『プリティ・ブライド』




「それでは、引退セレモニーの打合わせを始めます」

穏やかな生徒会長の声とともに、今年度の姫達のセルフプロデュースによる、ファイナ
ルステージの企画会議が始まった。
愛しい姫達の有終の美を演出するために、各部・同好会から集められた有志達が、ず
らりと会議室の椅子を占めている。


(やはり、ドレスはシンプルで品の良いものがいいな)
(そうそう!それでね、オレとしては飽くまで可憐なイメージでいきたいから、袖はパフ
スリーブで可愛らしく、裾はまんまるく後ろに広がるようにしたいんだよねッ!!)


「まず、姫の登場シーンですが、これは姫達のアイディアによりこの一年の軌跡を振り
返るようなかたちにしたいとー」


(可愛らしいだけでは最後に相応しい厳粛さが足りないな。素材で差をつけないと)
(勿論、安物なんて使わないサッ!滑らかな上質な生地で、下にたくさんドレープを取
って流れるようなラインにすれば上品でエレガントになると思うんだよなぁッ!!)





「できれば歌いたくない、という実琴君からの要望もありましたが…」
「日数的に、他にやれそうなことないだろ。なあ裕史郎?」
「そうだよ。歌は別録りして、当日は口パクでもいいんじゃないか?」
「いけると思います。あまりに音が外れるようだったら、オレ達放送部が一フレーズず
つ録音して、修正して繋げますよ」


(成程。首元には、繊細なレースと、服と同じ素材の純白の小さな薔薇をあしらって欲
しい)
(あー、分かる!分かるなぁッ!プチ薔薇って控えめなのに可愛らしくて、いいアクセン
トになるよね!!それで、ベールなんだけどさー…)


「みんな、ゴメン。オレのせいで何か余計な手間かけて…」
「いいんだよ、実琴。最後なんだから、頑張っていい舞台作ろうな!」
「そうそう。オレ達のためにこんなに多くの人が集まってくれて…って。」



「「真剣に話し合いしてる最中に何やってんだそこの二人ーーー!!」」



「やっぱ、華奢なティアラを付けたいんだよね!☆…って、あれ?」



マジックと共に飛んできた姫二人の怒号により、室内にいる全員の冷たい視線を集め
ていることに気付いた名田庄は、きょとんとした目で辺りを見回した。


本番までの時間が迫り、全体的にピリピリとした雰囲気に包まれた会議室内で、スケ
ッチブック片手に目を輝かせ、うっとりと夢見るような幸せオーラを発散させているその
姿は、あまりにも浮いていた。


「さっきから気が散って仕方ないんですよ!することないなら出て行って下さいッ」
「そうそう、小声にしてるつもりでも身振りが派手すぎて嫌でも目立つっての!」
「てゆーかさ…。なんで御鷹と名田庄先輩が、そんな意気投合してるんだ…?」


殺気立ち、ギャーギャー喚く河野・四方谷両姫に対し、比較的冷静な突っ込みを入れ
る実琴姫。
確かに、威厳・カリスマ性があり理知的なイメージの御鷹と、フリル・リボン・ラブリーな
もの大好きな乙女男子・名田庄とでは共通点皆無である。


「前回の会議で決定した、姫の退場時の演出についての打合わせだが?新作の衣装
の製作状況を確認して、段取りを組むのも私の仕事だ」
「そうそう。ステージの殆どは過去に作った服の使いまわしだから、他にあんまり仕事
ないんだよねー…」


意外にも真っ当な理由を述べて、毅然とした態度を崩さない御鷹。
まだステージの構成は決まっていないものの、衣装の製作に時間がかかるという理由
で、最後の〆のテーマだけはウェディングドレスということで決定・承認済になっていた。


まだ何か言いたげな姫二人の様子を察して、場の最高責任者である秋良が慌ててフォ
ローを入れる。

「そうだね。でも、二人とも私語は謹んで他の皆の報告も聞いておいて下さい。これから
集まる機会も限られているし、ステージの全体を把握できるようにならなきゃ。…ね?」

少し困ったような笑顔でそうたしなめられると、途端に雰囲気がふんわりと和みモード
に染まる。

「はぁ〜い。ゴメンナサイ」
「了解した。…秋良がそう望むのなら」



渋々といった様子で二人が謝罪し、一見片が付いたかのように思われた、その後。



会議が終了したというのに、まだ会議室で密談を交わしている者が二人。


「問題は、どうやって坂本様にドレスを着てもらうかだよね〜」
「ああ。別に秋良自身は卒業とは何も関係ないからな…。心配ない。いざとなったら個
人的に着てもらうことにしよう」
「…深くは聞かないことにするよ!☆オレは、服が作れれば満足だからねッ!!」






放課後の校舎では、日々陰謀が蠢いている。





END




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