『君に好きだと言わせたい』






「鉄生クン、お・ね・が・いv」
「ヤダッ!ゼッテェ、イ・ヤ・だっっ!!」
「そんなこと言わないで・・・ね?」
「ヤダヤダヤダッ!ヤダッたら、ヤダッ!!」
 二科(ワイルドライフ)は、いつにも増して賑やかだった。
「ワウッ!ワウワウッ!!」
『犬』もご主人の危機とばかりに恐怖心を押し殺して鉄生に加勢していた。
 ―――のだが。
「犬くん、あんまり僕の邪魔をすると・・・わかってるよねぇ?」
 ペロリと口端を舌で舐める陵刀は、悪魔のように・・・いや、悪魔よりも恐ろし
い。
「クゥーン・・・。」
 あっさりと敗北宣言の犬だった・・・。
「鉄生クンも・・・あんまり聞き分けがないと、どうなるかわからないよ?」
 ウフフと妖しく笑う陵刀に、鉄生は一瞬身震いする。
 しかしこんなことで挫けていては、一生陵刀の『おもちゃ』は確実だ。
「いっ、一体・・・どっ、どうなるってんだよ!?」
 一生懸命声を張り上げるが、どもってしまっては迫力もあったもんじゃない。
「聞きたいの?」
「へ?」
「そんなに聞きたいの?」
「い、いや・・・」
「どーしても聞きたいんだね?」
「そ、それほどでも・・・」
「わかったよ。鉄生クンがそこまで言うなら仕方がないね。」
(いや、だから言ってねぇっつーの!!)
 鉄生の心の叫びは届かなかった。
「聞き分けのない子にはねぇ・・・ステキなお仕置きが待っているんだよv」
 そんなことハートマーク付きで言わないで欲しい・・・。
 鉄生はあっさりと白旗を揚げた。
 これ以上何か言ったら、その『ステキなお仕置き』とやらの恐ろしい内容を知
ることになりそうだったからである。
 きっと多分絶対、陵刀の性格から考えて、ロクでもないことに決まっている。
「もう、いいデス・・・。」
「ふぅ〜ん?じゃあさっきの僕のお願い、聞いてくれるんだね?」
「・・・・・ああ。」
 鉄生はしぶしぶ頷いた。
『ステキなお仕置き』と『陵刀のお願い』を天秤にかけた結果、僅かの差で『お
願い』の方が勝ったらしい。
「じゃあ、早速―――」
「あのぅ、陵刀先生。」
 ウキウキと続けようとした陵刀に、天の助け・・・もとい、待ったがかかった。
「何かな?瀬能さん。」
 陵刀は声をかけた鉄生の有能な助手―瀬能みか―をやんわりと振り返った。
 のだが、目は全く笑っていない。
「そろそろお時間ですので、ここまでということにして頂けませんでしょうか?」
 にっこりと言う瀬能は、なかなかに怖い者知らずかもしれない。
 時計を見ると、あと2分ほどで休憩時間が終わるところだった。
 ちなみに今は、お昼休み中だったのである。
「仕方がないね。」
 あっさりと頷いた陵刀に、あれ?と鉄生が拍子抜けした瞬間、爆弾が頭上に
投下された。
「じゃあ続きは帰りにね?鉄生クンv」
「ハ・・ハハハハ・・・・」
 こうして鉄生の受難は、帰りに持ち越しとなったのであった・・・・・。





 ここは、マンションの1室―陵刀の自宅―である。
 仕事が終わり、こっそりと裏門から帰ろうとした鉄生は、待ち伏せしていた陵
刀にあっさりと拉致された。
 そのまま車に乗せられ、気が付けばここにいる・・・。
 連れて来られる途中の記憶が多少曖昧なことから、もしかして洗脳でもされ
たのではないか?と疑ってはみても、今の状況が改善されることはない。
 もうこうなったら・・・と、ほとんどヤケクソ気味に腹を括る鉄生であった――。



