「貴方が好きです。一人の人間として。恋愛感情を持って、貴方の事が好きです」 まさか、と何度思っただろう。 この人が自分にそんな事を言うとは思わなくて。 違う、思う事など出来なくて。 真実なのか、それとも暇つぶしの嘘なのか。 ぐるぐると考えていたら既に朝日が昇り。 気が付けば登校時間で、そのうえ居眠りまでして、あんな夢をみるだなんて。 一体どうしてしまったんだろう。 貴方に捧ぐ言葉 「っククククク」 口元を押さえて声を潜めて笑う。 有定のそんな姿をみて秋良は非難めいた目を向ける。 少しだけ赤く染まった頬で秋良に睨まれても、有定にとっては痛くも痒くも無い。 むしろその可愛らしさに、今まで愉快さで出ていた笑いが色濃い艶を含む。 「…笑わなくても良いじゃないですか」 「いえ、別に悪い意味じゃないですよ?」 秋良は今、生徒会室にいる。 それは現会長である有定が呼んだからなのだが、現在生徒会室には有定と秋良 以外いないのだ。 備え付けのソファーにテーブルを挟んで向かい合わせに座った二人、テーブルに は暖かい紅茶とブルーベリーバイ。 それと、数枚の写真。 その写真はなぜか秋良が写っていた。 学校の机に突っ伏し、暖かい日差しの中眠っている姿で。 先日の居眠り事件は、瞬く間に校内に広がった。 なんせあの坂本様が居眠りで午前中をすごしたのだから。 もちろん誰も非難はしない…というか、むしろその事件以降さらに校内全体が過保 護になった。 今までの「坂本様に迷惑を掛けてはいけない」から「坂本様に出来うる限り自由な 時間を」に趣旨が移ったらしい。 「しかし、残念ですね」 紅茶を啜りながら有定がポツリとこぼした言葉に秋良が反応する。 紅茶のカップを持ったまま小首を傾げるさまは、なんとも可愛らしい。 「ぜひとも生で見たかった」 「なっ!オレの寝顔なんて見ても楽しくないですって」 相変わらず自分自身を知らない。 校内でどれほどの人気をさらっているのかも、どれほど博愛を受けているのかも。 いま有定が秋良に見せた写真も、実は売られていたものだ。 既に差し押さえはしてあるが「姫」の写真同様、かなりの人気商品であり滅多に出 回らない一品である。 定期にそっと隠して持って歩いているものもいるらしい。 ふと思う。 気がまじめな秋良が、居眠りなど。 「珍しいですね、何かあったんですか?」 よほどの事があったのだろうか? それとも…。 「…ちょっと考え事をしてたら、朝になってたんです」 「考え事?」 「っ…はい」 気まずそうに視線をそらす秋良に、有定は口角を上げる。 有定はテーブルを一跨ぎして秋良の前に立つと、逃げられないように秋良の両肩 を押さえ込みそっと耳元に唇を近づけた。 「期待…してもいいの?」 意図的に出された甘い声に、秋良がビクリと反応する。 体温が上がっていくのが良く分かる。 「答えは急いでいない、けど。もし、今聞けるなら聞かせて?」 有定は一度両肩を掴んでいた手を放し、座ったまま動けない秋良の足元に膝を付 く。 秋良は困った。 答えが出ていないからでは無い。 出ているから困っているのだ。 オリエンテーリングが終わって間もなく。 今のように生徒会室に呼ばれた秋良は、有定に告白された。 余りにもありえない状況に「冗談ですよね?」と問いかけた秋良を追い込むように 有定は告げたのだ。 「貴方が好きです。一人の人間として。恋愛感情を持って、貴方の事が好きです」 伸ばされた手に反応できなかった。 伸ばされた事にすら気付かず、熱い手のひらが頬に触れてやっと現実に戻された。 そして思わず逃げてしまった。 その後、どうやって家に戻ったのかは覚えていない。 思考の渦に捕まってしまい気づけぱ朝になっていて、学校に来ても居眠りをしてし まう。 その上、夢の中では告白に答え…抱きしめられるなんてっ! これでは答えなど出ていると同じではないか。 夢の内容を思い出し耳まで赤くする秋良の姿に、有定は優しく微笑む。 「ただ一言、言ってくれるだけで良い。貴方が好きです」 たった一言捧げてくれるのならば、きっと…。 「…オレ…オレも、スキです」 きっと、どんなものからでも貴方を守ってみせる。 |