「俺、あなたには負けませんから!」
 それが、プロジェクトDのWエースこと藤原拓海が、同じくもう1人のエース―高橋啓
介―に言った最初の言葉だった・・・。






   『恋の挑戦者』






「おいっ、藤原。もういっちょ行くぞ?」
「あっ、はい。啓介さんv」
 夜の峠(赤城山)は、賑やかだ。
 その中で、プロジェクトDのWエースは、仲良く(?)走りを競っていた。
 それを微笑ましーく見つめているのは、高橋涼介だ。
 いや、優しい笑みに見えているのは錯覚で、その実、内心では嫉妬の炎がメラメラ
と燃えていたりする。
 確かに、啓介と拓海がお互いに刺激し合い、その結果として成長していくことを望ん
だのは、他ならぬ涼介自身だ。
 しかし、こう毎晩毎晩2人で走り、ときには仲良く話す姿を見せ付けられては、とても
平静ではいられない。
 というか、藤原・・・いつか殺・・・・ピーッ(自主規制)。
 啓介も啓介だ。あんなに無防備に笑ったり、目を瞑ったりしては、危険ではないか!
 あいつにはそのへんのこともきっちりと教えておかねば。
 今夜にでも(早っ)。
 それに・・・藤原は明らかに啓介を狙っている。
 それくらいのこと、俺はとっくにお見通しだ。
 今はまだ、よけいなちょっかいを出すような真似はしていないので、まあ見逃してや
っているが、もしも啓介に何かしてみろ!そのときは容赦はしない。
「クックックッ・・・・。」
 クールな表情で妖し〜い笑いを洩らす涼介を、その性格に慣れきっている史浩を除
くその場にいた全員が、遠巻きーに眺めていた・・・。





「啓介、話がある。」
 家に着くなり、涼介が言った。
「うん、何?」
 先に家に入った啓介が、靴を脱ぎつつ振り向きながら問う。
 少し首を傾げるようなその仕草が、思わず抱きしめたくなるほど可愛い(涼介談)。
「シャワーを浴びたら、俺の部屋に来てくれ。」
「わかった!」
 と言いながら、左手の親指を涼介に向けてビシッと立てる。
 そんな何気ない仕草の1つ1つが愛しい・・・(涼介談)。





「アニキ、入るぜー。」
 啓介が1階の浴室でシャワーを使い、2階の涼介の部屋に上がって来たとき、涼介
はすでにひとシャワー浴び終え、パソコンに向かっているところだった。
 ちなみに涼介が使ったのは、2階の浴室である。
 高橋家には、1階・2階の両方に、トイレ・洗面台・浴室が備わっている。
 さすがは金持ちといったところだろう。
 啓介が涼介の部屋に入ると、ふんわりと石鹸の優しい香りがした。
 思わず啓介が、
「いいにおい・・・v」
 そう呟くと、涼介はクスリと笑って、啓介を手招きする。
「何?」
 啓介がデスクの前に座る涼介に近づくと、涼介はクルリと椅子を回転させ、正面から
啓介を抱きしめた。
「わっ・・・////」
 不意打ちに驚いた啓介の顔が、一瞬で赤く染まる。
 涼介は啓介を抱きしめたまま、
「ああ、本当に。いいにおいだ、啓介・・・。」
 啓介の耳元で甘く甘く囁くのだった―――。





