最近体の調子が悪い。
御鷹統威は憂鬱だった。

巨大財閥次期総帥の座に在る自分に求められる資質。
それは、周囲の期待に見せかけた重圧に他ならず。
それに潰れてしまう事を望む親族が居る事を、教えられ無くとも肌で感じる、敵意に
も似た感情の波。
馴れて麻痺した感覚は、頂点に立つにふさわしい意識を刺激して逆に感謝すらして
しまう。
全てが些抹事だと脇目も振らず自身を戒め努力してきた。
それが視界の狭さに拍車をかけていると気付いた…否、気付かせてくれたのはこの
学校に編入してある人物に出会った事がキッカケだった。

坂本秋良

穏やかで包み込むような雰囲気をした、優し気な容貌。
実家に関係する派手で華美を好む世界に身を置く御鷹には、癒しであり、潤いであ
るこの狭い学校で御鷹の上司にあたる彼。
秋良に因って変わる以前には無かった、心地良いと感じる余裕。
秋良から派生した柔らかい気持ち。
それが今は無いのだ。
何時からだったのか、今となってはわから無い。
『統威?…どうかしたの?』
暖かいと感じられた声に体が硬直する。
無人の生徒会室に響いた気遣わし気なそれが、あまりに近くて声のする方に顔を向
ければ、更に硬直が増した。
『体調悪いんだったらムリしないでね?』
心配だと顔に書いて秋良は居た。
以前、秋良の金魚の糞擬への牽制に、秋良の間近に在ったように。
と同時に陥る体調不良。
顔面紅潮
不整脈
動悸
息切れ
血圧異常
ああ何だというんだ。
秋良が不快である筈無いのにこの体調。
安らぎの具象化である筈の秋良に近寄ればこんな始末。
御鷹は心底参っていた。
『…秋良。私は死ぬかもしれない』
顔を手で隠すよう被い、秋良に隣に座るよう促す。
驚きに目を見張る秋良は、けれど御鷹が話すのを待つように緊張に体を強張らせた。
そんな秋良を前に、少し視線をずらしながら御鷹は自分に起きている現在の症状を
訴えた。
全てを聞き終えると秋良はほんのりと頬を染め、御鷹を見つめた。
『確認したいんだけど、統威はオレの側にいる時にそうなっちゃうんだね?』
『ああ。とりあえず今夜医師に診てもらうつもりでいる』
秋良の視線に心拍数は鰻上りで目眩がし出した。
御鷹は胸を押さえ、秋良を見つめ返す。
その様に秋良は頬を紅潮させ、困ったように笑った。
『多分…お医者様でも治せないんじゃないかな』
汗汗と笑う秋良に、御鷹は落ち込む。
『私は不治の病なのか…』
医療に関しては素人である秋良の言葉を盲信する御鷹に、秋良はもっと困り果てる。
顔は真っ赤だ。
『あのね統威。多分それは…』

草津の湯でも治らない


ああこれが恋なのか




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