『デートの条件☆』 ある日曜日――― 朝日奈大は大型書店に行こうと、1人街中を歩いていた。 雲1つない青空に、太陽が堂々とその姿を現している。 文句なしの快晴に、なんとな〜く心までも晴れやかだ。 (たまには1人で出かけるのもいいよね。) そんな、いつもの連れ―御堂茜―が聞いたら怒り出しそうなことを思って みたりして。 浮かれ気味の大は、よそ見しつつフラフラと歩いていた。 と――― 目の前に人の影を感じて、大は慌てて前を向いた。 が、時すでに遅し。 トスンッ 大は目の前の人物と正面衝突してしまった。 相手はどうやら若い男性で、大よりかなり身長が高い。大の顔がぶつか ったのが、ちょうど相手の胸元あたりだったからだ。 「すっ、すみませんっっ!!」 大が一生懸命頭を下げていると、フッという笑い声が頭上から降ってきた。 「?」 大が恐る恐る顔を上げると、目の前に立っていたのは条南(工業高校) の高里悠介その人だった。 「あっ、高里さん。」 「よう、坊主。何よそ見して歩いてんだ?気ぃ付けねーと危ねぇぞ。」 「あははっ・・・どうもすみません。」 「まあいいけどよ。で、んなところで何してんだ?」 高里の質問に、大は心の中でそっと呟く。 (高里さんこそ何してるんですかぁ?) 「えぇと、その・・・○×書店に行こうと思いまして。ちょっと買いたい参考書 があって。」 「へぇ、エライな。休みの日まで勉強とはね。」 皮肉かと思いきや、意外にもマジな顔で感心している高里である。 「そ、そんなたいしたものじゃ・・・/// それであの・・・た、高里さんは何を?」 大は先程の心の質問を遠慮がちに言ってみる。 「別にこれと言ってねぇんだけどよ。暇だからブラついてただけだ。」 「あはは・・・そうですか。」 残念ながら、実りある返答は聞けなかった。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 会話が途切れ、居たたまれなくなった大が、 「そ、それじゃあ、俺はそろそろ・・・」 と立ち去りかけたとき、不意に高里が大の腕を掴んで引き止めた。 「えっ?」 驚く大に、 「まあ、待て待て。書店に行くなら俺も付き合ってやるよ。」 などと言う。 「はぇ?」 思わず変な声を出して高里を呆然と見つめ返す大。 高里はそんな大を見て、プッと吹き出す。 「ハハッ、面白ぇ顔。」 と言いながら、大にやんわりとデコピンを喰らわす。 「なっ、何するんですかぁ?酷いですよ〜。」 おでこを押さえて、大が上目使いに高里を見る。 ちょっぴり膨れっ面をしてるあたりが可愛らしい。 「フッ・・・悪い悪い。で、俺に付き合うだろう?」 いつの間にか、大が高里に付き合うことになっている。 しかし大は特に疑問に感じることもなく、 「はい。」 と笑顔で返すのだった。 このやり取りが、はたから見れば完全にバカップルのそれだったことに、 2人(特に大)はもちろん気付いてはいなかった―――。 高里は言葉どおり、律儀に大の用事―○×書店―まで付き合い、何冊か 雑誌を購入していた。 書店を出た2人は、近くの喫茶店に入ることにする。 窓際の席に向かい合って座る2人。 高里がアイスコーヒーを、大がレモンスカッシュを注文する。 ウエイトレスが去ったところで、大が口を開いた。 「高里さんは、何を買われたんですか?」 「ああ、これだよ。」 袋から出して見せたのは、車関係の雑誌が2冊とファッション系の雑誌が 1冊。 「うわぁ〜っ、車お好きなんですね。」 大が感心したように言うと、 「ああ、まあな。」 高里は照れたように笑う。 その不意打ちに、大は思わずドキッとしてしまう。 (高里さんって、カッコイイかも・・・。) 少しポウッとなって見蕩れてしまっていた大は、 「どうした?」 という高里の声に、慌てて我に返った。 「あっ、じゃ、じゃあ・・・18才になったら免許取るんですか?」 「もちろんそのつもりだ。っつっても、運転はもう結構してんだけどな。」 ウインク付きで、茶目っ気たっぷりに言う高里。 「えぇっ!?」 本気とも冗談とも取れる口調に、戸惑う大。 「ハハッ。冗談だ、冗談。」 「・・・・・・」 笑い飛ばす高里だが、本当に冗談だろうか・・・?と疑ってしまう大である。 「それより、まだ時間はあるか?」 急に問いかける高里に、大は首を傾げながらも、 「はい。」 と返事をする。 高里は満足そうに頷いて、 「じゃあ映画でも見に行くか?」 と言うのだった―――。 翌日。明凌高校内――― 放課後、いつものたまり場(某教室)に集まった明凌連(+明凌朝日奈派) の面々は、激しく動揺していた。 いや、むしろ憤慨していると言った方がいいだろう。 そもそもの原因は、後藤と神南が持って来たある情報にあった。 2人は昨日の日曜日、街で仲良く(?)買い物をしていた。 そのとき、事件は起こったのである。 「おい、あれ見てみろっ!」 そう言って、神南が指差した方角には、ある人物の見慣れた姿があった。 