 シャワーを浴びた後の激しい運動で、啓介はまた汗をかいてしまった。
「もうっ、アニキのバカッ!」
 口を尖らせて、そんな悪態を吐く啓介は、もちろん本気ではない。
「いや、すまないな。啓介が部屋に入るなり誘惑してくるから、つい・・・。」
「ゆゆ誘惑!?んなのしてねーって、俺。」
「まあ無意識にってところがお前らしいというか・・・。」
「ちぇっ、やっぱアニキには勝てねぇや。」
 ため息を吐いて、諦めたように言う啓介の可愛らしさに、理性がもう一度ブチ切れか
ける涼介。
 しかしそれを押し止めたのは、啓介の次の一言だった。
「で、アニキ。なんか今さらって気もすっけど、さっき帰ったときに言ってた話って、何?」
 途端に部屋の空気が5℃ほど下がる(推定)。
 ベッドの中で、素肌をくっつけ合っている啓介には、涼介が発す冷たい空気が直に
感じられて、思わず身震いしてしまう。
「ア、アニキ・・・?」
 おそるおそる顔を覗き込んでみると、意外にも涼介は微笑を浮かべていた。
―――のだが、目は全く笑っていない。
「そう言えば、話をするんだったな。ついつい目先の欲に捕らわれ、忘れていたよ。」
(目先の欲って・・・俺!?)
 思わず啓介は心の中でツッコミを入れる。
「まあ話自体は簡単なことだ。啓介―――」
 急に真剣な表情で啓介の肩を掴む涼介。
 啓介も思わず正座してみたりする。
「なっ、何?アニキ。」
「藤原には気を付けろ。」
「・・・は?」
「いや、だから・・・藤原は明らかにお前を狙っている。くれぐれも2人っきりにならない
ように気を付けろということだ。」
「ええっ!?そ、それはアニキの身内の欲目ってやつだろぉ〜っ?」
 啓介は冗談だと思ったらしく、軽く笑い飛ばした。
「それをいうなら恋人の欲目だ。いや、それはいいとしてだな、頼むから啓介、もう少
し危機感を持ってくれ!!」
「危機感って・・・もうヤダなー。アニキってば!俺と藤原がどうこうなるわけねぇだろ
っ?」
(啓介・・・)
 涼介はガクリと脱力する。
 この可愛い恋人には、自分の魅力に対する自覚がまるでないらしい。
(もう何を言っても無駄か。それならなるべく俺が傍にいるようにするしかないな。)
 心の中で固く決心する涼介とは逆に、啓介は妙に楽しそうだったりなんかする。
「アニキってさー、ときどきなんかすげー嫉妬深くなるよなっ♪」
「嫉妬深い男は嫌いか?」
 少し寂しそうに言う涼介に、啓介は首を横に振って、
「んなことねぇよっ!俺としてはアニキに愛されてるんだなぁーって自覚できてスゲー
嬉しいv」
「啓介っ!!」
 気付けば啓介は、またもや涼介に押し倒されていた。確認するまでもなく、今はベ
ッドの上であり、2人とも真っ裸という状況である。
「あっ・・・アニキっ。」
「啓介、今夜は寝かせないぜ。」
 2人の夜は、まだまだ続く―――。





 翌日の夜―――
 啓介は早速、藤原拓海と2人きりになっていた・・・。
「啓介さん、見て下さい。星が綺麗ですよ。」
「・・・ああ。」
 啓介は考えていた。
 何でこうなってしまったのか?と。
 状況を思い返してみると―――こうだ。
 啓介が大学から帰る途中、ハチロクに乗った拓海が不意に現れた。
 しかもご丁寧に、啓介が友人達と別れた直後にだ。
 実は今日は啓介はFDに乗って来ていない。
 涼介の直々の命により、メンテナンス中なのである。
 おそらく拓海はそのことを知っていたものと思われる。
「送って行きますよ。」
 という拓海の言葉に、何も疑わずハチロクの助手席に乗り込んだ啓介だったのだ
が―――それがそもそもの間違いだった。
 その後、拓海は「お腹が空きませんか?」などと言ってはレストランに入り、「あっ、
俺あれが欲しかったんですよー。」と言っては店に寄り・・・etc.を続け、啓介はなか
なか帰してもらえなかったのである。
 痺れを切らして、「俺、もう自力で帰る!」と言ったときには、ハチロクはものすごい
勢いで発車しており、降りるに降りられない状況になっていた。
 そして今、啓介は半ば無理矢理連れて来られた夜の秋名山(頂上付近)で、拓海
と2人きりになっているのであった・・・。





