御鷹統威という人物は、我が息子ながらなかなかに不思議な人物である。
 幼い頃から会社を継ぐために、様々な教養を身につけていった。当時から特に愚痴を零すわけ
でもなく、純然たる事実として自分が会社を継ぎより良く飛躍させていく事に全霊を賭けていると
いっても過言ではないだろう。

 やっぱり不思議、と彼女は思う。




 自分で産んでおいて言うのもなんだが、実に味気ないんだもの。
 祖父に習い海外へ行ってしまった時も、母親の寂しさなんて男達は解ってくれない。

 日本の高校に編入させるという話しも直前に聞き、感動の再会もなく学園生活が始まってしまっ
たのだ。
 さて、ここからが劇的だった。

 幼い頃から英才教育を受けてきたあの子は、勿論様々な挫折を経験していたが学園での生徒
会長の選挙で負けたという報告をしたその姿は、男どもを唖然とさせ見ものだったわ。いままで機
械的に統治していく事を主にして、どんな時でも勝利をもがきながら掴んできたあの子が負けたと
いうのに、幸せそうに笑ったの!

 うふふ、こういう時女は強いのよ。
 唖然としている男達を尻目に「よかったわねぇ」と言ってみせた(厭味じゃないのよ)。それにも笑
うだけで、さして憤慨する様子もなく実に落ち着いていた。
 学園生活も進むと、徐々にあの子の経済理念が変わって行ったのが見てとれた。
 機械のように淡々と進んでいくのではなく、人間味を帯びて丸く循環よくなってきた。比例して
なかなかにあくどい顔もするけど、その姿を見てお義父様は「上に立つものの顔になったではな
いか」と言っていたわ。

 さらに驚かせたのは生徒会長になったって言う坂本秋良くんを連れてきたとき。
 あの子は特に前置きを付けるでもなく。

「一生を共にする」
 なんて簡潔すぎる言葉。そんなんじゃ私はとも角お義父様達は納得しないと思って、ちょこっと
だけパパの主張に肩入れして外堀をざくざくと埋めようとおもったのに…。
 お義父様ってばちゃっかり秋良くんと仲良しでっつーまーんーなーいー。
 
 酷いわっ私せっかくパパを篭絡する手を考えていたのに、お義父様がぱっぱと許しちゃうんだ
もの。
 その上メル友になっているし、ママは寂しくてないちゃうかもしれない。


「ってわけだから、是非秋良くんにはこのドレスを着せてね」
「いつ用意していたんです」
「女のヒミツよ統威」

 どういう繋がりで、ってわけなのかを疑問に思っているらしく、眉間に皺を寄せながらドレスを受
け取る。
 なんでも立食会があり、その同伴者として秋良くんを連れていくらしい……女装させて。

 最初から加担させてくれてもいいのに、全然声を掛けてくれない薄情な息子と義父に釈然としな
いものを感じつつ随分前から目測で作らせておいたドレスを手渡す。
 可愛らしい薔薇の造花をあしらったピンクのドレスは、きっと秋良くんに良く似合う。
 頭の先からつま先まで一揃えにしてあるのに、統威は手袋だけを戻した。
 大きく肩を出し、袖の無いこのドレスには絶対長手袋が似合う。ドレスと同じ生地で誂えた長手
袋、何がふまんなのだろう。



「統威?」
「鎖を送ったんです。手袋をしたら、見えないでしょう?」
 あら、意外とむっつりだわこの子。
「あらあら、まぁ。見せびらかしたいの?」




「ずるいわ!私だって会場で見たいのにぃ!」
「…母さん、母さんには秋良の支度を手伝ってもらいたいので、その時存分に眺めてください」
「違うわ。会場での事を言っているの。でも、まぁ良いわ。仕方が無いから私が妥協してあげるわ
ね統威。ちゃんとエスコートして適度に見せびらかして自慢して、優越感に浸ってきなさいな」

「…」
「あら、なぁに?」
「始、秋良の事を反対していたのでは?」

「馬鹿な子ねぇ。統威が軽々しく一生なんて言葉使うはずが無いってちゃんと解っているわ。なめ
ないでね、私は母親なのよ。反対よりまず統威の心を理解しただけ」
 精々他の人に秋良くんを盗られないようにしなさい。

 そう付け加えてカツラを渡すと、珍しい柔らかな笑顔を見せた。

 秋良くんに当日の感想を聞いてみたけど、やっぱりむっつりよ統威。でも、上手く牽制したみた
いで鼻高々よ。




    大切で可愛い義娘を見せびらかしたい母親の気持ちなんて、男達は解ってくれないのよ。




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