「で、お願いの件なんだけどー。」
「・・・・・」
早速切り出されたこの話題に、鉄生は無意識に体を数センチ後ろに引いた。
「鉄生クン?」
「あーっ、もうっ!わかったよ、わかりました。やればいいんだろ?やれば。」
「フフフ・・・vv」
 やっと鉄生から肯定の返事が聞けて、喜びを隠し切れない陵刀である。
「大丈夫だよ、鉄生クン。君なら絶対似合うからv」
(う、嬉しくない・・・。)
「じゃあ・・・あっ、あったあったコレコレ。」
『はい』と手渡されたのは、見目麗しき赤を基調にしたチャイナドレスであった。
 ここで再度強調しておくと、『チャイナドレス』である。チャイナ服ではなく・・・。
「はぁー。」
 1つ大きなため息を吐いて、鉄生はそのチャイナドレスを受け取り、脱衣所へ
と姿を消した。
 しばらくして―――
 出てきた鉄生は、すっかりチャイナ美人(笑)へと姿を変えていた。
「かっ、可愛いよ。鉄生クンvv思わず食べちゃいたいくらい・・・////」
「ゲゲッ。こんなコスプレもどきで発情するなよ・・・。」
 呆れ半分、恐れ半分で鉄生が言う。
「フフッ・・・じゃあ、はいコレ持って。」
 手渡されたのは、ピラピラの羽扇子。
 それを持った鉄生に、すかさずデジカメが向けられる。

 ピッ、カシャン♪

 数度、角度を変えて撮ったところで、ようやく陵刀のオッケイが出た。
「はい、ご苦労さまー。もうずーっとこのチャイナドレスを着てくれる人を探して
たんだー。念願が叶って嬉しいよv」
「だから何でそれが俺なんだよ?自分で着た方がよっぽどはぇーじゃん・・・。」
 ボソボソとまだ納得のいかない鉄生がツッコミを入れる。
「こういうのはね、自分で着てもちぃーっとも面白くないんだよ?それより好き
な人に着てもらう方が、100万倍楽しいに決まってるでしょ♪・・・ね?」
「あーそうですか・・・・・・って、えっ?す、好きな人って・・・え?ええっ!?」
 あまりの鉄生らしい鈍さに、陵刀は楽しそうに笑った。
 そして急に真剣な表情になって、
「前々からそう言ってるでしょ?僕は鉄生クンのことが好きだってv」
「うっ・・・き、聞いてるけど―――」
「好きだよ、鉄生クンv」
「うっ・・あっ・・・」
「鉄生クンは?」
「へ?」
「君の気持ちを聞かせて?」
「えっ・・えっと・・・だからその・・・・」
「うん?」
「お・・・俺も・・・・スキ。」
 小さく囁くような鉄生の声。
 しかし陵刀の耳には、はっきりとそれが聞こえた。
「鉄生クンッvv」
 陵刀がガバッと鉄生に抱きつく。
 急なことに驚いた鉄生が受け止め切れるはずもなく、2人は床に縺れるように
倒れ込んだ。
「イテテテ・・・」
「大丈夫?鉄生クン。嬉しくって、つい・・・ごめんね?」
「いや、平気だけど・・・。ちょっとどいてくれよ?」
「・・・フフッ、嫌だ。」
「え?」
「こーんな美味しい体勢で僕が何もしないとでも?」
「ったく、しょうがねぇな。」
「愛してるよ、鉄生クンv」
「ああ、俺も・・・。」
 ゆっくりとどちらからともなく唇が重なり合って―――
 あとは2人だけの甘い時間。





 後日談―――
 鉄生の麗しきチャイナドレス姿は、陵刀の『秘蔵!鉄生クンお宝アルバム』の
1ページに加えられたらしい・・・。






                                           【END】









[後書き]
というわけで(?)、88hitして下さった恢璃様のリクで、『なんだかんだで甘々
なお話』(陵鉄)をお送りしました!恢璃様、大変お待たせしてしまって申し訳
ございません(>_<)『なんだかんだ』という部分で思いっきり趣味に走ってしまっ
た紅月をお許し下さい(=チャイナドレス)<汗
一応最後は甘々になってる・・・はずだと思うのですが。こんなんでよろしかっ
たでしょうか?もしよろしければお受け取り下さりませ。『月の螺旋と黄色い箱
庭』での初リクエストを本当にありがとうございましたー!!次の1500hitのリ
クエストも、またよろしかったらしてやって下さりませ。こちらも大変お待たせし
てしまって申し訳ございませんでした(ペコリ)。

書きながら、鉄生クンのチャイナドレス姿を絵で見てみたーいっ!!と何度も
思いました。あううっ、絵描きさんが羨ましぃ〜〜〜っ>< 誰か描いて下さる
方いらっしゃいませんか?<撲殺 すみませんすみませんっ!大人しく妄想し
ておきます・・・(遠)。

創作こぼれ話(?)→このSSのタイトル『君に好きだと言わせたい』は、昔あ
った某アニメの主題歌(のタイトル)からもじらせて頂きました。気が付かれた
方いらっしゃいますか〜?かなり似てるのでわかると思うのですが・・・。原作
は某少年誌で大人気の作品だったので、誰でもご存知かと思いますv以上、何
故かこんなところでクイズでした(笑)。




BACK