僕の姫 秋良は飾り立てられた亨を見つめた。 気品の良いウェディングドレスを身にまとい、化粧を施された亨はまごうことなき美少女で、贋物の 長い髪が背中を滑るのを不思議な気持ちで見ていた。 「どうしたんだよ?秋良?」 秋良の視線に気付いた亨がいつの間にかこちらを見つめていた。 「え」 「え、じゃないだろ?ぼーっとしちゃってどうしたんだよ」 じっと自分を見つめる亨の目の強さに秋良はあははと笑い、ソファーにそっと座った。 「なんだか気が抜けちゃって。」 濁したような秋良の言葉に一瞬思案し、亨はにこりと笑う。 「エスコート役、ちゃんとやれてたぞ?」 「で、でも。オレなんか場違いじゃなかったかな?姫や会長や統威達に比べるとオレってそんな・・・・」 「ストーーップ」 亨は今も口を動かすことを止める様子のない秋良に不機嫌そうに制止をかける。 「お前なあ、まだそんなこと言ってるのか?」 「だって。」 少々拗ねた様子の秋良を見つめる。 秋良も亨と同じようにまだステージに立った正装のままだ。 細い身にシックなスーツを纏い、しっかりと体の線を見せているからか体格や身長の割りに細い腰 をしているのが良くわかる。 美形ではないのだがいつでも笑んでいて皆を安らげさせる愛嬌のある顔は、今は不機嫌そうに亨 を見上げている。 亨は空気が抜けたように微かに笑い、秋良の額をかるく弾いた。 「あいた・・っ」 「オレ、秋良の顔大好き」 「亨!?」 「いや、顔だけじゃないけどさっ」 頬を染めながら驚く秋良が可愛くて、笑みを深めていく。 「優しくて、秋良のこと見てると俺すごい嬉しい気分になるんだ。」 亨は自分で弾いた秋良の額を撫でてやり、そしてゆっくり近づき優しくかるく口付けを一つ落として やる。 「それに、秋良の姫姿だってすっごい可愛かったぞ!」 「え・・!」 「俺だけじゃない、皆だってけっこうあの姿には喜んでいたようだったしな!」 「そ、そんなこと・・っ」 首を大きく振りながら必死で否定する秋良を見て、亨はまったくもうと言うように笑い、先ほど自分 がつけていたベールをその手に掴み振り上げた。 「え・・」 薄く軽いベールはひらりと亨の手によって秋良の頭にかぶされた。 「亨・・・?」 「ちょっと待ってろって♪」 亨は気分の良さそうな表情で手を伸ばす。その手は秋良の胸に伸び、その胸を飾る薔薇の花を優 しく摘み取る。 その薔薇を優しく秋良の髪に飾ってやる。 窓から入った風にベールがふわりとそよいだ。 柔らかな髪に白いベールがすべり、一輪の薔薇が飾られたその姿は。 清楚で愛らしい、微かに染まった頬がそれを一層引き立てていた。 「この姿は、誰にも見せないよ」 亨はその姿に満面の笑みを浮かべ、赤くなって見上げる秋良の頬を撫でた。 優しく抱きしめて髪を撫でてやると秋良はくすぐったそうに笑う。 「レースがくすぐったい・・!」 くすくす笑いながら秋良が言い、自分からも亨の背に両腕を回す。 「秋良は、俺だけの姫だよ。」 独占欲を孕んだ、しかし優しい声を聞き、秋良は彼の胸に顔を埋めながらちいさくこくりと頷いた。 「うん。」 2007.6.21 |