有定の耳静に息を飲む音が聞こえた。
事有るごとに注意を惹く、自分の容姿によるどよめきにはなれていたが。
他者の、しかも自分の待ち人がそんな音と共に登場するとは思いもしなかった。



  休日の過ごし方


告白をして、付き合い、そして始めての外でのデートに有定は少々緊張していた。
なんせ、手に入るとは思っていなかった人を手に入れる事ができたのだから。

約束した時間の十分前。
相手の性格を考えると、そろそろ来る頃だろう。
時計をふと見た瞬間、ざわめきが有定の耳に届いた。

普段自分に対するざわめきならば、腐るほど聞いてきたがそれとは少々ニュアン
スの違うざわめきだった。
ほう、と安心したような肩の力が適度に取れた。
そんな声が幾つも重なり、ざわめきとなっていた。

ざわめきと共に登場したのは、有定の待っていた人物。
坂本秋良。

確かに彼だと分かる。
分かるのだが、普段の彼とは違った。

具体的に述べるのならば…。

細やかなレースをあしらった上着や膝丈のスカートだったり。
背中まである長くうねった髪、おそらくウイッグであろうその髪を固定するリボン。
一言で言うならば、秋良は女装をしていた。

「あの、すみません。待たせてしまいましたか?」
「そんな事無いよ。時計みても時間の五分前…で、その格好は?」

可愛らしくていいけど。

「あの、その…今日はオレの見たい映画でいいって、有定会長」
「修也だよ、秋良vv」

呼び方を訂正しただけで、ほんのりと赤く染まる頬。
何度か口の中で名前を確認する秋良。

「修也…さん、がオレの見たいのでいいって、言ったので…」
「うん、言った」
いいましたとも。
これも秋良の好みを知るためだ。

しかし、それと秋良のこの姿は関連があるのだろうか?
「オレ『☆になった少○』が見たいんです」


あっなんとなく納得。

男二人で見るには少々抵抗のある映画だ。
その事でかなり秋良自身は悩んだのだろう。

しかし、そこで有定は妙な事に気付いてしまった。


秋良がいま袖を通している服。
あまりにも秋良にぴったりしすぎてはいないだろうか?
というかむしろ…秋良ようにあつらえてある?

「それで、オレ考えて。名田庄先輩に頼んで」

この服を提供してもらったのだ。








グッジョブっ名田庄!!!!!



今この瞬間だけは、無駄に発揮される妄想癖に感謝だ!!


「…変ですよね」
「すっごく可愛いvv」

一瞬で耳まで赤くなる秋良。
そんなところも可愛いと思いながらも有定は秋良に手を差し伸べる。

「じゃあ、お嬢さん。行きましょうか」
「…はい」

躊躇いがちにのばされた手を優しく攫って、緩やかに笑う。
まだ今日は始まったばかりだ。




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