぎるんじゃないか?」
 涼介はフンッと鼻で笑って、
「来れない奴は来なくていい。誰も行かないなら、かえって好都合だ。」
 言い切った。
 その場の空気が氷点下にまで下がった・・・ような気がしたのは、史
浩だけだったかもしれない。
 啓介はと言えば・・・「何が好都合なんだ?アニキv」とのほほーんと
聞いていたりする。
「何がって・・・決まってるじゃないか!誰も来ないなら、俺と啓介で婚
前旅行ができるだろう?」
「こ、こ、こんぜん・・・!?」
 史浩が固まり、
「な、な、何言ってんだよ!?アニキ・・・」
 啓介が真っ赤になって俯く。
 そんな2人を尻目に、涼介は早速、慰安旅行改め婚前旅行における
啓介とのラブラブ計画を立て始めるのだった・・・。





 涼介と啓介の婚前旅行は、残念ながら実現しなかった。
 慰安旅行の場所が京都だと聞いても、さすがはレッドサンズの一軍
メンバー。やむを得ない事情の者2名を除く、全員が参加の意志を示
した。
 そう。彼らは超のつく高橋兄弟フリークなのである。涼介に名前を覚
えてもらいたい。啓介に声をかけられたい。その一心で彼らは腕を磨
き、みごと一軍に登りつめたのだ。
 そんな彼らが、高橋兄弟と共に過ごせる年1回のビッグイベント―慰
安旅行―に参加せぬはずはない。バイトを増やしてでも、借金をしてで
も、彼らはとにかく行くのである。
 そして、今日。
 レッドサンズ一軍メンバーは、涼介の指揮・史浩の先導のもと、無事
京都に到着した。
 京都駅の人通りを避けた場所に全員が集まり、早速史浩から今後の
予定が説明される。
「えーではこれから、いったんホテルにチェックインした後、自由行動と
します。○時にはホテルで夕食がありますので、それまでには戻ってく
るようにして下さい。なお、自由行動はグループ分けを行い、そのメン
バーで行動してもらいます。また、ホテルの部屋もそのメンバーで1部
屋ということになりますので、そのへんもご承知おき下さい。」
「はあ?グループー?」
「なんだそれ?」
「こんな年になって冗談じゃねぇよ。」
 口々に洩れる不満の声に、涼介は凍るような冷たい視線を浴びせか
けた。
 その視線に凍りつく者、約半数。残りの半数は、幸運にもどうやらそ
の視線に気付かなかったようだ。
「えーでもさー、なんか遠足みたいで懐かしいっつーか・・・俺は結構楽
しそうだし、いいと思うけどなー♪」
 そこにこの峠のアイドル(笑)啓介のお言葉である。
 涼介の視線に気付いた者・気付かなかった者に関わらず、皆がコロッ
と態度を改めた。
「そ、そうですよねー。俺もいいと思います。」
「お、俺もー。」
「啓介さんのおっしゃるとおりです。」
 口々に洩れる賛成の言葉に、「そうだよなーvv」と啓介はご機嫌さん
である。
 しかしその隣りでは涼介が、『啓介。さすが俺の天使。』と発情寸前
な思考に陥っていたりした。
 史浩の苦難は続く・・・。





 グループ分けは、3人1組ということで行われた。
 くじ引きのくじは、もちろん涼介の完璧な策略(ようするにズル)で、
涼介と啓介それに史浩の3人が1つのグループと決まった。
 一軍メンバーは、全員残念そうにうなだれていたためか、涼介の薄
い含み笑いに気づく者は誰もいなかった。
 史浩はホテル待機(一応何か不足の事態が生じた場合に備えて)と
いうことで、実質は涼介と啓介の2人きりがめでたく実現したのであっ
た。
「アニキ。次はどこ行く?」
「啓介の行きたいところでいいぞ。」
 すでに、清水寺→八坂神社→円山公園と有名どころを巡ってきた2
人は、鴨川沿いで一息つこうと立ち止まり、そよぐ風に少し火照った頬
を涼ませていた。
「俺、京都タワー行きたいな。」
「そうだな。じゃあそろそろ戻るか。タワーに寄ってホテルに戻ったら、
ちょうどいい時間になるだろう。」
 涼介の言葉に何も返さず、啓介はなにやらキョロキョロと落ち着きな
く辺りを見回している。
「どうした?啓介。」
「い、いやなんか・・・ここ、やたらとカップル多くねぇ?」
「ああ、そうだな。この鴨川はそれで有名なところだからな。」
「ええっ!?」
 啓介が驚きに目を見開く。
「何だ知らなかったのか?俺はてっきり知っててここに下りようと言っ
たのかと思っていたんだが・・・。」
 残念そうにうつむく涼介に、「えっ?え?・・」と啓介は赤くなってうろ
たえる。
 涼介はクスリと笑い、
「まあいいじゃないか。俺達がカップルであることに間違いはないんだ
から・・・。」
 そうだろ?と目で問いかけるようにウインクを1つ。
 啓介はさらにかああっと赤くなりながらも、「うん。」と小さく頷いた。
 その瞬間―――
 涼介がぐいと啓介の腕を引き、強く強く抱きしめた。
「わぁっ。」
 驚く啓介の唇に、問答無用で涼介の唇が重なる。
「んっ・・・」
 ゆっくりと唇を離した涼介を、
「ひ、ひ、人前で何てことすんだよー!?」
 啓介が潤んだ瞳で睨みつける。
 しかし涼介は、啓介の耳元でこう囁いた。
「大丈夫だ。皆自分たちの愛の営みに忙しくて、誰も俺達のことを見
ちゃいないよ。」
 もう1度唇を重ねてくる涼介に、もう何も言えず、目をつぶって受け
入れる啓介だった・・・。





