うららかな日差し、朝の授業は眠気を誘うものである。 それは誰であっても同じもので、勤勉な坂本秋良も例外ではなかったらしい。 極上の微笑み 事の起こりは二時間目の授業中、珍しく秋良が居眠りをしていた。 それだけでも意外過ぎて、声を掛けるという勇者はいない。 昨日は生徒会主催のオリエンテーリングがあり、その所為で疲れているのだろうと 教員は五分ほどは見て見ぬふりをしていたが、さすがに十分ほど経つと声をかけた。 「坂本・・・・・っ」 が、諦めた。 うっすらとほほが赤いのは何故だろう? 「…おかしいな」 「確かに、でもまぁ秋良も疲れてるみたいだし?今日ぐらい良いんじゃない?」 結局秋良を起こそうとしたのはその一回のみで、五分の休憩時間に入ってしまった。 「秋良ー?」 流石に二時間続けて居眠りさせると本人から苦情がでるだろう、と亨・裕史郎が秋 良の席に近づきおもむろに顔を覗きこんだ。 その時、二人は硬直した。 ふだん八の字に下がった眉は力が抜けているのか弓なりで、閉じられた瞳は細く繊 細な睫がハッキリと見える。 緩んだ口元は、何か楽しい夢を見ているのか口角が上がっている。 なんと言うか、これでは、教員が起こせなくても無理はない。 ただでさえ、あの坂本秋良が居眠りをしているというのに、加えて眠っている姿のな んと罪作りなものか。 「姫」が目の潤いならば、「坂本様」は心の潤い、聖母マリアも陥落間違い無しの純 粋さと愛らしさ全開の微笑。 なんと言うか…。 「思わず膝を付いて祈りを捧げるか、懺悔したくなるのは何故だろうな?」 目をそらせず乾いた笑いを顔に貼り付ける裕史郎。 「むしろただ見守り続けて欲しいと思うのは何故だろう?」 冷や汗が頬を流れるのを感じながら、寝顔を眺め続ける亨。 本人はいたって普通の一般人だと言い張るが、そんな訳が無い。 存在するだけでかもし出される慈愛のオーラは、眠っていても発揮されている。 この何所が普通だと言うのだろうか。 兎に角。 とても気持ちよく寝ている姿を脳内フォトに収納した二人は、ここでやっと秋良を起こ す作業に入った。 「秋良、ほら移動教室だぞ?」 「…ん」 「そろそろ行かないと、遅れるよ?」 うっすらと開いた瞳は眠気が引かないのか微かにうるんでいて、かすかに上がった 体温の為頬は色付いている。 「とーる?ゆーじろー?」 寝起き独特な舌足らずな甘えるような声音。 そして二人を確認した後。 ふにゃ。 あえて音を付けるとしたら「ふにゃ」と柔らかに微笑んだのだ! いつもの困った笑顔でも、慈愛に満ちた笑顔でも、悟りを開いた笑顔でもなく。 甘く緩やかな笑顔。 あぁ神様!この瞬間を与えてくれてありがとう! 亨・裕史郎と、運良く秋良の顔が見えていた生徒は思わず神様に感謝した。 追伸。 結局秋良は午前中眠り続け、姫二人はずっと付きっきりでした。 |