―――師匠が好きだ そう気付いたのは、師匠がいなくなった後のことだった・・・。 『夢見る君の面影を』 時折届く手紙の内容は、向こう(オーストラリア)での近況報告が主で。 あとは俺の仕事に対する心配だったり、励ましだったり。 そしていつも最後に添えられている、一言。 『君に会いたいです』 ねぇ、それってどういう意味? 期待しちゃってもいいわけ? それとも単なる社交辞令? わからない・・・。師匠の気持ちがわからない。 でも、俺は決めていた。 もし師匠が日本に帰って来たら、そのときは俺の気持ちを素直に伝えよ うって。 たった一言、貴方に『好きです』と。 夢を見た。 師匠が帰って来る―――夢のような夢。 「鉄生君っ。」 何故か師匠はいつもの師匠じゃなくて。 どことな〜く決意を秘めたような深刻な表情(かお)をしていた。 でも、決意しているのは俺の方。 師匠に会えたら告白するんだって、もうずっと前から決めていたのだか ら。 「師匠っ!」 俺は思いっきり師匠の胸に飛び込んだ。 不意打ちをくらって、師匠の体が仰向けに倒れ込む。 俺の体を乗せたままで。 気付けばそこは芝生の上だった。 R.E.D.の中庭にある、木々茂る人目に付きにくい一角。 「師匠、俺、師匠のことが―――」 馬乗りになりながら、必死で気持ちを伝えようとする俺の口元に、師匠 はそっと人差し指を押し当てた。 シッと黙らせるように。 「師匠・・・?」 俺が告白すらもさせてもらえないのかと、涙ぐみそうになったとき、目の 前の師匠は、困ったように小さく微笑んだ。 そして次の瞬間、その笑みが照れたようなものに変わる。 「鉄生君、私は君のこと―――」 声が徐々に遠ざかってゆく。 「何?師匠、聞こえないよ?師匠っ!師匠ーーーーーっっ!!」 叫びながら、目が覚めた。 起き上がって、ハアハアと肩で息をする俺を、傍らの犬が心配そうに見 上げている。 「起こしちまって、ごめんな?ちょっと夢を見ただけだから・・・」 そう、これは夢だ。 あまりにリアルな―――夢。 でも、俺には確信があった。 この夢は、近いうちに必ず現実のものとなる。 そして――― そのときこそ、さっきの師匠の言葉の続きが聞けるだろう。 良くも悪くも、師匠、貴方の言葉が。 夢を見たあの日から、ちょうど1週間後――― 何の前触れもなく、師匠が帰って来た。 昼休み、いつもどおり昼食を済ませ、中庭で犬と一緒にボーッとくつろい でいたとき、目の前に人の影が映って、俺は何の気なしに顔を上げた。 最初は眩しくてわからなかった相手の顔が、ゆっくりと形をなしていく。 キラリと鈍い光を放つメガネのフレーム、釣り人風の帽子、そして温厚で 日溜まりのように優しいその―――笑み。 「し・・しょう・・・?」 俺は呆然としたまま相手の名前を呼んでいた。 目の前の男は、『はい、そうですよ。』というように、さらに笑みを深くして 俺を見た。 そして――― 「ただいま、鉄生君。」 ごく自然に、俺がもうずっと聞きたかったその言葉を口にする。 本当に・・・本当に・・・どれだけ俺がっ! どれだけ俺が待ってたと・・・・・ 「師匠ーーーーっ!」 俺は師匠に飛び付いていた。 ここがどこで、もうすぐ昼休みが終わろうとしていることなんて、もうどう でも良かった。 ただ、貴方に会いたくて―――ずっとずっと会いたくて。 目の前がぼやけていく。 もっと師匠の顔をよく見たいのに。 そのとき俺は、ようやく自分が泣いていることに気が付いた。 「師匠・・・俺・・・俺は・・・・師匠のことが―――」 「ダメっ!ダメです。お願いですから、その言葉は私に先に言わせて下さ い。」 「し・・しょう?」 「本当はオーストラリアに行く少し前から、自分の気持ちに気付き始めて いたんです。