:続 可愛いなんて言わないで:


「はぁ……」
 重苦しく響いたそのため息に、ハーモニーがよってくる。
「どうしたのさ?」
「んー…俺ってさ、そんなに男らしくない?」
『うん』
 思わずそう言ってしまいそうになるのを堪えながら、ハーモニーは首を横に振った。
「そんなことはないと思うけど? どうかしたの?」
「それがさ、」
 みのるに似た、可愛らしいとしか表現できない容姿に、わずかに苦々しさを交えた信彦は、つ
い先日聞いてしまった事柄をハーモニーに訴えた。
「親父とマリエルちゃんのおばさんが…俺のこと可愛いとか連発するからさぁ…俺、別に可愛く
ないよな?」
 むむっと眉根を寄せ、唇を尖らせた信彦は彼らの言ったように『可愛い』としか思えない。
 返答に窮したハーモニーは、元々嘘というものにあまり慣れていないこともあり、正直に自分
の思ってることを言ってしまったほうがいいかもしれないと思う。
 こう見えて、信彦は存外に鋭い子供だ。下手な隠し事をするよりは思っていることをちょっとし
たオブラートに包んで言ってしまったほうがいいとハーモニーは判断した。
「あー…信彦?」
「何?」
「信彦、みのるに似てるって自覚ある?」
「…自覚はないけど理解はしてる。皆そう言うから」
「じゃあ、みのるが可愛いのは分かる?」
「? まぁ、それなりに」
「みのるが可愛いって事は、みのるに似てる信彦も可愛いって事で、正信たちの言ってることも
あながち間違いじゃないんじゃないかなぁ」
「…えぇ〜」
 非難するようにぶーぶー言っている信彦はそれ自体可愛らしい。


 そういう事するから可愛いって言われるんじゃないの?


 ハーモニーはそう思いながら、それを言葉にはしなかった。信彦を気遣ってか、それとも言っ
た後での信彦を想像してやめたのか。恐らくは後者であろう。信彦は本気で怒らすと怖い。
「どーしよっかなぁ…オラトリオなら知ってるかな?」
「何が?」
「男らしくなる方法」
「…はぁ!?」
 唐突に言われてハーモニーは大袈裟に驚いた。一体何を言い出すのだ。そう思っているのが
ありありと分かる瞳で信彦の横顔を見つめるが、今の信彦は何かを考えているのか、そのあか
らさまな視線に全く気付きもしなかった。
 この辺り、夢中になると他が見えなくなる正信との類似点が伺える。
「…うん。聞いてみよっと」
 思い立ったら吉日。悩める青少年はすぐに行動を開始した。



 数日後、オラトリオは正信に何故か怒りを向けられていた。
 怒鳴り散らすでもなく、ただただじとっと睨み付けているのだ。これは相当に怖い。
「…あの、さ? 俺何かしましたっけ?」
「そうだね、君はなーんにも悪くないよ」
「なら、何でそんなに睨み付けてんの」
「…信彦が倒れたのは知ってるか?」
「もちろん。貧血だって? 大丈夫なのか?」
「大丈夫は大丈夫だが、原因、何だと思う?」
「さあ?」
「…走ってたんだよ」
「は?」
「だから! このあっついシンガポールで走ってたんだっ」
「なにぃぃ!? 何でそんなこと!?」
 心底驚いたのだろう、目を見開いて彼は問うた。
 そんなオラトリオを、正信はまだ睨んでいる。
「お前のせいだろう」
「何で!」
「何日か前、信彦はオラトリオに会ったらしいね」
「あ? あぁ、そうだけど」
「その時、何を話してたんだい?」
「えーっと、確か信彦が『男らしい人ってどんな人?』とか聞いてきたから、とりあえず筋肉の付
いたごつい男って答えといたけど… って、まさかそれで?」
「そうだよ。そのせいだ」
 あちゃーっと言いながら天井を仰いだオラトリオは、そういえば、とまたも顔を正信の方に向け
た。
「何で信彦はそんな事を?」


「可愛いとか言ったから」


 聞こえてきたのは少年の声。
「信彦」
「やほーオラトリオ」
「やほーって…体大丈夫なのか?」
「うん。軽い貧血だったし」
 にっこりと笑う信彦。その顔を見て、オラトリオは少年が元気なのを見て取った。
「そうか。そりゃよかった。で?」
「あぁ、それね。何か、ちょっと前に親父とマリエルちゃんのおばさんが俺のこと可愛いとか連呼
するから、男らしくなってそんな事言われないよーになりたいな、と思って」
「えぇー信彦はそのままでいて欲しいな。ごつくなってどうするんだい」
「だって、可愛いとか言われるの嫌じゃん」
 言いながら拗ねた顔をするのは反則ではないかとオラトリオは思った。
 大体、可愛いといわれるのは信彦が可愛いからだろう? いいじゃないか。開き直っとけば。信
彦がごつくなったら嫌だなぁ…せっかくの俺の潤いなのに。
 そんなことをつらつらと思いながら、彼は目の前で繰り広げられている親子喧嘩を見る。聞い
ている限りでは信彦の優勢だ。
 この子供は変なところで聡過ぎる。今だって、何を盾にすれば正信に最も効率的か、分かって
やっているのだろう。
「もしこれからも俺の事可愛いとか一言でも言ったら、絶対筋肉隆々のマッチョになってやる」
 静かに、それでいて熱意を込めて信彦は正信に言い放った。
「う゛…」
「分かった? 親父?」
「……」
「…筋肉隆々のマッチョになってやる…」
「っ! 分かった…だからそれはやめてくれ…」
「よし」


 オラトリオは思った。
 信彦って凄い。







hizumi様のお言葉 16500hitのキリリク。↓の続きです。信彦くんの苦悩というか
何というか。信彦はカッコ可愛くあって欲しいなぁ。
(ちなみに「↓」というのは、15000hitのキリリク小説「可愛い
なんて言わないで」を指して仰ってます:補足〈by紅月〉)
紅月の感謝の気持ち hizumi様、早速続編を書いて下さって、本当にありがとうご
ざいますー(>_<) 今回も信彦君が・・・かっ、可愛すぎっっ!!
大好きなハーモ兄さん(笑)やオラトリオまで登場してて、感激
の嵐でございますvvもちろん真の勝者は信彦君ですが、ある
意味ハーモニーも最強かも?と思う今日この頃。さすがは最古
参!!(笑)信彦君に言い込められる親ばか正信さんが、とて
も愛しかったです(フフ)vv hizumi様、素敵にツボな小説を本
当に本当にありがとうございましたー!!










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