マレーの秘め事 秘め事その1―アリス&大龍― 「有栖川さん、あの日のことを覚えていますか?」 火村が席を外したとき、不意に大龍が言った。 「?」 アリスは一瞬不思議そうな顔をし―――それからすぐに『ああ』という表 情で頷いた。 そう、あれは13年前のあの日――― 大龍がマレーシアに帰る前日のことだった。 夜、ささやかなお別れ会を火村の下宿で催した―――その帰り。 2階の自室の窓から手を振る火村と別れ、アリスと大龍は2人並んで歩 いていた。 酒の入った体はいい具合に温まっていて、足取りも軽やかだった。 アリスが何か激励の言葉を・・・と考えているうちに、先に大龍が口を開 く。 「有栖川さん・・・本当は口にするべきかどうか悩みましたが、やはりこの ままお別れしてしまうのは悲しいので、言わせて下さい。」 「・・・何?」 アリスが顔を上げると、そこには思いのほか真剣な大龍の瞳があった。 2人の足が自然と止まる。 「有栖川さん、私は貴方のことが好きです。」 月を背景にして、そう言った大龍は、とても綺麗だった。 アリスは一瞬、言われたその意味も考えずに、ボウッと大龍に見惚れて しまっていた。 「有栖川さん?」 「あっ、ご、ごめん。」 呼びかけに、ハッと我に返るアリス。 その『らしい』様に、大龍が思わずクスリと笑みを零す。 アリスもアハッと照れたように笑った。 静かな夜の中に、2人の笑い声が溶けてゆき――― あとには静寂だけが残った。 アリスは真っ直ぐに大龍を見つめ、ゆっくりと口を開いた。 「大龍・・・君の気持ちは嬉しい。せやけど俺、気になってる奴がおるんや。 だから君の気持ちには答えられへん。」 「ええ、わかっています。でも、それでも言わずにはいられなかった。マレ ーシアに帰る前に、2度目の失恋をするとわかってはいても―――」 そう言って、大龍は微笑んだ。 今まで見た中で、一番儚く美しい笑みだった・・・。 「でも良かったです。その『気になる奴』と上手くいってるようですし。」 そう大龍が言ったとき、向こうから火村がやって来るのが見えた。 「あっ・・・あははは。お、おかげさまで!」 やけくそ気味に返すアリスに、大龍はにっこりと微笑んだ。 13年前と変わらない、美しい笑みで―――。 秘め事その2―火村&大龍― 翌日――― 今度はアリスが席を外したとき、火村が不意に言った。 「大龍、1つ聞いてもいいか?」 「はい、何でしょう?」 「昨日はずいぶんと2人で楽しそうに話してたみたいだが・・・何の話をして たのかと思って。」 「フフッ。気になりますか?火村さん。」 「・・・意地が悪いな、大龍。やっぱり俺絡みだったわけだ?」 「相変わらず鋭いですねぇ・・・。わかりました。別に隠すほどのことでもあり ませんし、お話しします。実は―――」 「ああ、そのことか。」 それが話を聞き終えた火村の第一声だった。 その言葉に、大龍が驚きに目を見開く。 「知って・・・いたんですか?」 「ああ、知っていたさ。大龍がショックを受けていなければいいと願ってい た。・・・いや、それは欺瞞だな。俺は・・・あのときから、いや、アリスに初 めて出会ったときから、ずっとアリスのことが好きだった。だから本当は、 あの日大龍が告白するとわかっていて、2人を見送るのはとても辛かった よ。これが俺の本音だ。」 「火村さん・・・」 淡々と告げる火村とは逆に、大龍の瞳は潤んでいて、今にも泣き出しそ うだった。 (貴方という人は・・・どうしようもなく不器用で、優しい人ですね。) 大龍は心の中でそっと呟く。 「大龍、俺は・・・いや、俺達は、いつでも君の幸せを願っている。」 火村の真摯な言葉に、 「―――ありがとうございます。私もお2人の幸せをいつまでも祈っていま すよ。」 そう言った大龍の瞳から、一筋の雫が流れ落ちていった―――。 秘め事その3―火村の苦悩― 『彼は本当に可愛らしい×××××(声が小さくて聴き取り不能)ですね。 ××××(同じく)で、仕事が××××(さらに同じく)ですよ。』 そんな言葉が耳に飛び込んできて、アリスは首を傾げた。 可愛らしい・・・彼? 「なあ、火村。今、何て言わはったんや?」 こっそり耳打ちするアリスに、火村の態度は素っ気ない。 「アリスには関係ない。」 ムカッ。 「もうえぇわ!これからの会話、全〜部自分でリスニングしたるからな。俺 の英語力を舐めとったらあかんで!!」 (いや、舐めるとか舐めないとかそういう問題じゃ・・・。) 火村は心の中でそっとため息を吐いた。 まさかアリスに先程の会話を聞かせるわけにはいかないだろう。 彼(イポー署の一刑事)が声の低い男で助かった。 なにしろ彼は、こう言っていたのだから・・・。 『有栖川さんって本当に可愛らしくて天使みたいな方ですね。見惚れてし まって仕事が手につきませんよ。』 火村の苦労は絶えない・・・・・。 マレーの秘め事【完】 [後書き] さの様、大変大っ変お待たせを致しました(平伏)。閉鎖した有栖川サイト (しなの&遼’s Banquet Hall)からの持ち越しリクエストがようやく完成 致しました>< 本当に遅くなってしまい、申し訳ございません。もしかするともうお忘れか もしれませんが、よろしければお受け取り下さいませ。 内容は・・・と、とにかく頑張りました!!(苦笑)まず、マレーをもう一度読 み返すところから始め(読むのが遅い紅月は、かなりここで時間がかかっ てしまいました/汗)、やっぱりマレーといえば『大龍』でしょ!と彼を登場さ せることにしたわけですが、そのおかげで(?)見事にリクエストから遠く離 れた内容になってしまいマシタ・・・(遠い目)。 もっ、申し訳ございません。ぶっちゃけリク内容と合っているのは、最後の 部分くらいです・・・よ・・ね?(ダラダラ←冷汗) 遅くなったうえ、リク内容とも外れるという極悪なシロモノですが、私的に いつか書きたいと思っていた大龍ネタが書けて幸せでございました(←撲 殺)。言い訳&謝罪ばかりの後書きですみません^^; それでは、リクエストして頂きまして、本当にありがとうございましたvv |