002.階段

サブタイトル 『夢の後遺症』 by紅月しなの

                                       ワイルドライフ : 陵鉄


 階段を駆け上がる。
 どんどん駆け上がる。
 さらにどんどんどんどん駆け上がって―――それでも出口は見えない。
 息が上がる。
 苦しくて、足がガクガクで、それでも階段は終わらない。
 もう止まってもいいだろうか?
 そう思っても、足は勝手に動き続ける。
 何故こんなにも頑張ってしまうのか?
 その答えは、ただ1つ。


『追いかけてくる存在があるから。』





 ピピピピピピピ・・・・・・
「んー・・・?」
 岩城鉄生の朝は、目覚し時計の音から始まる。
 ちなみに今までの人生の中で、1度も目覚ましのお世話にならずに起きたことはな
い(自慢にもならないが)。
 ゆっくりと起き上がり、掛け布団の上に正座する。
 今暫し、完全に目覚めるまでのウォーミングアップ(?)が必要だ。
 まだゴーグルをはめていない金髪をクシャリとかき回し、『うーんと・・・』と寝ぼけた
頭で考えたのは―――さっきまで見ていた『夢』のこと。
 確か自分は何かから必死に逃げていた。
 捕まったら最後、とんでもなく恐ろしい目に遭う・・・確かそんな恐怖心に駆られてい
たように思う。
 まあ、夢だけど。
 だが夢にしては全てがリアルだった。
 階段を駆け上がるごとに蓄積されていく疲労の度合いも。
 追ってくる『何か』の異様なまでの存在感も。
 あれは誰だったのだろう・・・?
 そう、あれは確かに自分の知っている人物だった。
『うーん・・・』としばらく頭を悩ませていた鉄生は、もっととてつもなく重大な問題に気
付いた。
「うわぁーーっ、んなことやってる場合じゃねぇっっ!ち、遅刻するーーーっ!!!」





「お・は・よ。鉄生クンvv」
 相変わらずハートマーク付きで鉄生の耳元で囁く男は、ご存知『陵刀司』(年齢不
詳/笑)。
 鉄生の直属の上司で、絶対眼力を持つ天才獣医師である。
「何が『おはよ』だよ。今何時だと思ってやがるんだ!?」
 鉄生がそう言ったのも無理はない。
 今はお昼時。しかも場所は食堂なのだから。
「いやーごめんね?昨日読書に耽ってたら、いつの間にか朝になってて、それから
思わず寝ちゃったんだよねぇ。」
 悪びれた様子もなくそんなことを言う。
 今頃出勤してきたにしては、いい態度だ。
 鉄生は一瞬、「一体何の本読んでたんだよ?」とツッコミそうになったのだが、その
答えを聞くのはあまりに恐ろしいような気がして、そっと心の中だけで呟いておいた。
 しかしそこはそれ、絶対眼力が見逃すはずもない。
「何?鉄生クンvv何の本読んでたか気になる?」
 ニヤリと嫌な笑いを浮かべる陵刀に、
「なっ、ならないならない!!」
 ゾッと背筋の寒くなる鉄生である。
 聞いてしまったら最後、何をされるかわかったもんじゃない(経験談)。
 一瞬、チッと陵刀が舌打ちしたような気がしたが、一体何を企んでいたことやら・・・。
『ギリギリセーフ』と思わず胸を撫で下ろす鉄生であった。
「いっただきまーすvv」
 いつの間にか鉄生の横に座って、Aランチ(今日はハンバーグ定食)を食べ始める
陵刀。
 反対側にひっそりと座っていた瀬能が、「すっ、素早い!」と心の中でツッコミを入れ
るほどの早技であった。
 鉄生は自分はそろそろ食べ終えるし関係ない。そう思っていたのだが―――ふい
に今朝の夢が脳裏に蘇ってきた。
 今度は追ってくる人物の顔もはっきりと思い出していた。
「あーっ!!!」
 と思わず声を上げた鉄生に、右隣の瀬能が、「ど、どうかなさったんですか?先生。」
と驚きにイスから腰を半分浮かせながら問いかけ、左隣の陵刀が珍しく目を丸くして
むせながら、「てっ、鉄生クン!?」と叫んだ。
「あっ、わりぃわりぃ。」
 自分でもちょっと唐突すぎたかな?と反省する鉄生であったが、それよりも何よりも
夢の内容があまりに恐ろしすぎた。
 鉄生を追っていた人物。
 それは―――『陵刀遣威』その人だったのだ。
 陵刀(息子)だけでも追われる毎日にウンザリだというのに、何故あのような夢まで
見なければならないのか?
 半分泣きそうな心境に陥った鉄生に、陵刀がさりげなく問いかけた。
「どうしたの?鉄生クン。よかったら話してみてvv」
 ショック状態で思考能力が低下している鉄生は、自分があの悪夢について話すこと
がどういう事態を招くのか全くわかってはいなかった。
「実は――――」
 と簡単に話してしまった鉄生に、明日はあるのか!?
 案の定、話を聞きながら、ピキピキと陵刀の眉間に皺ができていく。
「へーえ。ふーん。あっ、そう。」
 なにやら恐ろしい相槌の打ち方に、ようやく鉄生も気付いたが、もはや時遅し。
 話し終わった鉄生にググッと顔を近づけ、陵刀はこう言い放った。
「じゃあ何かい?君は毎日君に愛を囁いているこの僕より、1・2回会っただけの父の
が気になると、そういうわけなんだね!?」
 オイオイとツッコミたい箇所はいくつかあれど、怒りまくっている今の陵刀にそんなこ
とを言える者はいない。
「なっ、何言って・・・たかが夢に1回出てきたくらいで大袈裟なんだよ。」
「大袈裟なもんかい。夢はその人の願望を表すんだって、君知ってるかい?つまり君
は父にこそ追われたいと思っているということさ。この僕じゃなく、父にね・・・。」
 最後の方は、掠れて消えそうな声だった。
 自分で言いながら、その内容にショックを受けたのかもしれない。
「あのさー、陵刀。おまえ肝心なこと忘れてるって。俺は逃げてたんだぜ、必死こいて
さ。追われたいなんて、マゾじゃあるまいし、ありえねぇだろ、ふつー。まあ変な本ばっ
か読んでる陵刀らしい発想っつーかさ。俺は追われるくらいならストレートに言葉で欲
しいと思うタイプだし、おまえの考えってぜってー飛躍しすぎだろっ。」
 フォローのつもりだったのだろう、鉄生なりに精一杯の。
 しかし内容が悪かった。鉄生の言葉を聞いた途端、陵刀の顔つきが変わった。そり
ゃもう180度完璧に。
「なになにっ?鉄生クンって言葉で愛を表現されたい人なの?」
「へ?い、いや、その・・・・・」
 口篭る鉄生に、陵刀は極上の笑みを浮かべて、こう囁いた。


