073.煙
サブタイトル 『くすぶる想い』 by紅月しなの
ワイルドライフ : 賀鉄
「あれ?師匠ってタバコ吸うんだ?」 ――あれはいつのことだったろう? 「うん、昔はね。今はたまにしか吸わないよ。」 ――そう、あれは確か・・・ 「へー、なんか意外。」 ――確か師匠がオーストラリアに行く少し前のこと。 「そうかな?これでも昔はヘビースモーカーだったんだよ。でも動物たちと接するよう になってからは、やっぱりね。」 ――初めて師匠がタバコを吸う姿を見たあの日。 「でも、今吸ってる。」 ――俺は・・・ 「だからたまに、だよ、たまに。たまーにこう1本吸うとね、気分がスーッと落ち着くん だ。」 ――俺は師匠に・・・ 「へー。師匠でもイライラしたりすることあるんだ?」 「フフ。」 俺の感心したような声に、師匠は楽しそうに笑った。 そう。あの日俺は・・・師匠に告白されたんだ。 「鉄生君は、タバコ吸わないんだね?」 フーッと煙を吐き出しながら、師匠が言う。 「おぅ!俺は正しい不良だからな。」 自信満々に言い切った俺に、師匠はクスリと優しい笑みを向けた。 「鉄生君らしいね・・・。」 (よくわからないけど、褒められたことにしよう。) そう俺が思ったとき、師匠が突然切り出した。 やけに苦しそうな口調で。 「ねぇ、鉄生君―――」 「えっ、何?」 「もう君は、僕がいなくても十分やっていけるよね?」 「えっ!?そ、それってどういう・・・?」 「うん。実は・・・今度牧畜協会からのお誘いでオーストラリアに行くことになってね。」 「ええっ!?そ、それっていつ?」 「1週間後。」 「う・・そ・・・だろっ?そんな急に・・・」 「ほんとなんだ。なんか鉄生君には言い出し難くって、ね。」 「いやだ、俺。1人なんて、無理。ぜってー(大学)受かんねぇよ。それに万が一受か ったとしても、俺、師匠がいねぇとやっていけないよ!」 「・・・そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど。でも、ダメだよ。君はもう、十分1人で やっていける。もっと自信を持って。」 「そんなこと言っても、俺・・・。師匠―――」 いつの間にか、俺は半泣き状態になっていた。 潤んだ瞳のまま師匠を見上げると、戸惑ったような困ったような、そんな師匠の視 線とぶつかった。 「・・・・・鉄生君。本当は何も告げずに行くつもりだったんだけど・・・。でも君のそんな 顔を見てしまったら、ダメだね。決心が一瞬で崩れ去ってしまった・・・。」 そう言って、自嘲気味に笑う師匠の真意がわからない。 「?」 「鉄生君・・・」 次の瞬間、俺は師匠に抱きしめられていた。 「なっ、なっ・・・何すっ・・・・・」 俺がとっさに押し退けようとすると、師匠はますます苦しそうな表情で、俺の耳元で 囁くように言った。 「お願いだから、このままで聞いて。」 その声は、まるで魔法の呪文のように俺を金縛り状態にした。 おとなしくなった俺に微笑みかける師匠の表情は、何故かとても悲しげで――― 「師匠?」 俺はなんだかとてつもなく不安になっていた。 「鉄生君、僕は君のことが好きです。とてもとても好きです。受け入れて欲しいなんて 言いません。ただ、君のことを愛している人間がいることを知っていて欲しかった・・・。 僕は遠い空の下から君のことを見守り続けます。」 「しっ・・・しょう?」 俺はまさか師匠に告白されるなんて思ってもみなくて、とっさに何も言うべき言葉が 見つからなかった。 ただただ驚きに目を見開く俺を、師匠はいつも通りの優しい眼差しで見つめていた。 「無理に何かを言おうとしなくてもいいんですよ。・・・そうですね、もし僕が日本に帰っ て来るようなことがあれば、そのときに君の正直な気持ちを聞かせて下さいますか?」 俺は、崇高な儀式ででもあるかのように、「はい。」と師匠に誓いの言葉を返した。 「ありがとう。」 師匠が微笑む。 俺もつられて笑った。上手く笑えたか自信はなかったけれど・・・。 そのうち、師匠の顔が近付いてきて――― 俺はとっさにキスされる!と思ったけれど、拒もうという気は起きなかった。 そのかわりに、ぎゅっと目を閉じる。 押し当てられた唇から注がれたのは、師匠の気持ちとタバコの煙。 『もし僕が日本に帰って来るようなことがあれば、そのときに君の正直な気持ちを聞 かせて下さいますか?』 俺の心の奥底では、今もあのときの煙がくすぶり続けている・・・・・。 【END】 あうぅー。NGですね、コレは・・・(遠い目)。 まずは、2人とも偽者くさくてごめんなさい(>_<) そして、久々の『一人称』に玉砕しまし た・・・。もうずーっと三人称でしか書いておりませんでしたもので、一人称の書き方が わからなくなってしまってました(アホすぎ)。はっきり言って、もう10年くらい一人称で 書いてなかったような気がするのは、気のせいでしょうか?(苦笑)<でも多分マジで そうです(痛)。でも今回どーしても鉄生君の回想・・・という形にしたかったもので、無 理矢理一人称にしてしまいました。人間慣れないことをするもんじゃないですね。反省 です!あと、賀集師匠が『タバコを吸う』というのは、私の中の勝手な妄想です。そん なの絶対違う!と思われる方もいらっしゃると思いますが、どうかお許し下さいませ。 何故かお題の『煙』というのを見て、賀集師匠しか思い浮かばなかったんです。変で すよね?普通は火村(by.有栖川)とかのハズなのに・・・。 |