手をつなぐオレンジの道 「わかってないなぁ、秋良は。」 誰もがそう言うのだ。 秋良の周りに居る親しい人たちは皆そう言う。 自分のことだ。わからないはずが無いのに、皆秋良に「わかっていない」と言う。 「?」 秋良はそう言う人たちを、いつも不思議そうに見るのだが彼らもしく彼女らは愛おしそうに秋良を 見て、そして何も言わずに微笑む。 夕陽の照らす帰り道。 「もう、なにがおかしいの?」 「ん?秋良が可愛いから。」 隣りに並んで歩く兄が笑う。夕陽に照らされた兄の美しい黒髪が艶やかに瞬き、秋良はその流 れるように揺れるそれに目を奪われる。 美し過ぎると言っても過言ではない美貌の目が細められ、秋良を見つめる。 「春兄・・・またそんなこと言ってさ。オレはいたって平凡な顔。それにオレは男だし可愛くなんか無 いのに。」 「いや!そんなことはない。どんな美男も、どんな美女も敵わないくらい、秋良が可愛くて、とっても 綺麗だ。」 立ち止まって、兄が秋良を見下ろす。やけに真剣な表情に、言われた言葉にさすがの秋良も面 食らい・・・・駆け出す。 定まらない俯き加減の泳ぐ目線、一瞬見れた赤く染まったような頬や恥ずかしそうな表情。見間 違いではない?夕陽のせいでもない? 「あーきら!」 とっさにその小さな手を掴み、そのまま歩き出す。 「は、春兄!手!」 「なに?秋良?」 大きな掌、長い綺麗な指。自分の小さな手が指と指を絡めるように繋がられる。 「は、恥ずかしいよ・・」 「俺は全然恥ずかしくないけどな!」 しっかりと、しかし優しい手の感触に秋良は恥ずかしそうにため息をつき、かすかに笑った。 閑散とした住宅地、辺りは誰も居らず静かな通り。 遠くに重なる放送の声と車の走る音、かすかな遠い笑い声。 まるで自分達二人だけ切り離されたみたいだ。 「秋良?」 黙る秋良に兄が怪訝な顔をして覗き込む。 「ん?なあに?」 「だっていきなり何も言わなくなるから・・そんなに手繋ぐのいやだったか?」 「ううん。」 まるで小さな子供みたいな窺うような目に秋良はまたかすかに笑いゆるく首を振る。 「なんかちょっと不思議な感じがしたんだ。」 「何が?」 「わからない。だから不思議なんだ。でも」 繋いだ手に少しだけ力を入れる。 「なんか、嬉しい感じ。」 瞳を細め、口角をかすかに上げて声を立てずに笑うはにかむようなその顔に、兄も嬉しそうに笑う。 「ねえ、春兄。」 「なんだ?」 「もうちょっとゆっくり歩こうか。」 照れているのか顔を俯ける。柔らかな髪が細い首を撫でるのが見える。 「うん。もっとゆっくり歩こうか。」 「うん。」 同時に繋いだ手にきゅっと力をこめたのが伝わる。 それにまた、かすかに笑った。 おわり。 |