その日、明凌連(+明凌朝日奈派)の幹部たちの間に、ある噂が
嵐をもたらしていた・・・。





   君に天使の口付けを






 昼休み―――
 いつものように屋上で弁当を広げ始めた大は、何故か周りの空気
がいつもと違うことに少しばかり首を傾げていた。
「あの・・・」
 と大が尋ねるより早く、
「朝日奈っ!!!」
 鬼の形相で声をかけてきた者が約1名。
「宗近さん・・・?」
 呆然と目の前の男を見つめ返す大。
 その驚きに目を丸くした表情の可愛さときたら・・・宗近は一瞬、魂
を抜かれたようにその場で固まった。
「おい!」
 すかさず後ろから手刀(ツッコミ)を入れたのは、導明寺壱茶であ
る。
「うっ・・・」
 と呻いてその場にうずくまる宗近を足で退け(酷)、ちゃっかりと大
の前をキープする。
 どこまでも要領のいい男である。
 そのやり取りをまだ呆然とした様子で見ていた大は、ハッと我に
返り、自分のすぐ近くで倒れ込む宗近を慌てて抱き起こした。
「だっ、大丈夫ですか?宗近さん。」
「うっ・・・イテテテッ。」
「あっ、そんなに急に起き上がらない方が・・・」
「いや、大丈夫だ。・・・って、朝日奈!?」
「え?あ、はい。何でしょう?」
 宗近が驚いたのは、大が今自分に触れている(正確には介抱し
ている)という事実に気付いたからなのだが、もちろん大には通じ
ていない。
 宗近は1人頬を赤く染めながら、
(朝日奈の腕、柔らかくて気持ちいい・・・////)
 などと幸せに浸っていた。
 のもつかの間―――
「おい、コラッ!テメェッ、何羨ましいことしてやがんだ!?」
 壱茶の正直な怒鳴り声が炸裂する。
 あっという間に宗近は大から引き離されてしまった。
 そうこうしているうちに、いつの間にか大の周りには幹部連中が
集まって来ていた。
 その中でも、一番冷静な(ように見える)東堂がまず口を開く。
「朝日奈、お前に聞きたいことがある。」
「あっ、はい。何でしょうか?」
 思わず居住まいを正して東堂を見つめ返す大。
「実は・・・ちょっと聞いた話なんだが・・・・そのぅ・・・えーっとだな・・
・・・つまり・・・・・・」
 一向に本題に入る気配がない。
 段々と俯きながら小声になっていく東堂を見兼ねて、四方がフォ
ローに入った。
「つまりだな、朝日奈が御堂とキスしているのを見た・・・という者が
いるんだが、それは本当なのか?」
 言い切った四方の周りでは、宗近・壱茶・東堂・照宇・神南がそれ
ぞれ頷いていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
 長ーい沈黙の後、大が口にしたのはこの一音だけだった。
 緊張状態で返事を待っていた皆が、一気に脱力する。
「おっ、おいっ!朝日奈。本当なのか?ち、違うよな!違うって、嘘
だって、言ってくれよぉ〜〜〜〜〜っ!!!」
 涙目でそう叫んだのは宗近だ。
「嘘に決まってっだろ!?まだ俺だって何もしてないのに!」
 無茶苦茶なことを言うのは壱茶だ。
「答えてくれ、朝日奈!」
「俺は信じてるぜ、朝日奈。」
 皆が口々に大に詰め寄っていく。
「・・・・・」
 ようやく大の目の焦点があってきた(今まで、目を開けたまま半分
気絶状態だったらしい)。
「朝日奈?」
 照宇の問いかけに、
「・・・あっ、はい。」
 半拍遅れてなんとか返事をする大。
「すまない。驚かせてしまったようだな。」
 なにげに優しい言葉をかけながら、大の頭を撫でる。
「あっ、ズルイ!」
 と壱茶が叫ぶのを無言でサラリと躱すあたり、さすがは兄の貫禄
だろうか。
「大丈夫か?朝日奈。」
 さらに東堂もいたわりの言葉をかける。
「あっ、すいません。もう大丈夫です。」
 なんとか平静を取り戻した大は、1つ深呼吸をしてからゆっくりと
口を開いた。
「あの・・・お、俺と茜がキ・・キ・・・キスなんて、そんなの何かの間
違いですよ!」
 きっぱりと言い切った大の態度は本物で、一斉に皆の顔に安堵
の笑みが浮かんだ。
 のだが。次の瞬間―――
「ハーハッハッハッハッ!俺様と大がキスしていたというのは本当
じゃ。大は俺様のモンだからな。」
 高らかに笑いながら現れたのは、御堂茜その人である。
 一体今までどこにいたのか・・・。
 しかしそんなことをツッコむ余裕は今の皆にはない。
「何言ってやがる!?たった今、朝日奈自身が否定したんだぞ。」
 宗近の言葉は、まさにその場にいる全員の気持ちそのままだっ
た。
 茜はニヤリとお世辞にも人の良いとは言えない笑みを浮かべな
がら、堂々とこう言い放った。
「ハッ、それはウッキーが知らないだけのことじゃ。俺様はいつも大
にキスしておるわ!」
「なっ・・・」
 大が頬を赤く染めながら、茜を睨みつける。
 その目には、『何言ってんだよ?茜。』と覚えのない言いがかりへ
の反論がありありと浮かんでいた。
「何で本人の知らない間にキスなんかできる・・ん・・・だ・・・・って、
まさか!?」
 ハッとなった壱茶の考えは、あっという間に全員に広がっていく。
 本人(大)だけを置き去りにして。
「おお、やっと気付いたか。愚か者どもめっ!俺様がキスしておる
のは、大が寝ているときじゃ。可愛い寝顔が目の前にあったら、そ
りゃ誰でもキスしたくなるに決まっておろーが!」
「なっ、なんて不埒な・・・」
「許せん!」
「男の風上にも置けない奴だ。」
「腐れ外道めっ!」
「おのれぇ〜〜〜っ、ぶっ殺してやるっ!!!」
「くっ、その手があったか・・・」(←?)
 皆怒りにわなわなと全身を震わせ、今にも全員で御堂茜を袋叩
きにするかと思われた、そのとき―――
 最強の男、朝日奈大の絶叫があたりに響き渡った。
「茜のバカーッ!もう知らないっ、お前なんか・・・お前なんか・・・・
絶交だーーーーーっっ!!!」
 そのままバターンッと屋上の扉を開け、ダダダダッと階段を駆け
下りていく大。
 後に残された面々は、ただただ呆然とその後ろ姿を見送るだけ
だった。
「大っ!待ってくれぇ、大君。俺が悪かった・・・・謝るから待ってぇ
〜〜〜っ。」
 情けない声を出しながら、ヨタヨタと後を追いかける御堂茜の哀
れな姿に、さすがの連中も袋叩きにする気はすっかり失せてしま
ったという。


