「あの…波戸さん。俺に関西弁を教えてもらえませんか?」

 それは―――
 唐突な悟のこの言葉から始まった……。






   愛と笑いのレッスン






「…へ?関西弁?」
 一仕事終えて、悟の部屋でくつろいでいた波戸は、手に持った缶ビールを口元
で傾けた状態のまま、不思議そうに問い返した。
「はい!」
 一方悟は真剣な表情で、箸を右手に持ったまま、力強く頷く。
 微妙に箸の向きは、マグロの刺身を指していたりする。
「教えるのは別にええけど、何でまた急に?」
「それはその…波戸さんが話している言葉をもっとよく知りたいなぁとか思いまし
て。ダメ…ですか?」
 おそるおそる上目使いで見つめてくる悟に、波戸の心拍数が一気に上昇する。
(悟…ASEドライバーがそんな可愛くてどうすんねやー!?←論点ズレまくり)
(いや、それよりそない可愛らしくお願いされて、『ダメ』と言えるヤロウがいたら
お目にかかってみたいわ、ほんま…。)
 波戸が脳内でぐるぐるしている間、悟は波戸をじっと見つめながら、静かに答え
を待ち続けていた。
 心持ち見つめる瞳が潤んできているような気がするのは、気のせいだろうか。
 ようやく答えが決まったらしく、波戸はずっと手に持っていて幾分温くなったビー
ルを一気に呷り、空になった缶をテーブルに置いた。
 カツンと小気味良い音が部屋に響き渡る。

 数秒後―――
「ええで。」
 波戸がにっと笑って言うと、悟もにっこりと笑って、
「ありがとうございます!嬉しいです。」
 と言いながら、潤んだ瞳を輝かせるのだった。





「じゃあまずは基本的なことからいくで。」
「はい。」
何でやねん!?
「…はい?」
「いや、だから関西弁言うたら、やっぱりまずはボケとツッコミやろ。で、今のがツ
ッコミの基本中の基本や。」
「ほら、悟も言うてみ?『何でやねん!?』」
「なんでや…ねん?」
「ちゃうちゃう。もうちょっと勢いつけて言うてみぃ?」
「は、はい。なんでやねん!」
「そうそう。ええかんじやで。」
「本当ですか?」
「ああ、初めてにしては上出来や。」
「///////」
 頬を染めて照れたように俯く悟を前に、波戸は本日2度目となる激しい動悸に
見舞われた。
「悟…。」
 波戸は思わず悟を抱きしめようとして手を伸ばし―――
「波戸さん、次も俺頑張ります!」
 ふいに顔を上げて宣言した悟に、お約束的な展開で阻まれる波戸だった……。





「ほな次は手をつけていこか。」
「手…ですか?」
「ああ。『何でやねん』ってツッコむときに、こう手を返してな、相手の肩らへんに
軽〜くぶつけるかんじで…。」
 と言いながら、実践してみせる波戸。
「へー、難しそうですねぇ。」
「いや、慣れたらそうでもないよ?まあとにかく練習あるのみや。」
「はい、頑張ります!」

 そうして2人の特訓は、夜を徹して続けられたのであった――――。







 数日後。
 ASEビルの某1室にて。
 波戸の傍に、恥ずかしそうに頬を染めながら立つ悟の姿があった。
 その目の前にいるのは……
「ハー。お前達、そんなに暇を持て余しているなら修行でもするか?スペシャルメ
ニューを5割増でやらせてやる。」
 呆れたようにさらりと恐いことを言うASE幹部の百舌鳥創。
「いややわ、百舌鳥さん。悟がこない頑張って習得した技を『暇』で片付けんでも
ええやないですか。」
 ちなみに波戸が言う悟が習得した『技』とは、ツッコミのことである。
 つい今しがた、波戸と悟は百舌鳥の前で漫才を披露したのだ。
 もちろん波戸がボケ担当で、悟がツッコミ担当である。
 冷静に考えてみると、逆の方がしっくりくるような気がするのだが、そこは考え
てはいけない。
 とにかく波戸は、悟が一生懸命覚えたツッコミを披露する最初の相手に、百舌
鳥を選んだのであった。
 この時点で人選を間違っているような気もするが…以下同文。
「だから…だから嫌だって言ったのに…嫌だって……」
 涙目でボソボソと呟く悟の顔は、恥ずかしさがピークに達しており、もはや熟れ
たリンゴのように真っ赤だった。
「悟…?」
 おそるおそる問いかける波戸。

 数秒後―――
「波戸さんなんて…波戸さんなんて、大っ嫌いだーーーっ!!!!!!
 悟の叫び声がASEビルに木霊した――――。

 チーン……(注.波戸の心境を音で表現)



 その後、悟が部屋を飛び出し、百舌鳥が同情するかのように肩をポンと叩いて
出て行ったのにも気付かず、夜中にビルの清掃員が見つけるまで、波戸はショッ
クのあまりその場でフリーズし続けていたという―――――。






                                            【END】










[後書き]
というわけで、『しなのに10のお題』これにて終了でございますっ!!!!!(←テン
ション強引に上げてます/笑)最後のお題であるこの「無理矢理」は、自分で考え
たお題なのですが、最初に考えたときには「無理矢理」攻が受に嫌いな食べ物
を食べさせる…というような可愛いイメージ(?)でした(笑)。なので、いざ書こう
としたときに、甘エロ展開を目指してはみましたが、最初のイメージから抜け出せ
ず、結局こんなギャグ話が出来上がりました(チーン)。ももも申し訳ないですっ!!!!
「無理矢理」というお題に甘イチャエロ(笑)なものを期待して下さっていた方がい
らっしゃいましたら、本当に申し訳ないです(土下座)。そして「このお題を何のジ
ャンルで書いて欲しいですか?」という投票にご協力下さった皆様、本当にあり
がとうございました!!特に「D−LIVE!!」に投票して下さった方には、ご期待に
添えているか非常に不安です(汗)。力不足で申し訳ないです(むしろ関西人の
血が!←責任転嫁)。あっ、ちなみに今回のSSのどこが「無理矢理」というお題
に繋がっているかと申しますと、悟が波戸に無理矢理百舌鳥さんの前で漫才
をやらされた
ということです(苦笑)。って、後書きで説明しないとわからないよう
な話で重ね重ね申し訳ないです><

【ここからは私信です】
T様、Y様、宿題がこんな形になってしまって申し訳ありません(猛反省中)。ラブ
どころか、思いっきり笑いに走ってしまいました(滝汗)。関西弁講座もただのツ
ッコミ練習になってしまいましたし…(遠い目)。まさか甘さの欠片もなく、ギャグ
話になってしまうとは!自分で自分が情けないとです(←激しく動揺中/笑)。書
きながら、違うの!そうじゃないのよ!もっとこうエロで言葉攻めとかで、無理矢
理「××って言うてみ?」って言わせたりとか〜(ジタジタ)とずっと自分にダメ出
ししてました…(←終わってます)。
すみません。やっぱりいずれ風呂ネタも書きます!エロのリベンジを…(笑)。




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