優しい朝 (お題:通学路






 11月の半ばともなると、風はひんやりと冷たく、そろそろコート
が恋しくなってくる。
 朝日奈大は、昨日までの陽気を思い返しながら、薄手のジャケ
ットで家を出たことを激しく後悔していた。
(でももう着替えに戻ってる時間なんてないし・・・。)
 ハ〜アとため息を吐いたところを、
「はよーっス。」
 不意にポンと後ろから肩を叩かれた。
「あっ、壱茶さん。おはようございます。」
 振り返ると、そこには朝っぱらからテンションの高い導明寺壱茶
と、その双子の兄である照宇が立っていた。
「照宇さんもおはようございます。」
「ああ、おはよう。」
 こちらはいつも通りの低トーンである。
 しばらく並んで歩いていると、不意に大がクシュンとくしゃみを
した。
 それが恥ずかしかったのか、大は慌てて言い訳するように、
「今日は冷えますね〜。」
 などと言う。
「そうか〜?俺はそうでもないけどな。」
 と答える壱茶は、なるほど普段通りの薄着(1枚)である。
 照宇はといえば、
「確かに昨日までと比べると、今日はずいぶん風が冷たくなった
な。」
 と至極真剣な表情で頷いていた。
 その言葉に、大が嬉しそうに笑って―――またクシュンと小さく
くしゃみをする。
 壱茶が「おいおい、大丈夫か〜?風邪でも引いたんじゃねーの
?」と問えば、「いえ、大丈夫ですよ。」と言いながらグスングスン
と鼻をすする大。
 すると、それを見ていた照宇が意外な行動に出た。
「え?」
 ふんわりと大の首にかけられたのは―――つい先程まで照宇
がしていたダークグリーンの上品なマフラーだった。
「これで少しはマシになるだろう。」
 と静かに微笑む照宇に、何故か絶句する壱茶。
 大はといえば、あまりの驚きにその場に固まって口をパクパク
させている。
 それをどう勘違いしたのか、照宇は少し寂しそうに、
「気に・・入らなかったか?」
 と問う。
 大はハッと何かの呪縛から解放されたかのように、ブンブンと
慌てて首を振りながら、
「そ、そんなことないです!嬉しいです。」
 と照宇のマフラーに頬をすり寄せて、幸せそうに微笑んだ。
「そうか・・・。」
 照宇もほっとしたように口元を緩ませ、和やか〜な空気があた
りに溢れ―――いや、1人納得のいかない男がいた。
「ちょっと待て!」
「ん?」
「はい?」
 なんだいたのか・・・というように横目で壱茶を見る照宇と、きょ
とんと不思議そうに壱茶を見上げる大。
 壱茶は不機嫌そうに力いっぱい叫んだ。
「照宇だけズルイぞ!」
 聞こえないフリであさっての方向を見遣る照宇に、スキあり!と
ばかりに、壱茶は意味がわからずポヤ〜ンとしている大を後ろか
ら抱き込んだ。
 そして―――
「どうだ?これならマフラーなんかより温かいだろ?」
 などと言う。
 真っ赤になってうろたえる大を救出したのは、もちろん照宇で。
 ベリッと壱茶を大から引き剥がし、「バカ」とボソリと呟くと、大の
肩を抱いてさっさと歩き出すのだった・・・。
「あっ、おい!待て、待ってくれ〜。」
 慌てて後を追いかける壱茶は、明日から自分もマフラーをして
来よう!と心に固く誓ったという――――。






                                   【END】










[後書き]
むむー、目指すは「ほのぼの」路線でした。こういうのをほのぼの
って言うんですよね?た、多分あってますよね?(ビクビク)最初
は壱茶×大にしようと思っていたのですが、気付けば照宇さんが
出張ってました(笑)。これはもう照宇vs壱茶×大というより、照
宇×大←壱茶・・・かもしれませんね(苦笑)。照宇さんは口数は
少ないけど、人一倍思いやりがあって、さらりと行動を起こせる人
だと思うので、こんな話が出来ました。無言実行タイプ?(←そん
な日本語ありません) ところで、今年は11月半ば頃には、まだ
まだコートとか全然必要ありませんでしたよね(笑)。1ヶ月経って
今はようやくいるようになったかな?ってかんじでしょうか。 でも
11月半ば頃に風邪を引いていた奴がここに約1名(←アホ)。
最後になりましたが、お題を下さったみみ様、本当にありがとうご
ざいました>< よろしければこのSSを貰ってやって下さりませv
(もちろん返品も受け付けておりますので〜)




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