夢に咲く花 (お題:万葉之花) 会いたい、会いたいと、どんなに願っても―――会えない人。 生きてさえいれば…なんて嘘。 そんなのは単なる綺麗事でしかない。 会いに行ってもいいですか?(何もかも捨てて…) それとも会いに来てくれますか?(何もかも投げ出して…) そのどちらも叶わないのならば――― せめて夢の中だけでも、貴方に会わせて。 あの頃は良かった。 俺は受験勉強にかこつけて、毎日毎日師匠のところに入り浸っ ていた。 学校帰りにそのまま立ち寄る俺に、師匠はいつも優しい笑みと、 「いらっしゃい」ではなく、「おかえり」という言葉をくれた。 『おかえり』―――この4文字が、どれほど嬉しかったことか。 まるで師匠の家族にでもなれたかのような気がして、本当に幸 せだった。 師匠は自分も仕事で忙しいというのに、毎日俺の勉強を親身に なってみてくれた。 ……好きだった。 きっと、最初に会ったときから、好きで。 日を追うごとに、どんどん気持ちは膨らんでいった。 でも。 師匠は行ってしまった……。 俺の手の届かない、異国の空の下へ。 彼が残していったのは、「いってきます」という言葉と、苦い口付 け。 師匠が旅立つ前の晩。 俺は師匠に告白するつもりだった。 けれど――― 口を開こうとした俺を押し止めるように、師匠の唇が俺の口を塞 いで。 煙草の香りが、ほんの少しだけ俺の鼻腔をくすぐって離れてい った。 「し…しょう……?」 「いってきます、鉄生君。」 何事もなかったかのように微笑む師匠に、俺は何も言葉を返せ なかった。 『いってらっしゃい』と一言告げれば良かった。 そうすればきっと、その後には『おかえりなさい』が続くはずだか ら――――。 夢を見た。 俺は夢の中で、これは夢だとちゃんとわかっていた。 だってこんな都合のいいこと、夢の中でなければありえないこ となのだから…。 そこは、花畑で。 俺は師匠と2人、そこに佇んでいた。 黄色と白の名も知らぬ花たちが、無秩序に咲き誇っている。 ふと、隣にいる師匠の顔を見上げると、そこにはいつもの微笑 はなくて。 至極真剣な眼差しとぶつかった。 「師匠?」 「…好きですよ、鉄生君。」 「え?」 「誰よりも貴方のことが好きです。」 「な…んで……?」 なんで―――今頃? 「すみません。本当は一生言うつもりはありませんでした。オース トラリアに行ったのも、鉄生君のことを諦めるつもりで…。でも、う まくいかないものですね、人の心って。離れれば忘れられるかと 思ったら、会えなくなった分だけより恋しくて。毎日毎日鉄生君に 会いたくて、焦がれ死ぬかと思いました。」 フフッと自嘲気味に笑う師匠に、俺は夢中で抱きついていた。 「師匠っ!師匠、好き。大好き。」 「―――鉄生君。こんなどうしようもなく情けない私でも、好きと言 ってくれるんですか…?」 「好きっ。師匠じゃないと俺、ダメだから…。だから、どうしようもな い姿も情けない姿も、俺だけに見せて?」 「―――はい。そのかわり、鉄生君もそんな顔を見せるのは私だ けにして下さいね?」 「へ?そんな顔って…?」 「そんな目をうるうるさせて誘うような艶っぽい顔のことですよ。」 「なっ、なななな何言って……////」 「フフッ。愛してますよ、鉄生君。」 「…お、俺も……。」 そうして自然と重なり合う唇。 今度の口付けは、とても甘くて。 鼻腔をくすぐる花の香りが、やけにリアルに俺の中を漂い続ける のだった―――。 目が覚めたとき、俺の心は満たされていた。 枕の下に手をやると、昨夜そこに入れておいた1枚のハガキ。 昨日届いたばかりの最愛の人からの―――便り。 『君の誕生日には必ず日本に帰ります。 何か欲しい物はありますか?当日までに考えておいて下さい。 では、会える日を楽しみに。 賀集真吾』 「師匠、早く会いに来て。」 俺の欲しいモノは、貴方だけ――――。 【END】 [後書き] 鉄生君、お誕生日おめでとー!!せっかくのお誕生日記念SSな のに、夢の話でごめんなさい。でもこの夢には一応ちゃんと意味 があるんです!(←言い訳か?)夢は予知夢(?)で、鉄生君の 誕生日に師匠が花束を抱えてやって来るんですよ!!(←ドリー マー/笑) 今気付きましたが、そういえば昨年の鉄生君の誕生日も賀鉄SS を書いたんですよね、私…。おっかしいなぁ〜?別に賀鉄を書こう と決めているわけではないのですが、気付けば手が勝手に(笑)。 とりあえず原作での師匠の再登場祈願ということで(←まだ諦め てませんよ、私は!/苦笑)。 またまたお誕生日SSにお題を使わせて頂きました。いやもう何て いうか……色々本当にすみません(←オイ)。お題を下さった飛月 様、本当にありがとうございました〜vv鉄生君のお誕生日記念SS となってしまいましたが、よろしかったら貰ってやって下さい(もちろ ん返品もオッケイでございます)。 |