 タワー経由で2人がホテルに戻ったのは、ちょうど夕食の始まる10
分前だった。
 豪華な食事に舌鼓を打ち、その後は、場所を変えてしばしの団欒を
楽しむ。
 最後に史浩から明日の集合時間と場所が示され、ようやく第1日目
はお開きとなった。
 皆が部屋に戻るのを見届けてから、涼介と啓介もようやく決められ
た自分たちの部屋へと戻った。
 ちなみに史浩も涼介たちと同じ部屋のハズなのだが、実は他の皆
(涼介と啓介を除く)には内緒で、別の階にシングルの部屋を取って
いたりする。
 これはもちろん涼介様(笑)の指示である。
 こうして完璧な計画を完璧に遂行し、涼介は啓介との「旅先での甘
い夜(by.京都)」を過ごそうと目論んでいるのであった。
「うわぁー。すっげー。アニキ、この部屋めちゃ広くねぇ?」
「ああ、もちろんだ。俺と啓介が過ごす部屋だからな。それに・・・広い
のは部屋だけじゃないぞ?」
 涼介の目線をたどると・・・そこにあるのは大きなダブルベッドvv
「ア、アニキ・・・」
 かああっと啓介は真っ赤になって、視線を彷徨わせる。
「啓介。先にシャワー使うか?」
「えっ?あ、うん。サンキュー。」
 啓介が浴室に入って・・・1分後。
 ガチャリと浴室のドアが開けられた(ちなみに啓介は浴室の鍵をい
つもかけずに入っている)。
「わぁっ。」
 驚く啓介に、涼介はニヤリと笑って、
「やっぱり一緒に入るか?」
「やだって言ったら、出て行くのかよ?」
 ちょっと口を尖らせて、上目使いに涼介を見る。
「イヤなのか?」
 そう問いかけながら、涼介は素早く啓介に口付けた。軽く触れるだ
けのキス。
 啓介は諦めたようにため息を吐いて―――
 唐突に涼介をぐいっと浴室に引き込み、間髪入れず、涼介の頭の上
からシャワーをザーッと浴びせかけた。
「わっ。」
 と涼介が珍しく驚いた声を上げる。
 涼介はまだ服を着ていた。
 そのままビショビショになり、シャツがべったりと体に張り付いて、妙
な色気を漂わせている。
 啓介は『してやったり!』と嬉しそうに涼介の顔を覗き込んだ。
 しかし涼介はすでに立ち直り、これからどんなお仕置きをしてやろう
か?と頭をめぐらせていた。
 その後―――
 浴室で2ラウンド。ベッドで3ラウンド(その後、啓介気絶)。
 甘い夜どころか激しい夜を過ごすことになった2人であった・・・。





 翌日。
 腰がヘロヘロで動けない啓介は、泣く泣く1日をホテルで過ごすこ
ととなった。
 その日啓介は、「もう絶対アニキにいたずらするのはやめよう。」と
固く心に誓ったという・・・。






                                      【END】








[後書き]
尻切れとんぼな終り方で、本当に申し訳ございません。まだ旅行第1
日目が終わっただけじゃないかよ!?というツッコミが、聞こえてくる
・・・ような気がします(自爆)。というより、このレッドサンズの慰安旅
行って、一体何泊何日なんでしょうか?(←オイ)
もっと重要な問題がございました。何で群馬から京都なんだよ!?
はい。それは私が京都に住んでるからです(←死ね)。本当はディズ
ニーランドにしようか?とか思っていたのですが、男の団体がシンデ
レラ城にいる様子を想像して・・・却下しました。こ、怖い(笑)。まあ兄
弟2人だけなら、それもありかなー?とか思っちゃったりもしたのです
が(←ねぇよ)。他に近場で考えようとしたら・・・私が関東のこと全然
わからないので、書けませんでした(爆)。なので自分の住んでるとこ
ろにしちゃったのです。本当に本当にすみません。


↑ うおっ・・・あまりの古さに気絶寸前(パタリ)。全体に内容が寒いで
すよ?紅月さん(遠)。特に鴨川のあたりがもうっ(涙)。
レッドサンズメンバーも奇特ですね。わざわざ京都まで(苦笑)。
でもひそかにディズニーランドでデートするバカップル兄弟も見てみた
い気がします(笑)。誰か書いて下さい←コラ
涼ちゃんの黒さには、もはやコメント不可・・・。
ここはやっぱり―――逃亡。




BACK