 その後―――
 茜が大に許してもらえたのかどうかは、誰も知らない・・・・・。






                                    【END】








[後書き]
え〜っと、まずは謝らせて下さい(←いきなりコレか!?)。タイトル
と内容が全然合ってなくて申し訳ありません(自爆)。実はこのSS
は、珍しくタイトルから先に決めて書きました(いつもは8割方、本文
が先でタイトルはその後なんです)。そうしましたら、内容がタイトル
からどんどんズレていきまして・・・結果、こんなことになってしまい
マシタ(←じゃあタイトル変えろよ?)。まあそこらへんは、所詮紅月
の書くSSですから、あまり深く考えてはいけません(←オイ)。
 と、いきなり言い訳全開ですが、さらに言い訳は続きます(←殺)
今回は、攻君ズの人数を極力抑えてみました(笑)。 少数精鋭?
(違)と言いつつ、その中でも若干愛に偏りがあるような気もします
が・・・。宗っちとか壱茶とか出番多いですしね(苦笑)。で、茜ちゃ
ん・・・一番美味しい役どころかと思いきや、一番憐れな役どころだ
ったりして?(ホロリ)<いや、愛ですよ?愛(笑) そして大君最強
伝説は続きます(笑)。今時『絶交宣言』なんて、大君以外一体誰
ができるというのでしょう?いや、誰もできない(反語)。
 最後になりましたが、リクエストして下さった南様、本当にありが
とうございました&大変お待たせしてしまい、申し訳ございません
でした>< このようなものですが、よろしければお受け取り下さい
ませ〜。




BACK