『君の左側』



「どうして、お前がここにいるんだ!!」
机をダンっと勢いよく叩いて、河野は不満大爆発という感じで訴えた。
「そうそう、図々しいよな」
「ふ…二人ともやめようよ…」
四方谷に続いて、実琴が二人を止めるように手をバタバタとさせている。
もういい加減その台詞も聞き飽きた。
諦めたらどうなんだ。
そんな想いを込めて。
「俺は秋良の補佐になったんだ」
何の問題がある。と言いたいのを態度だけで現す。
「”秋良の”じゃなくて、会長補佐だろう!」
それでもブツブツ言っている河野を無視して、書類をこれ見よがしにバンっと威圧するように音を立てる。


河野たちは生徒会とは一切関係ないのに、姫制度で生徒会と関わることが多かったせいか、未だに口をだしてくることが多い。
何かというと文句を言ってくる。全く…はた迷惑な話だ。
私がどうしようとお前たちに何の関係がある。
そう言いたいのを寸前のところで我慢する。
私たちが言い争いをすると、何故か秋良が困った顔をするからだ。
こんな奴らなんか放っておけばいいのに。


「早く帰ってくれないか。仕事の邪魔なんだが」
それでも、二人の時間が減ることだけは許さない。
寮暮らしではない私たちは、二人の時間が極端に短いと思う。
人と居る事なんて煩わしいだけだったけれど。
秋良だけは違う。
「秋良、これに目を通しておいてくれ」
書類を解りやすいように種類別に分けておくのは当たり前のこと。
「ありがとう、統威がまとめてくれると解りやすくて助かるよ」
その言葉だけでまたやる気になってる自分がいる。
こんな自分なんて、今までは考えられなかったけれど。
そっと隣に位置づけて、書類を見るふりをして横顔を盗み見た。


真剣な表情で眺める姿は、こんなことを言ったらもしかしたら怒られるかもしれないけど、とても愛らしい。
それでも気が散るからと、私は秋良の側を離れて河野たちが座っているソファーへと腰掛けた。
「まだ、いたのか?」
腕と足を組み、これ以上近寄るなと言うようにオーラを出す。
「うるっさいな、もう帰るよ」
そう河野が言い捨てると、行くぞ。っという四方谷に続いて、やっとのことで3人は生徒会室を出て行った。


静寂に包まれる生徒会室に、優雅な刻が訪れた。
こういうのは、嫌いじゃない。
もちろん、そこには秋良が居るからで。
読み終えたのか、椅子から立ち上がりこちらに近づいてくる。
「大丈夫、問題ないよ」
隣に座り書類と共にふわっと笑顔を渡される。
それだけでこんなにも幸せになれる。
「そうか、じゃあこれはこのまま進める」
受け取りファイルごと鞄にしまった。
家に持ち帰りもう一度確認して明日まとめる。
「いつも、大変なことばかり任せちゃってゴメンね」
申し訳なさそうに、向けてくる表情も、とても好きだ。
「秋良はそんなこと気にしなくて良い」
私がそう言うと、秋良は安心したような笑みを向けた。
色んな秋良の、表情の中で一番好きだ。
そう思ったら体が勝手に動いていた。
横から思わず抱きしめる。
「ちょっと統威苦しいって」
苦しがる秋良に、それでもこの想いを伝えたくてそっと耳元で囁く。


「これからもずっと君の側にいさせてくれないか」


願わくば…未来永劫、秋良の隣は私でありますように。




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