『愛してるよ、鉄生クンvv』


(ゲゲゲッ、しっ、失敗した―――。)
 岩城鉄生、撃沈。






☆『夢の後遺症』こぼれ話☆


 後日、陵刀が大量の写真を持って来た。
 その全てが、自分ただ1人が写っているモノ。
「何だこれ?」
 と物珍しそうに手に取って見る鉄生に、陵刀はにっこりと笑ってこう言った。
「それ、鉄生クンのために持って来たから、ぜーんぶ持って帰ってね?」
「へ?」
 鉄生が思わず手に持った写真をパタリと床に落とす。
「それだけあれば、今晩から僕の夢だけ3本立てくらいで見れるよ、きっと。あっ、ちゃ
んと全部枕の下に入れるんだよ?いいね?」
「・・・・・・・・」
 もはや鉄生の意識は風前の灯火であった。


 数秒後―――
 バタリという音が、二科の一室から聞こえてきたという・・・・・。






                                               【END】








・・・・・すみません、色々と(バタリ)<鉄生のマネして倒れてみたりして(殴)。
お題は、『階段』・・・ですよね?(汗)なんか最初の方にちょこーっとしか出てない気が
するのは、気のせいでしょうか?き、気のせい・・・ですよ・・ね?(ビクビク)しかも夢オ
チだし(ボソ)。とりあえず夢でも陵パパを出せて幸せでした(←それが本音か!?)。
最初、シリアスに書こうとしてたなんて、口がさけても・・・・・(そのパターンは、もうい
いって)。しっかしこんなに長くなるなんて、自分でも予想外でした。それもこれも勝手
に動く陵刀センセのせい(笑)。些細なことで嫉妬する陵刀センセが好きですvvそして
おバカで可愛い鉄生クンはもっと好き(笑)。
その後、鉄生クンは毎日陵刀センセに『愛してる』攻撃を受けているのでしょうか?頑
張れ、鉄生クン!!負けるな、鉄生クン!!君の未来は・・・明るいかもしれない(自
信なさげ)<オイ




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