今はまだこのままで




「…良」
放課後の生徒会室で、前生徒会から受け継ぎ、まだ未読の書類等を確認中に、
男らしい響く様な低めの声に囁くように呼ばれた気がして顔を上げかけた瞬間、
フワッと後ろから温かい体温を感じた。
気が付くと統威の長い腕の中にそっと抱きしめられていて。
統威は最初から流されずに自分というものを持っていた。
高校に入ってから卒業した兄の影響で「坂本様」呼びされ皆一歩引いた環境の
中、「坂本秋良」をフィルター無しに見て、好意じゃ無いにしろハッキリとした意
思を自分に向けてくれていた。
自分に持っていない要素を兼ね備えたそんな彼に好意を抱いているのは選挙
中からであったし、友人達にも話した(2人にはずれてるって言われたけど)。
ただ・・・同じ様に好意を抱いているはずの友人姫2人に対する想いとは何か違
う気がして。
その彼から触れられるのは亨や裕次郎に抱き着かれるのとは違った感じがし
て、サポートしてくれる様になってからは幾度と無く触れられてはいるが、何か
違うと感じた時から少しは慣れたとはいえ切なく。
「どうしたの?」
そんな胸の内の感じを知られたくなくて問いかける。
返事は無くただ抱きしめられている状況には緊張してしまうが、亨や裕次郎と
の言い合いの最中に触れられる事は多いので慣れてきた。
だが、2人きりの時に触れられるのは・・・。
ただ、問いかけに対し僅かに力が入った腕に安堵を覚えるのも事実で。
「統威?」
なにか言いたそうな感じの彼に再度呼びかけてみても、拍動が聞こえてくるだ
けで。
転校して来てすぐに実琴君達クラスメイトを初め、彼の周りにすぐに人が集まっ
た。
けど孤高で脇目もふらずに真っ直ぐ前を見ている様に感じた統威。
選挙後半から徐々に俺の事を理解してくれてきて、トップをと望んでいた彼に対
し補佐して欲しいという頼みを聞いてくれた。
そんな彼に抱いている想いは、憧れとも友情とも・・・どちらもそうであり、違うと
も感じる。
いつかこの感情に名を付けられた時、統威に伝えられる様に



だけど・・・・
今はまだこのままで




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