恋の軌跡と愛の奇蹟






 『初恋』は、2歳のときだった。
 生まれたばかりの弟に、一目惚れした。それと同時に、『この子は俺が一生
守る』と誓った。その愛らしい奇蹟のような存在を誰にも汚させない、誰にも触
れさせないのだ、と。
 幸いなことに、弟―啓介―もまた俺に懐いてくれた。「にーたん、にーたん。」
と俺のあとをちょこちょことついてくる啓介は本当に可愛らしく、俺の初恋が終
わることも、俺の誓いが崩れ去ることもなく、日々は穏やかに過ぎていった。





 俺が中学に上がる年、啓介は俺にすがりついて泣いた。
「にーちゃんと同じところに行く。僕を置いて行かないで。」と言って。
 俺はそんな啓介が愛しくてたまらなかった。できることなら俺も啓介のそばに
ずっといてやりたい。しかし年の差だけは、どうあがいても埋められるものでは
ないのだ。
 俺はもどかしい気持ちを抑えて、「家に帰ったら会えるだろう?」と啓介に言い
聞かせた。しかしそれは同時に、自分自身にも言い聞かせていたのかもしれな
い。
 啓介は涙のいっぱいたまった瞳で俺を見上げて、それでも元気に「うん。」と
笑ってみせた。そのいじらしさといったらそれはもう可愛くて可愛くて、俺は思わ
ず啓介をぎゅっと抱きしめ、その涙のアトがうっすらと残るほっぺに、チュッvvと
キスしてしまっていた。
 啓介は一瞬きょとんとなって、でもすぐにお返しとばかりに俺の頬にちょこんと
自分の唇を押し当てた。
 思えばこのときから、俺の中で何かが変わろうとしていたのかもしれない・・・。





 俺が高校に上がった年、啓介は俺を『アニキ』と呼ぶようになった。
 どうやら同級生あたりに何か吹き込まれたらしい。
 だが、「アニキって呼んだらダメか?」と小犬のような瞳でお伺いをたててくる
啓介に、どうして俺が『ダメだ』と言えよう。それに驚きはしたものの、別に呼び
方なんてどうだってかまわないというのが本音だった。啓介にとって俺は唯一の
兄であり、『にーちゃん』だろーが『アニキ』であろうが、啓介にそう呼ばれるのは
俺だけなのだから。


 そして―――
 それから約2年がたち、俺は高3、啓介も同じ高校の1年になった。俺はその
頃生徒会長をやっていて、何かと忙しい日々を送っていた。
 そして・・・夏のある日、事件は起こった。
 3年生の1人(男)が裏庭に啓介を呼び出し、無理矢理自分のものにしようと
したのである。幸い生徒会役員の1人が通りかかり、未遂に終わったが、俺は
怒りと嫉妬で気が狂いそうだった。
 その頃俺は、すでに啓介に対してそのような欲望を抱いていた。だからこそ、
それはまるで自分自身を見ているようでもあったのだ。
 とにもかくにも、俺の大切な啓介にそのような行為に及んだことは許しがたく、
俺はそいつを即刻病院送りにした。もちろん事故に見せかけて。
 啓介ははじめショックを受けていたようではあったが、持ち前の元気と切り替
えの早さで、すぐに元の啓介に戻っていった。
 しかし俺の方は、このときはっきりと自分の啓介に対する想いに恐怖を感じて
いた。このままではいつか俺は啓介にひどいことをしてしまう。そんな予感があ
った。
 大切な大切な啓介。おまえを守るには、俺はどうしたらいい?





 大学生になった俺は、意図的に啓介と2人きりで顔を合わせることを避けるよ
うにしていた。
 なぜなら俺の啓介に対する想いは、もはや理性を失って何もかも欲望をさらけ
出してしまいそうなほどに、危ういところまで踏み込んでしまっていたからである。
 このままでは俺は啓介を・・・そんな想いが日々俺の心を締めつけていた。そし
て俺はこの苦しみから逃れようと、車に、走りにと、のめり込むようになっていっ
た。
 啓介はそんな俺を寂しそうに見ていたが、俺にはどうすることもできなかった。
ただ、「啓介も18になったら免許を取れ。そして一緒に走ろう。」と言うのが精一
杯だった。
 また医大に籍を置く俺は、なにかと忙しい日々を過ごし、それなりに気を紛らわ
すことができた。


 しかし、2年後。
 大学生になった啓介は、早速RX−7という愛車を手に入れ、俺に走りを教え
てくれと言ってきた。自分で約束したこととはいえ、また啓介と2人きりになる機
会が増えることを恐れた俺は、『赤城レッドサンズ』のメンバーに啓介を託し、自
分は公道最速理論に取り組み、家でパソコンをたたくことを主とした。
 それでもときおり啓介に、「アニキ。つきあってくれ。」と言われたときには、一
緒に赤城山に行き、2人で朝まで走ったりもした。
 啓介は大学生になっても、相変わらず俺を『アニキ、アニキ』と慕ってくれた。し
かしそれは、俺が『兄』だからだ。
 もし俺が自分の気持ちを打ち明けたなら、啓介は一体どう変わってしまうだろ
う?
 俺は「アニキ」と俺を慕い、甘え、可愛い笑顔を向けてくる弟を失うことが怖い
のだ。この俺の気持ちが、今の啓介を変えてしまうことが怖いのだ。
 だから今はまだこのままでいよう。そう俺は心に誓った・・・。





 そして―――
 俺の初恋はゆっくりとその姿を進化させ、「愛」と名前を変えて今も俺の中に
生き続けている。20年以上も1つの恋を胸に生きてきた自分に、少し笑ってし
まいそうだ。
 だが俺は間違っていない。誰でもない、俺自身がそう決めたから。



 2歳のとき、奇蹟のような存在に恋をした。
 ゆっくりと流れゆく時間の中で、その恋は愛へと形を変え―――
 そして今、愛の奇蹟が始まろうとしている・・・。






                                           【END】








[後書き]
えと・・これはもうずいぶん前に書いたイニDの初SSです。あまりに昔に書いた
ものなので、打ち直そうと見返して・・あまりのヘボさに笑ってしまいました(爆)。
いやーもう・・ねぇ?(←誰に同意を求めてるんだ)
私は啓ちゃんファンですが、涼ちゃんももちろん大好きですv涼ちゃんの壊れっ
ぷりも、愛だと思ってお許し下さいね(^^)
このSSには続きがあります。しかしこれもまた過去に書いたものなので、見返
すのがツライです(苦笑)。見る勇気が出たら、またアップされることと思います
(←んないい加減な・・)。そのときはまたよろしくお願いします。


↑ というのが、当時の後書きでした。いや〜これを打ち直したときでさえ死に
かけでしたのに、今さら・・・ねぇ?(←だから誰に・・以下略)。
涼ちゃん純愛だね!ということで、これ以上のコメントは避けたいと思います。
しっかし涼ちゃん黒っ(ボソ)。




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