「朝日奈?・・・と、高里っ!?」 後藤が思わず驚きに目を見開く。 そこ―喫茶店の中―にいるのは、紛れもなく明凌朝日奈派の頭(ヘッド) こと、朝日奈大だった。 そして向かいの席に座っているのが、何故か・・・そう、何故か高里悠介 なのである。 2人は何か楽しそうに話をしている。 「・・・デートみたいだな。」 ポツリと呟いた神南は、自分で言ったその内容にショックを受けてみたり する。 「こ、これは一大事だぞ!」 何を思ったのか、後藤がアワアワとうろたえ出した。 頭の中ではきっと、『明凌連の華―朝日奈大の密会現場を目撃!』など という見出しが踊っていることだろう。 (四校同盟もこれまでかもしれない――――) 2人は同時にそう思ったとか。 再び、現在――― 「ああああーーっ、何故なんだ朝日奈ーーっ!?」 「そんな・・そんな・・・・」 「俺たちの心の潤いが・・・・」 皆はオロオロうろうろイライラ・・・etc.としながら、当人たちの到着を今か 今かと待っていた。 そう、これから事情聴取が始まるのである。 少し経った頃、ついに――― ガラリと扉が開き、朝日奈大が姿を現した。 「遅くなってすみません。」 いつもどおりのプリティスマイルで入って来る。 皆の顔がホワーンと幸せ色に染まった―――のもつかの間、その後ろか ら入って来た人物を見た瞬間、部屋の温度が5度ほど下がった(推定)。 「ったく、こりゃあ一体何の呼び出しだ?」 不機嫌そうに入って来たのは、話題の人―高里悠介―である。 「てんめぇっ!昨日、朝日奈と・・・デ、デートしやがったってのは、本当か !?」 まず切り出したのは宗近だった。 「はあ?」 高里は思わず口をポカーンと開けて宗近を見返した。咄嗟に何を言われ たのか理解できなかったらしい。 「っこの!とぼける気か?」 思わず掴みかかろうとした宗近を制したのは、松尾だった。 ちなみにもう1人の当人である大は、高里以上に間の抜けた顔をしてい た。 「高里さん。実は昨日、街中であなたと朝日奈を目撃した者がいるのです。」 松尾の冷静な話っぷりに、高里はようやく意味を理解して頷いた。 「ああ、なんだそのことか。確かに2人でいたけど、それが何だってんだ?」 「なっ、何だだとぉーっ!?おまえ何の権利があって、朝日奈とデ、デートし やがったって聞いてんだよ!?」 またまた宗近が叫ぶ。しかし必ず『デート』の部分で詰まるのは何故なの か・・・? 「だーからぁ、何で一緒に街を歩いてるとデートになんだよ?」 高里がうんざりした様子で言う。 まあ言ってることは尤もだろう。普通、男同士で街を歩いていても、それ はデートとは呼ばない。 「相手が朝日奈だからだ!」 きっぱりと言い切ったのは、導明寺壱茶だ。 が、その内容はかなりズレていた。 しかし心の中で、『おいおい、そりゃあちょっと違うんじゃあ・・・?』とツッコ んだのは後藤だけだった。他のメンバーは全員、納得顔で『うんうん』と頷い ている。 ―――いいのか!?それで・・・ もはやツッコむ者は誰もいない。 「東堂・・・これでいいのか?明凌連は。」 思わずそう問いかけた高里に罪はない。 しかし明凌連の頭(ヘッド)は、いつものポーカーフェイスに少し微笑を滲 ませながら、 「ああ。」 きっぱりと頷いたのだった。 その隣りでは、同様に女房役の四方が優しく頷いている。 さらにその隣りでは、導明寺照宇までもが。 高里は頭を抱えながら、脱力しそうになる身体を机に寄りかかることで、 懸命に支えていた。 そして、ポツリと一言。 「朝日奈・・・お前も苦労するな。」 今まで事の成り行きを見守っていた(というより、むしろ訳がわからず呆 然としていた)大は、ハッと我に返って高里を見つめ――― 「・・・昨日のあれって、デートだったんですね?」 ものすごくズレたことを問いかけるのだった・・・。 今度こそ、高里が脱力して、その場に蹲ったことは言うまでもない。 【終わり】 [後書き] まずは最初に謝っておかなければなりません(汗)。リクエストの内容は、 『他校生が出てくる話』であって、他校生とのCP・・・ではありませんでし た。思いっきり高里×大になってしまったことをお詫び致します(土下座)。 「他校生」と聞いた瞬間、実は紅月の頭に真っ先に浮かんだのが、高里さ んでした。ええ、単なる趣味です・・・(苦笑)。なんか好きなんですよねぇ、 高里さんvv他校生の中では、けっこう大君にも絡んでる方ですしね、彼。 一応、本来の(?)リクエストである「大総受」という要素も入れたつもりで はあるのですが・・・やっぱりどう見ても高里×大ですよねぇ(遠い目)。 久しぶりにギャグ路線で鬼組SSが書けて、私的にはとっても楽しかった です♪←コラコラ、私だけ楽しんでどうするヨ!? 白音様、こんなのになっちゃいましたが、お受け取り頂ければ幸いです。 (もちろん返品も謹んでお受けします〜。) それでは、リクエストして下さり、本当にありがとうございましたーvv |