「ねぇ、啓介さん。もうそろそろ俺の気持ちに気付いてくれてもいい頃だと思うんです
けど・・・」
「? 藤原の気持ち??」
「ええ。俺が啓介さんを好きだっていう気持ちのことですよ。」
「へー・・・って、は?えっ!?」
 ボケーッと聞いていた啓介は、サラリと告げられた言葉の重要さに、ようやく気付い
て絶句した。
「やっぱり気付いてなかったんだ・・・。」
 ボソリと呟いた拓海の表情は、夜の闇に隠れて啓介からは見えない。
 しかしある意味、見えなくて正解だったかもしれない。
 拓海の表情は、一言で言って『凶悪』。目の輝きは獣のように鋭く、殺気さえ放って
いた。
「えと、藤原・・・。それってどういう意味で?俺もおまえのこと、仲間として、ライバル
としてなら、す、好きだぜ?」
 ちょっとおそるおそる問いかける啓介は、すでに拓海に主導権を持っていかれてい
た。
「そんな言葉でごまかすつもり?」
 拓海の口調が変わった。
 そして―――
 不意をついて、啓介に足払いを喰らわせる。
「うわっ。」
 と悲鳴を上げて、啓介は草むらに倒れ込んだ。
 慌てて起き上がろうとした啓介の上に、拓海が圧し掛かってくる。
「ちょっ、ちょっと待っ・・・」
 最後まで言わせず、拓海は噛み付くように啓介にキスをした。
「んっ・・・・んんっっ・・・・・」
 どれくらいの時間が経ったのか―――
 ようやく解放された啓介の体からは、完全に力が抜けていた。
「ハア・・ハア・・・」
 仰向けに倒れ込んだまま、肩で息をする啓介の上には、熱のこもった瞳で見つめる
男の姿。
 そうして―――
 再び拓海が、今度は啓介の首筋に唇を寄せたところで、状況は一変した。
「あっ。」
 という声が上がり、
「!?」
 急に体が軽くなった啓介が、慌てて周りを見回すと、拓海が向こうの草むらに倒れ
込んでいた。
「藤原っ!?」
 なんとか残った力を振り絞り、体を起こした啓介が見たものは―――
 藤原拓海の傍で仁王立ちしている兄―涼介の姿だった。
「あっ、アニキ!?」
 驚きに目を見開く啓介に、振り返った涼介は優しく微笑んで、こう告げた。
「大丈夫か?啓介。藤原はこのとおり始末しておいたから、安心してくれ。」
(ええぇーーーっ!?)
 安心どころか、恐怖でもう一度草むらに逆戻りする啓介だった・・・。





 涼介のFCで自宅に戻った2人は、昨日のように互いにシャワーを浴びてから、涼介
の部屋で一夜を明かすこととなった。
 昨夜以上に散々責められ、泣かされた啓介は、声も掠れて体も指1本満足に動かせ
ないような状態である。
「アニキ・・・」
「何だ?啓介。」
「よかったのか?藤原をあのままにしておいて・・・」
「ああ、構わないさ。啓介にあんなことして・・・あのくらいですんで感謝してもらいたい
くらいだ。」
「ハ・・ハハハ・・・」
 啓介はゾッと背筋が凍えるのを感じた。
(アニキってば、マジこえーーっ!)
「でもアニキが『始末した』って言ったときは、驚いたぜぇ。てっきり殺しちまったのかと
思った・・・。」
「フッ、バカだな。そんなことを俺がするわけないだろう?死なない程度の加減はわき
まえているさ。」
「ア・・アハハハ・・・」
(やっぱりアニキって・・・・以下省略)
「でもこれでわかっただろう?俺が危機感を持てと言った訳が。」
「うん、わかった。ごめんな?アニキ。」
「いや、わかってくれればいいんだ。」
「アニキ・・・」
「啓介・・・」
 ぎゅっと抱きしめ合って―――
「あっ、そう言えばアニキ。なんで今日、秋名山なんかにいたんだ?」
「・・・まあそれは企業秘密だ。」
「ええぇーーーっ!?何それ?ズルイぞ、アニキ。」
「フッ、そんなこと気になるのも今のうちだ。」
「え?」
「啓介・・・」
「あっ、ダメ・・だって・・・アニキ。さっきあんなに・・・あんっ・・・ヤッ。」
「啓介、愛してるよ・・・。」
「あっ・・・アニキ・・・俺も・・・・」
 こうして2人の熱く甘い夜は、まだまだ続くのであった―――。





 翌日―――
 啓介が昨夜の疑問(涼介の『企業秘密』について)をすっかり忘れ去っていたこと
は、言うまでもない・・・・・。






                                               【END】










[後書き]
花火様、大変大変お待たせいたしました(土下座)。閉鎖したDサイト(SEVEN VO
YAGE)からの持ち越しリクエスト、ようやく完成でございます。閉鎖してから既に半
年以上が経過しており、もしかするともうお忘れかもしれませんが、もしよろしければ
お受け取り下さりませ。内容に関しましては、遅れた分内容の濃い物を・・・と頑張っ
たのですが、いつもどおりの作風(ギャグ/汗)になってしまいました>< あうあうっ、
もも申し訳ございません。涼啓でここまで拓ちゃんが絡むものを書くのは初めてで、ち
ょっと方向性を間違ってしまったかもしれませんが、本人、大マジメに書きました(苦
笑)。心意気だけでも汲み取ってやって頂ければ嬉しゅうございます(無理っぽい)。
あと・・・涼ちゃん黒くってすみません。啓ちゃんのこととなると、うちのアニキは怖いで
す(笑)。それでは、言い訳多くて失礼しました(汗)。リクエストして下さり、本当にあり
がとうございましたー!!




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