でも私は、怖かった。気付いてしまったときに自分がどうなっ てしまうのか・・・それがとても怖かったんです。だから・・・だから逃げまし た。自分の気持ちに気が付く前に、鉄生君から逃げたんです。そうすれば もう何も恐れることはない、今まで通りの自分でいられると、そのときはそ う思ったんです。でもそれは間違いでした。離れている間、私がどれだけ 君のことを想っていたか、貴方にわかりますか?鉄生君。」 長い長いうわ言のような告白を終えて、賀集は泣きそうな表情(かお)で 微笑んでみせた。 「・・・・・・」 しばらく無言のままでいた鉄生は、次の瞬間、 「そんなのっ!そんなの一緒だろ!?師匠にだって俺が会えない間どれ だけ師匠のことを想っていたかなんて・・・そんなことわかるはずがないっ っ!!」 激しく賀集に詰め寄るように叫んだ。 その瞳にうっすらと涙を滲ませながら。 「鉄・・生・・・くん・・・・」 驚いたように目を見開いて、呆然と鉄生を見つめ返す賀集。 「言って・・くれよ、師匠。早く・・・早く言って・・・そうじゃないと俺―――」 『俺が先に言うよ?』そんな鉄生の言葉は、それ以上続けられることはな かった。 突然、賀集が荒々しく鉄生を引き寄せ、そのまま強く激しく抱きしめたか ら―――。 「すみません、鉄生君。君にそこまで言わせてしまうなんて、私はなんて 臆病で愚かなのでしょう。どうか許して下さい。」 「んなのっ・・・いい。いいよ。だって、それが師匠だもんな?」 そう言って明るく笑った鉄生は、賀集に自然と口付けていた。 あまりに当たり前のようで、それは恋人のキスと呼ぶにはどこか不自然 で。 一瞬のうちに重なった唇は離れていた。 「好きですよ、鉄生君。誰よりも貴方を愛しています。」 賀集が囁くように言い、 「俺も・・・俺も師匠が、1番好き。」 鉄生が鮮やかな笑顔でそう答える。 もう一度、どちらからともなく触れ合った唇はとても熱くて。 それはまさに、恋人のキスと呼ぶに相応しい自然な甘さに満ちていた。 【END】 [後書き] 飛月様、大変お待たせいたしました>< キリリクSSでございます。とりあ えず『両思い』はクリアできたと思うのですが、シリアス・・・でしょうかねぇ ?(←コラ) いえ。こ、これでも当社比ではシリアスなんですヨ!(←居直 り?) すみません、すみません>< 精一杯シリアスになるよう努力はし たのですが、紅月にはこれがいっぱいいっぱいでした(土下座)。 私的には、久しぶりに賀鉄が書けて非常に楽しかったです♪丁寧語(で すます調?)で話す師匠を書くのが、関西弁(地元語)を書くのの次に好 きかもしれません、私(笑)。関西弁は無条件でスラスラと楽しく書けるわ けですが、有栖川の新作を書かなくなり、サイト中心ジャンルがWLと鬼 組になったことで、関西弁を書く機会がなくなってしまったんですよね、実 は。今ひそかに、関西弁キャラを書くのに飢えてるのかもしれません(苦 笑)。だからでしょうか、この間WEB拍手のお礼SSで書いたD−LIVE!! の波戸さん、めちゃくちゃ書いてて楽しかったですよー♪(笑) って、激しく話が逸れてしまいましたね(汗)。失礼しました!! 話を戻しまして、今回のSSでは、告白しようとする鉄生に『待ったをかけ る師匠』(笑)が、自分で書いててちょっと可愛く思えました(←アホ)。年 上の自分が先に言わなきゃ!っていう師匠なりの心意気(?)なのでしょ う、多分・・・(←オイ)。 最後になりましたが、飛月様、リクエストして下さり本当にありがとうござ いましたー!!このようなものでよろしければ、どうぞお受け取り下さい ませ。 |